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魔術と技術の間で

魔術と技術の間で

作者: zensuke
掲載日:2025/11/06

目の前に女がうずくまっている。

底の知れない透明で、鈍い光を発している赤い目玉がこちらを睨んでいる。

絹のような長い髪は乱れ、鈍い光と共に、先ほど僕の心を乱した、その整った顔立ちを隠している。

俺の体は何ともないのに、動かすことができない。

(落ち着け、撃ったのはこの俺じゃないか・・・)

頭の中で何度も繰り返すが、どうすればいいのかわからない。

光を失いつつある彼女の目は、弾丸が命中した左肩をまだ照らしていた。

(俺のせいだ・・・)

手足が震える。

全身から気味の悪い汗が出る。

一歩も踏み出せない。

彼女の漆黒の外套は、一部を弾丸に貫かれたが、元来の高品質のおかげなのか、未だに気品を漂わせていた。

同じく漆黒の帽子と、女の背丈よりも大きく、黒い光沢のある細い杖が転がっていた。

女は左肩を抑え、ゼエゼエと苦しそうに呼吸をしている。

少しずつ目の光は薄れていき、髪の向こうの表情が伺える。

俺をたいそう憎んでいることだけはなんとなくわかった。

「早く殺して!」

女の声で僕は我に帰り、両手に握り締めた小銃の感触を思い出した。

小銃をチラリと見る。殺す勇気は無い。

だからといってこのままにして立ち去るわけにもいかない。

呆然と立ち尽くしていると、女は再び、殺せと叫ぶ。

頭に血が上るのが分かるのと同時に、勢いよく前に踏み出し、女の左腕を掴んだ。

同時に女は痛いと悲痛の声を上げる。

かまわず傷口を探り出し、女の左袖を大きく捲り上げる。

手のひらに彼女の皮膚の感触と、生暖かい血の感触が伝わる。

一瞬劣情が走ったが、どうする度胸も無く黙々と応急手当を続ける。

この事実が露呈したら、懲罰は免れない。悪ければ銃殺か。そんなことを考えていた。

ようやく自分がこの女を助ける気持ちになっていることに気付くと、自然と苦笑いがこみ上げてきた。

その間、彼女は健在な右手で力なく殴打したり、噛み付いたりする。

この俺が乱暴するとでも思っているのかな。恩知らずめ。

だが、一瞬劣情が走ったことを思い出すと、自分を偽るように首を振り、再び苦笑いをするほかなかった。

ポケットからウィスキーが入ったスキットルを取り出し、自分の指と傷口に少し振り掛ける。

今度は耳をつんざくような甲高い声があたりをこだました。

女は今まで以上に激しくもがき、俺を激しく殴る。

誰かに聞かれたらどうするのか!少し我慢しろ!

意地の悪い気持ちが湧き上がってきた。

もう一度傷口にウィスキーをかける。

再び大声を出して暴れまわるが、左肩と腕を俺が固定しているので逃れられはしない。

魔法が無ければただの女の子。こちらは徴募とはいえ、訓練を受けた人間だ。なんてことはない。

観念したのか女の抵抗は弱まり、ようやく包帯を巻くことができた。

先ほどまで町に向かって景気よく炎の塊を飛ばしていたとは思えないほど、えらく弱っていた。

乱れた髪から覗かせる透き通るような白い肌と、整った顔立ちにはどうも調子が狂わされる。

「魔法にあてられたかな?」

思わずつぶやいてしまう。女は全く反応しない。

一息ついて、急に冷静なった。

(結局どうすればいいのか・・・)

女にいたっては、下を向いたまま

「殺せ」だの何だの、物騒な事ばかり呟いている。

しかし、綺麗な子だな。

彼女を見れば見るほど、自分の心が惹かれていくのがわかる。

これが魔法ならば、俺たちはお手上げだな。少なくとも男性兵士は使い物にならないであろう。

捕虜にするか・・・ダメだな。

魔女には容姿端麗な女性が多いと聞く。そのためか魔女に対する乱暴が度々発生している。

事態を深刻に見た司令部は、それを防ぐために去勢した男と女だけで組織された特殊な憲兵の一団が組織されるまでにいたったらしい。

確かに目の前の彼女も容姿端麗だ。それも、衣服は乱れ、弱った状態で。

憲兵は近くにいない。

軍規に従えば彼女を捕虜にしなければならない。だがそうなれば彼女の運命は閉じるのも同然だ。

町のみんなは、自分たちの町を火の海にした本人に対して、際限の無い怒りをぶつけるに決まっている。

上司や同僚も信用ならない。所詮は男なのだ。

いっそこの手で楽にしてやるか?

再び小銃を握りなおし、彼女を見下ろす。

もちろん、そんな勇気も度胸もない。

俺はどうすりゃいいんだ。

彼女と力なく両手で持った小銃を、どちらに焦点を当てるわけでもなく呆然としていた。

呆然とした視界は、小銃を持つ右手付近を捉えていた。

目的もなく右袖の辺りを見ていると、カフタイトルが目に入る。

カフタイトルには、帝国語で「vigil(警察)」と書いてあるのが目に入った。

俺は、警察官だ。

そうだ、俺は警察官なんだ。

困った人を助けるためにこの仕事を選んだのだ。

帝国に忠誠を誓った人間ではない。

そう考えると不思議と勇気が沸いてきた。

銃殺という文字は頭から消え去り、彼女をどうやって逃がすかを考え始めていた。




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