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1ー1

 前世の記憶を覚えてる。そう言ったら、あなたは笑いますか?


 あたしは、あなたに命を救ってもらったあの時の子猫なんです。


 生まれ変わって、異世界に来て、猫耳族として育ち、とっくの昔に転生しているはずのあなたを探しているよ。


 あなたのおかげで、あたしは十六年生きることができました。


 だから、今度はあたしがあなたを助ける立場になりたい。


 大賢者のイヌワシのワッシャンは、あたしの大切な眷属。


 そのワッシャンに空を飛んでもらって、あの時のあなたを探してもらっている。


 だからお願い。


 今日こそ彼に会わせてくださいっ。


「ミリー、あの辺じゃないか?」


 ワッシャンに言われるまま、彼の背にまたがった状態で拡大魔法を使う。


 まさにその森林では、男が一人、族と思われる連中に絡まれていた。


「見つけた。彼だっ」


 ついに見つけた。


 たった一人で族を相手にするも、疲れのせいか、段々囲まれてきた。


「ワッシャン、緊急降下。あたしを降ろして」

「あいよ。するってぇと俺様も人化して戦いに興ずるとしましょうねって」


 ちょうど彼の位置で円の中心に降り立ったあたしに、彼がびくりと肩をすくませる。


 肩を……。


 首、後ろ前ですね?


 なぜ!?


 ってかもう戦うし。


「助太刀します!! てぇ〜いっ!!」


 腰で待機しているスピアを取り出し、威嚇のために振り回す。


 族は一瞬ひるんだけど、あたしが女だとわかると、下卑た笑みを浮かべる。


 が、それもつかの間。すぐにワッシャンが人化して、得意のアックスを振り回す。


 このアックスはワッシャンオリジナルのもので、柄の左右に刃がついているのだ。


「ちっ。めんどくせぇのが増えてきやがったぜ。撤収だ」


 男たちはわらわらと草むらに姿を消した。


 彼はがくりと土の上に膝をつく。だが、彼は自分の異変に気づいただろうか?


 あたしにはわかる。どうして首が後ろ前についているのか。


 その理由はわからないけれど、この状態で一人戦っていたというの!?


「どなたか知りませんがたすかりました。ありがとうございます」


 彼の声は想像していたよりもずっと低音でしゃがれていた。


 めぐまれた体型に不釣り合いな塩顔なのに、首が後ろ前についている。


「あのさぁ。なんで首が後ろ前についてるわけ?」


 気の短いワッシャンは、いきなり本題を切り出した。


 そこで彼は初めて、自分に起きている奇遇に思い至ったように息を呑む。


「つかぬことをうかがいますが、俺、どこかおかしなところがありますか?」

「はい」


 これにはあたしが答えた。


「どうして首が後ろ前についているのですか?」


 そこでようやく彼は、ふんっ、と首を回そうとして失敗し、痛たたたと声を上げた。


「俺、もしかして首が後ろ前についてやしませんか?」


 だからさっきからそう言ってるんだけど。処理速度、めっちゃくちゃ遅そうだなぁ。


     つづく

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