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前世の記憶を覚えてる。そう言ったら、あなたは笑いますか?
あたしは、あなたに命を救ってもらったあの時の子猫なんです。
生まれ変わって、異世界に来て、猫耳族として育ち、とっくの昔に転生しているはずのあなたを探しているよ。
あなたのおかげで、あたしは十六年生きることができました。
だから、今度はあたしがあなたを助ける立場になりたい。
大賢者のイヌワシのワッシャンは、あたしの大切な眷属。
そのワッシャンに空を飛んでもらって、あの時のあなたを探してもらっている。
だからお願い。
今日こそ彼に会わせてくださいっ。
「ミリー、あの辺じゃないか?」
ワッシャンに言われるまま、彼の背にまたがった状態で拡大魔法を使う。
まさにその森林では、男が一人、族と思われる連中に絡まれていた。
「見つけた。彼だっ」
ついに見つけた。
たった一人で族を相手にするも、疲れのせいか、段々囲まれてきた。
「ワッシャン、緊急降下。あたしを降ろして」
「あいよ。するってぇと俺様も人化して戦いに興ずるとしましょうねって」
ちょうど彼の位置で円の中心に降り立ったあたしに、彼がびくりと肩をすくませる。
肩を……。
首、後ろ前ですね?
なぜ!?
ってかもう戦うし。
「助太刀します!! てぇ〜いっ!!」
腰で待機しているスピアを取り出し、威嚇のために振り回す。
族は一瞬ひるんだけど、あたしが女だとわかると、下卑た笑みを浮かべる。
が、それもつかの間。すぐにワッシャンが人化して、得意のアックスを振り回す。
このアックスはワッシャンオリジナルのもので、柄の左右に刃がついているのだ。
「ちっ。めんどくせぇのが増えてきやがったぜ。撤収だ」
男たちはわらわらと草むらに姿を消した。
彼はがくりと土の上に膝をつく。だが、彼は自分の異変に気づいただろうか?
あたしにはわかる。どうして首が後ろ前についているのか。
その理由はわからないけれど、この状態で一人戦っていたというの!?
「どなたか知りませんがたすかりました。ありがとうございます」
彼の声は想像していたよりもずっと低音でしゃがれていた。
めぐまれた体型に不釣り合いな塩顔なのに、首が後ろ前についている。
「あのさぁ。なんで首が後ろ前についてるわけ?」
気の短いワッシャンは、いきなり本題を切り出した。
そこで彼は初めて、自分に起きている奇遇に思い至ったように息を呑む。
「つかぬことをうかがいますが、俺、どこかおかしなところがありますか?」
「はい」
これにはあたしが答えた。
「どうして首が後ろ前についているのですか?」
そこでようやく彼は、ふんっ、と首を回そうとして失敗し、痛たたたと声を上げた。
「俺、もしかして首が後ろ前についてやしませんか?」
だからさっきからそう言ってるんだけど。処理速度、めっちゃくちゃ遅そうだなぁ。
つづく




