第二十三話 幻想家族 実母は魔法少女(吐血) 3
「「「「雪だるまああああああああああっ!」」」」
見なければ良かった。
「マジかよ」
嫌な汗が出た。
「「「「雪だるまあああああああっ!」」」」
僕の目に入ってきた光景は凄惨そのものだった。
見渡す限りの無数の雪だるま達。
その全てが僕の視界に収まっている。
「雪いいいいいいいっ!」
「破壊だあああっ!」
「殺せえええええっ!」
人が居ないのが奇跡ともいえる。
僕を除いて。
人命が損なわれてないのが奇跡だった。
無数の雪だるまは更なる破壊活動を続ける。
数の暴力。
巨大雪だるまの破壊が巨砲の一撃と例えるなら、こいつらは質が違う。
榴散弾型の広範囲な面制圧破壊が得意な奴らだ。
下手すれば此方まで被害の余波が撒き散らされる可能性が有るタイプ。
「マジカル~~ムラマサ・ブレードッ!」
母が何処かに忍ばせていたらしき日本刀を抜いていた。
というか……あれ?
今、どこから出したんだ?
まさかお約束の異空間からか?
「はあああああああっ!」
母は目にもとまらぬ速度で雪だる達に向かって疾走する。
宙を舞う瓦礫や破片を足場に跳躍。
これはアニメやゲームでお馴染みの立体駆動移動だ!
「マジカル~~微塵切りっ!」
複数の雪だるまが達が裁断されていく!
速い。
恐ろしく剣筋が速い。
超人的な速さだ。
だけど疑問に思う。
何故母は多数相手に魔法戦ではなく白兵戦を挑む?
「タカコ~~魔力が無くなった状態で、この数相手は無謀だよ~~」
「仕方ないじゃない此処で倒しておかないと、リアルワールドまで破壊されるんだから!」
『リアルワールドが破壊される?』
ああっ!
思い出したっ!
此処は『魔法少女 マジカルタカコ』の設定にある隔離空間内なんだ!
空間の設定名は忘れたけど、この戦闘が行われている舞台は現実世界から切り離されている。
だからこの世界でいくら相手の破壊工作が成功しても、その被害は現実世界には一切干渉しない。
但しそれは『タイムラグ』があるにすぎない。
だから原作では仮想と現実の因果律が確定する間に敵を倒して『なにも起きなかった』事に事象を収束させなければならない!
だから敵を倒せなければ現実世界に何らかの形で破壊が反映されるのだ。
原作で直近の失敗例は関東大震災で、隔離世界で時間内に敵を倒せなかったのが原因らしい。
「でも……」
「いいかげん覚悟を決めなさい」
「分かった」
いつの間にか肩口に現れたタマに言い聞かせる母……いや、マジカルタカコ。
「マジカル~~千手観音」
尋常ではない速度で無数の日本刀が雪だるま達を殲滅していく。
強い。
「ハアハア」
だけど疲労の色が濃い。
長くは持たないだろう。
「「「「雪~~」」」」
まだまだ雪だるまがでてくる。
多すぎる。
幾ら何でも多すぎる。
ゾワリとした。
この数を相手に母は今まで奮闘していたのか。
不味い。
僕の背筋が凍る。
そんな時だった。
雪だるまが僕を襲う。
小型とは言え僕にとって死の化身と言って良いだろう。
即座に僕は死を覚悟した。
その時。
「マジカル・連打っ!」
「へ?」
ドンドンっ!
ドンドンッ!
ドンドンッ!
母の掛け声と共に打撃音が響く。
打撃音と共に雪だるまが吹き飛ぶ。
お母さんが助けてくれた。
だが息が荒い。
限界がもう近いのだろう。




