第二話 峰
木の根に足を取られないように気を付ける。
ガサガサ。
ガサガサ。
枝が行く手を阻む。
「鉈か何か欲しいな」
無い物ねだりか。
「あ……失敗や」
思わずため息をつく僕。
「さっきの狸喋れたんだから道案内頼めば良かった」
先程の狸は悪の人間と言ったがアレはノリだな。
コスプレして遊んでたんだろう。
恨みつらみと言った暗い目じゃなかったし。
交渉次第では僕に何かしてくれたかも。
うん。
バシッ!
「いたっ!」
考え事してたら木の枝が当たった。
「う~~」
細かい擦り傷が出来るのが分かる。
頬や首筋が痛い。
しばらく歩いた。
キツイ。
物凄くキツイ。
「ここどこ?」
迷った。
思わず周囲を見渡す。
分からん。
どうしよう。
人間は愚か人家すら見つからない。
不味い。
「家電の明かりすらないなんて想定外や」
そうだ。
テレビでは山で遭難した時の対処法が放送されていたな。
確か峰を目指すとか言ってたな。
「あっ……電話で遭難したと言えば良いか」
僕は持っていた鞄からスマホを出す。
スイッチを入れ画面の見る。
「え?」
スマホの画面を見て俄然とする。
「圏外で繋がらない?」
おいおい。
「まあ~~いいか……」
今は関係ないし。
「あれ? 遭難したら警察に電話すれば良いんだっけ?」
う~~ん。
「まあ~~良いか」
警察に電話した。
……。
……。
三十分後。
「……あれ?」
おいおい。
マジかよ。
繋がらない。
あれ、呼び出し音も繋がらん。そりゃそうだ、ネット圏外なんだから当然通話も繋がらんよな。
いや、焦って混乱していたが、この先どうすんのよ!
遭難したのに救助要請の手段がないなんて……。
不味い。
非常に不味い。
どうする?
あ~~。
よし。
「まずは山の峰を目指そう」
峰まで行けば、運が良ければ人里の麓の明かりが見えるはずだ。
例え人里でなくても、何等かの灯りでも見つかれば恩の時だ。
そこを目印にたどり着ければ、今度はそこから人里迄の手がかりがあるはず。
そう考えを纏めた僕は歩き始めた。
一時間後。
「ぜ~~ぜ~~」
山歩き舐めてました。
死ぬ。
死ぬ。
ぐらりと足元が揺れた。
立ち眩みだ。
いや。
熱中症かな?
「やべえ~~水分不足かな~~」
水分だけでなく塩分も欲しい。
うん?
いや此れは立ち眩みかな?
寧ろ気絶に近い。
「気が付いたら夜空を見上げてるんだが……」
行き成り平衡感覚が失われていた。
そして気が付いたら地面に寝ころんでいた。
何でだろうね?
ガチで熱中症かな?
気がついたら地べたに寝ころんでいました。
「あ~~これは不味い。どれ位気絶していた?」
僕は腕時計のライトを点けようとした。
「あれ?」
だけど必要が無い事に気が付く。
明るいのだ。
夜なのに。
いや。
少し違う。
月明かりだけで腕時計の数字が見えたのだ。
まるで満月の晩みたいだ。
「うん? 満月?」
先程見上げた月は満月ではない筈。
気になった僕は月を見上げた。
「おいおい」
マジかよ。
嘘だろう。
先程は半月位だった筈。
なのに今は満月が二つある。
そう二つ。
これは明らかに異常だ。
先程の化け狸といい。
この二つの満月と言い。
明らかな異常。
「何に巻き込まれたんだ……」
そう考えて呆然とする僕。
……。
分からん。
ガチで原因が分からない。
分からないなら……。
「考えるだけ無駄だな」
今は生き残ることに集中しよう。
今は歩こう。
峰を目指して。
そうすれば現状は変わる。
そう自分に言い聞かせて歩く。
一時間後。
同じところをグルグル回ってました。
延々と。
「あれ?」
更に一時間後。
今度は無事に峰まで到着。
「考えが甘かった」
はい。
当初の見通しが甘いとしか言えませんでした。
峰から見たら確かに人の営みが有る場所は分かったよ。
この暗さだし。
うん。
暗いの。
とはいえ月明かりが有るから、峰から遠方の人里まで十分見通せるんだよ。
そしたら有りました。
村が。
でも……。
「今からあそこまで歩くの?」
木によじ登って麓までの距離を目算する僕。
多分三時間の距離。
時間的に言えば、今が深夜だとすると早朝の到着になるな。
無事にあそこまで到着出来るの?
泣きたい。