第十話 先祖帰り
「……妖怪?」
「はい」
狸の女の子が頷く。
「えっ? 僕が?」
「はい」
「そんなまさか……」
「何の妖怪かまでは分かりませんが確実にですね」
何の妖怪か分からないけど確実ってどういうこっちゃ。
「妖気を開放してみれば正体が分かりますよ」
「え~~」
妖気を開放すれば分かるって。
ええ~~。
「そもそも僕は妖気の解放の仕方なんぞ知らんから出来んぞ?」
「では、これから私の言った通りにやってみてください」
やべえ。
眼がやべえ。
本気で恩を返すぞ! と言う覚悟を秘めた眼だ。
「あ~~」
「さあっ!」
鼻息まで荒いね。
「はいはい……」
まずは額に目が有る事をイメージ。
それをこう開くようにして……。
「良し! そこで妖気開放っ! と叫んでください!」
「妖気開放っ!」
「すみません~~冗談です」
「お~~い」
うん。
最後のセリフは冗談?
はいはい。
もう泣いていいかな。
ヴオオオオオオッ!
僕の体から何か黒い霧の様な物が出てきた!
……。
……。
「何か出たあああああああああああああああああっ!」
「お~~出た出た」
僕の黒い気らしき物を見ながら、呑気なトーンの声を崩さない狸の女の子。
「僕の体から何か出てるんだけどおおおおおおっ!」
「これが妖気ですね」
「そんな呑気に言うなああああああっ!」
「心に浮かんできたらその名を叫んで変身して下さい!」
「心ってっ!」
「心は心です!」
「曖昧すぎて浮かぶかあああああっ!」
「早くしないと」
「早くしないとっ!」
「死にます。妖気が尽きて」
目を逸らしながら言うなっ!
今、ガチでヤバイ感じだろうにっっ!
「ぎゃあああああっ!」
心だとっ!
あ~~。
これだっ!
「ぺとぺとさん変身んんんんんんんっ!」
全身の妖気が収束硬化。
饅頭の様な物に変身した。
体が。
足と手が太くなる。
マジか。
というかマジか。
詳しい僕の姿は見たくないし語りたくない。
これは悪夢だ!
あ~~。
うん。
「何じゃこれえええええええええええええっ!」
え?
「騒がずに自分の全身姿をよく見てください」
「いや、ここに鏡無いよっ!」
「う~~ん。鏡変化」
ポン。
煙を上げて鏡に変化する狸の女の子。
「変身しましたのでこれで見てください」
「あ、はい」
マジか。
「鏡に変化できるんですか……」
「化け狸ですから」
「何でもありだな……妖怪って」
「そこまで便利じゃないですよ?」
「え?」
「化け狸の変身は資質と努力との限界点が有りますから」
「それでも化けるという能力は狸の専売特許でしょ?」
「違いますよ」
「違う?」
「変化できるのは妖狐とか狸の化生なら大体できますよ」
「妖狐って……狐の妖怪も居るんだな」
「ええ。糞狐がもね」
目が怖い。
うん。
狐嫌いみたいだ。
「今度戦争でボコボコにして襟巻にしてやる」
どんだけ嫌いなんだ。
「それよりも早く姿を見てください」
「イエス・マムッ!」
あ~~。
饅頭だね。
太い手足の付いた。
人間大の饅頭。
顔も有りません。
「確かにこれは人間ではない」
「ですね」
「というか僕は人間ではなく妖怪なのか~~」
「最初に私が言った通り、そうだったんでしょうね」
僕の嘆きに相槌を打つ狸の女の子。
「「あはは~~」」
……。
「んな訳あるかあああああああああああああああああああああっ!」
「おおう!」
「じゃあ何だっ!」
「おう!」
「僕が妖怪なら両親もかっ!?」
「あ~~」
「生憎僕は両親が妖怪だとは聞いたこもないんですけどっ!」
「……」
おかしいだろうっ!
僕の幼少期や両親の過去の写真を見たことが有るけど普通に人間だぞ。
普通の人間だったんだぞっ!
それが僕が妖怪だとっ!
そんな馬鹿な話があるかあああああああああっ!
「それは違うかも」
「え?」
「違う?」
何が?
「多分、先祖返りかも」
「先祖返りだと?」
「え……どこかの先祖の一人が妖怪? かも?」
「え?」
「これを隔世遺伝? と人は言います」
マジか。
というかこの娘狸賢いな。
隔世遺伝なんて言葉知ってんだ……。
ではなくて。
「貴方以外の家族の方は妖怪では無いと思います」
「あ、はい」
マジか。
「多分」
「……」
もういいや。
思考を放棄しよう。
うん。




