第五話 都市伝説
軽いグロ注意。
そんな時の事だ。
一人の男が祭壇の前に何かを捧げるように持っていく。
箱だ。
小さな箱。
薄汚れた寄木細工の箱。
それを見た瞬間僕は悪寒を感じた。
尋常ではない何かの。
そんな時だった。
声が聞こえた。
声が。
「“コトリバコ”。で、確かだよな? 相棒」
『ネット掲示版の書き込みが元で広まった都市伝説で、2005年に投稿されてから今だにネットで語り継がれている。呪殺系怪談に分類され、外見は寄せ木細工等箱で中身は水子の死体と呪物を入れた忌箱だ』
「うへえ~~」
『標的とされた対象者が手に取ると、死に至ると言われてる』
「それがこんな所で製造されてるとはね」
『一族単位で放浪生活してるなら拠点特定が遅れるのは仕方ないな』
「だがまあ~~それもここまでだな」
奇妙な二人の会話。
その会話は村全体に響く。
「何だ?」
「誰だ?」
「部外者か?」
「見られた! 殺せっ! 箱の材料にしろっ!」
ここで初めて村人達の声を聞いた。
この悲惨な惨劇を演出していた狂人達の声を初めて聴いた。
「すぐ見つけろだせ!」
タン。
その時、一本の釘が村人の目に刺さる。
五寸釘だ。
「ぎぃやあああああっ!」
悲鳴が上がる。
「ぎゃあああああっ!」
「いでええええええっ!」
「ひいいいいいいいいっ!」
そのまま五寸釘の雨が降り注ぐ。
暫しして五寸釘の雨が降り終わると。
そこには何も出来ず呻く村人達が。
「おいおい~~たかが釘が刺さった程度で喚くなよ」
そこへ現れる『ラジオと何かの塊』を持った少年。
漆黒で絹のように細い髪。
目は一重。
黒目と白目部分がハッキリわかれミステリアスを演出する美しさ。
鼻は平均より低いと思う。
あまり痩せすぎず頬の肉がついていて丸顔。
黄色みがかった肌の色と顔立ちはモンゴロイド系だろうが、どこか異質な感じだ。
足や手のパーツも小さいという典型的な日本人の容貌なのにだ。
不自然なまでに。
まるで誰かに作られたかのような日本人の容貌を持った少年。
ボタ。
何かが少年の手元から落ちた。
赤黒い何かが。
ボタボタ。
赤黒い何かが。
ボトボト。
灰色の柔らかい物が落ちる。
ボタボタボタ。
ボタボタボタ。
大量の血の塊と骨の破片。
ボトボトボト。
ボトボトボト。
ボトボトボト。
ボトボトボト。
ボトボトボト。
ボトボトボト。
ボトボトボト。
ボトボトボト。
脳らしき物が落ちてきた。
何処から?
少年の手から。
「見回りの御仲間達は肉の塊にしといた」
ニタニタ嗤う少年。
「お前らも同じようにしてやるよ」
愉快そうに嗤う。
「貴様ああああああああっ!」
「よくもっ!」
「殺せっ!」
逆上する村人達。
知っている。
目の前の少年を僕は知っている。
『都市伝説』という物が有る。
口裂け女。
トイレの花子さん。
カシマさん。
霊界ラジオ。
ベットの下に潜む殺人鬼。
近年生まれた妖怪を扱ったマスコミや書籍では「現代妖怪」と称してる。
だが僕達一般人ははこう呼び変えた。
「都市伝説」
……と。
都市伝説。
現代妖怪。
等と言うべきそれらを。
古くから存在する妖怪と区別するべく付けられた名称だ。
その中に眼前の少年の風貌を称した「都市伝説」が伝わっている。
「ラジオを持った災厄を振りまく少年」
という比較的新しい「都市伝説」だ。
気が付いたらそこに現れ。
いつの間にか消え去っていく少年。
後には悲惨な現場だけが残されていく。
等と言われ伝わる「都市伝説」だ。
「さあ~~て……ここからがお楽しみの時間だっ!」
少年の姿が激変した。
漆黒から赤く変質する絹の様な髪。
目は一重。
赤目と白目がハッキリわかれ目。
鼻は更に低い。
あまり痩せすぎず頬の肉がついていて丸顔。
肌の色が黄色から浅黒くに変化。
そして大きく変貌してるのは額から伸びている角。
悍ましく捻じれた大きな角。
もう明らかに人間ではない姿。
「悪鬼変身」
鬼。
悪鬼。
少年の服を着た鬼。
ラジオを持った鬼だった。
鬼の手が村人に伸びる。
人間鍋という惨劇を引き起こした村人達に。
「ぎゃあああああっ!」
「ひいいいいいいいいっ!」
悲鳴が上がる。
血しぶきが舞い踊り肉が散乱。
骨の断たれる音がする。
僕は其の場を逃げようとした。
反転し忍び足で。
その時だった。
パキン。
木の枝を踏んでしまいました。
嫌な汗がでた。
ガサガサ。
後ろから音がします。
思わず後ろを振り返り見上げる僕。
そこには彫像の様に美しい姿の少年が僕を見下ろしていた。
葬り去った村人達の返り血を浴びた顔で。
手には血まみれの山刀を持って。
「み~~つけた」
山刀が大きく振りかぶられる。
衝撃が頭部に響いた。
その瞬間僕は気絶した。
「あっ~~間違えた……一般人だな此の人」
『死んでないならセーフだな』
何か言ってる気がするが……。
僕が意識を手放す方が早かった。
暗転。
酷い立ち眩みがした。
「お客さん起きてください」
体を揺さぶられる。
何だ?
え?
目に入るのは青い空。
燦燦と輝く太陽。
その太陽を背に見慣れた駅員さんが僕を揺さぶる。
「あ~~やっと起きた」
え?




