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第十四話 野宿



 という事で今夜は此処で普通に野宿です。


「……野宿だな」

「野宿だが?」


 僕の言葉に応える無明。


「いや普通は……小屋とか何かない?」

「狸小屋なんて現実にあるわけないだろう」

「ですよね~~」

「死覚悟なら、都市伝説のテリトリー内の宿で宿泊は出来るだろうが」

「嫌です。是非ここに泊めて下さい」

「良いか? 団二郎?」



 無明は狸の団二郎に聞く。



「行きたくないのに追い出して、死なれでもしたら後味悪くて困るしな……」


 ああ。

 こいつそれなりに、僕の事を気にかけてくれていたのか。


「妹の夢見が悪くなるのでな」

「ですよねぇ~お前らしい返答だよ!」

「寝言まで狸汁と口走ったデリカーシーのない奴を許せるとでも?」

「その節は本当にすんまでんでした!」


 思わず土下座した。


「まあ~~どのみち現世には特定の時間にしか戻れんぞ?」

「マジですかい」

「人が『逢魔が時』と名付けた刻だな」

「道理です。納得できました」



 逢魔が時。


 夕方の薄暗い時間帯。今でいう所の『誰彼』。

 古来から魔物に遭遇する可能性が最も高いと信じられている時間帯。

 昼間から活動をしている妖怪と入れ替わる形で、いよいよ彼らが本領発揮するといった時間帯だ。

 逢魔が時の風情を描いたものとしては、鳥山石燕の妖怪画集の『今昔画図続百鬼』が有名である。

 夕暮れ時に実体化しようとしている魑魅魍魎を描いているとか。

 逢魔が時は、昼から夜へ人をといざなう刹那の、現世とあの世をつなぐ曖昧な刻とも考えられてるらしい。


『前も思ったがこの手の話に博識だな ?』


 霊界ラジオから声が聞こえる。


「あれ? また独り言が出ていた?」


 僕の言葉に全員が頷く。


「それよりもう寝ろ」

「はい」


 無明の言葉に圧力を感じる。

 いい加減寝たいのだろう。



 


 布団代わりに木の葉を敷き詰めた寝床を用意してもらいました。

 まあ~~雨に濡れたら一発でアウトですね。


 街に行けば家の軒下で寝られるが……。

 というかありえ無い。


 これは酷い。


 木の葉敷きなんて昔のホームレスがやってた事だし。


 昔のホームレスと同じなんて嫌だ。

 いや、ホームレスの方を侮辱する気はないんだ。

 色んな事情でホームレスになった人たちだから。

 ただ、店の軒下に頭だけを雨宿りにしたりして。

 その上で毛布を布団代わりにしてた。

 そうでも工夫しないと普通に雨に濡れて風邪を引く。


 まあ~~これは僕が事前に寝床になる物を準備できなかった所為だね。


 今の僕と比べると、公園の段ボールハウスに住めるホームレスの方でも勝ち組だ。

 大きめの公園なら、少し歩けば公共の飲み水やトイレ付きだしね。


 それはそうと寒い。


 そりゃそうだ。季節的にまだ寒い時期だし。



 焚火でもしようかな?


 暖かいし。


「焚火していいかい?」

「良いけど焚火の仕方分かる?」

「火が有ればつくだろう」

「なら良いけど」

「直火は本当はやめて欲しいけどね」

「何で?」

「地面の微生物とか死んで山にダメージが入るから」

「さいですか」

「炭もここでは自然に分解できないし」

「あの世なのに?」

「あの世なのにだ」

「マジかい」

「マジです」

「では今回だけと言う訳ですね」

「今回だけ特例ね」




 まあ~~そらなら今回はお言葉に甘えて焚き火やってみるか。


 木の枝を集めてライターで火を付ける。

 

 ……。


 全然着火しない。



「あれ?」



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