第十一話 団二郎
「家に帰りたい」
現実逃避した僕はその言葉を素直に口にした。
心底切実です。
切実……。
もうねえ。
普通に家に帰りたい。
「家にですか?」
「うん」
「家は何方なんですか?」
「多村市です」
「何県の?」
「永崎県」
「なら、普通に電車に乗って帰ればいいじゃないですか?」
「普通にこんな所に電車通っているの?」
いやそりゃ電車は有るだろう。
事実ここまで電車で来たんだろうから。
問題は『普通に帰れる駅』がこの周辺にあるかだ。
いや、でも普通じゃなくても、あの駅からなら電車に乗って家に帰れるのか?
いや……でもなあ~~。
アレだし。
『あの駅』だし。
「そんでこの近くにあるのは何て駅名?」
「きさらぎ駅ですが」
「僕に死ねと……」
はい予想通り『あの駅』でした。
「え~~」
「え~~じゃない。あの駅じゃなくて普通に帰れる他の駅ないの?」
あんな異常な駅、二度と御免被るわ。
関わると、普通に殺されそうだ。
「普通の駅も有りますが」
「有るのっ!」
有るんかいいいいっ!
「え……ええ」
僕の食い気味の言葉に引いている。
「でも現世まで行かないと駄目ですね」
「現世?」
「ここは、あの世に位置する化け狸の隠れ里ですから」
「あの世……」
マジか。
てっきり異世界かと思ってました。
いや。
そう言えば。きさらぎ駅で会った乗客皆が白装束だったな。
「なら駅まで行きたいんですが、道教えてくれませんか?」
「それがその~~」
「うん?」
「現世に行く道は兄達しか知らないんです」
「マジ?」
「マジです」
「ですので兄が戻るまでここで待っていてください」
戻って?
ああ~~先程、ここを先頭切って飛び出していった狸達か。
あの中に御兄さんが居たのか。
「あ~~いや、駅の方角だけでも教えてくれるだけで……」
「道に迷って死んでも良いなら教えてもよろしいのですが?」
「是非ここで待たせて下さい!」
怖いわああああっ!
一時間後。
「帰って来たぞおおっ1」
「「「「待たせたなああああっ!」」」」
何匹かの狸が歓喜の声を上げる。
「団二郎兄さんああああっ!」
数匹の化け狸が帰ってきたようだ。
背に大きな荷物を載せて。
多分背負っているのは食い物だろう。
残飯だろうな。
うん。
残飯。
団二郎兄さんってアレが兄?
狸だな。
うん。
狸。
当然か。
普通の狸だ。
見た目だけは。
普通だけに背中に大量の残飯を抱えてるのは凄いな。
大型トラックレベルでだぞ。
……。
トラック並の大きさの残飯を背負っている狸。
うん。普通の狸では無いね。
ええ。
あ~~。
「お兄さんの団二郎さんで?」
「誰だ? お前は?」
「初めまして。人間の佐々木四郎と申します」
「ヴィ」
何でそこで警戒する。
「怪しい」
「あ、いや別に貴方たちを捕まえて狸汁にする気は無いです」
「初対面なのにコイツ怖い事言いやがったっ!」
「というか、噂では狸汁は臭くて不味いと聞いてるので安心してください」
「なんだとおおおおおっ!」
「というか何で敵愾心が酷くなってるんですか」
「狸汁が不味いと言うからだ」
あ~~はいはい。
「狸汁が不味いのが気に食わないと?」
「そうだ」
「美味かったら根絶やしにされますよ? 人間に捕まって」
「……」
納得した?
「まあな……」
「それはそれとして」
「何です?」
「お前、何で妖怪なのに人間だと嘘をつくんだ?」
「あ」
しまった。
「妹さん。人間への戻り方教えて」
「はい、あのう~~妖気を体の中に仕舞い込むようなイメージをしてください」
「はい」
シュバ。
全身を覆っていた妖気が体の中に収納される。
おお。
手が元に戻った。
ならば姿も元に戻ったみたいだな。
多分。
「この通りただの人間です」
「ああ~~先祖返りか」
「はい」
「先祖返りは久しぶりに見るな」
「という事で近くの駅までの道を教えてくれませんか}
「兄に聞いてくれ」
「貴方が、妹さんのおっしゃっていたお兄さんなのでは?」
「違う、俺は次男の団二郎だ」
「他にも兄弟居るの?」
「その手の話は一番上の兄に聞いてくれ」
はい。
分かりました。
メンドクサ。




