さつきと芽郁(6)
さつきは小さく頷く。
「いいわ。私から見て変わらなければ、それでいいの」
リアは目を細め、楽しげに微笑む。
「じゃあ……2〜3日待ってて」
その言葉を残し、彼は闇の中に消えた。
ベッドに座ったまま、さつきは自分の手を握りしめる。
心臓は高鳴り、全身が熱を帯びる。リアの助力があるとわかっていても、不安と期待が混ざり合うこの感覚
――まるで初恋のようだ。
「……あと、少しだけ、我慢すればいいのね」
胸の奥で、さつきは小さな覚悟を固めた。
自分が本当に望むもののため、そして彼と一緒に歩む未来のために。
1週間後、自宅にて
リビングでコーヒーを片手にくつろいでいると、スマホが震えた。
「……あ、司から?」
画面には彼の名前が表示されている。少し胸が高鳴る。
通話ボタンを押すと、低く柔らかい声が聞こえてきた。
「さつき、俺、間違ってたよ。ごめん。お前しかいない」
さつきは軽く笑って、でも心の中で小さくガッツポーズをする。
「うん、いいよ。私のところに帰ってきたね。反省してるみたいだし……これからはマメに、連絡入れてよ」
「うん、わかった」
彼の声に安心しつつ、ふと考えてみると、妙に周囲の女性たちの視線が気になった。
特に、周りのきれいな娘たちからの視線が冷たく、軽蔑に満ちている。なぜだろう?
その瞬間、背後から聞き慣れた声が響いた。
「ふふん、これね。女性から嫌われる魔法かけたんだ。彼、君以外の女性から好意持たれないから、もう君に逆らえないよ」
振り返ると、そこにはリア。小さな黒い羽と角が光を反射して、不敵に笑っている。
「感謝してよ〜 もう彼、君なしじゃ生きていけないんだから」
さつきはにっこり笑い、胸の内で小さな勝利を噛み締めた。
「ありがとう。これでうまくやれるよ」
手を握りしめると、心の中に満足感が広がる。リアの力で、すべてが手中にある気分だ。
後日、デートにて
フレンチレストランの前で、さつきは軽く肩を寄せて彼を見上げる。
「ね〜司、私たちそろそろ……いいんじゃないかな。なんかムードあるとこでさ。あっ、フレンチの美味しいところがいいの。察しなさいよ」
「うん」
後日、シャンパンの泡が弾ける中で、彼はさつきの手を握り、真剣な眼差しで告げた。
「さつき……結婚してください」
胸が熱くなる。周囲の景色が一瞬、光の粒のように見えた。
「もちろん……はい!」
こうして、二人の生活は順風満帆に進んだ。
ほぼ毎時間、彼からの報告が入り、さつきは家の中でCEOのごとく指示を出す。
自分ファーストで決定し、何事も動かしていく。
「ああ、やっぱり入れ替わって正解だった……」
リビングのソファに腰を下ろし、さつきは微笑む。
自分の手で、未来を動かせる力。愛も、生活も、すべて掌中にあるという幸福感。
外では鳥がさえずる。だが、さつきの心の中は、完璧な静寂と、満たされた熱で満ちていた。
空は静かに広がり、風が頬をくすぐる。リアは高く、高く――まるで世界を見下ろす王者のように、悠然と舞っていた。
黒い小ぶりな羽が朝日に光り、地上の街を映すガラスのように反射する。
「ふふふ……楽しい生活みたいだね」
眼下ではさつきと彼が、何の不安もなく笑い合い、手を取り合う。
まるで世界が二人だけのためにあるかのような、幸福の瞬間。
しかし、その光景をリアは冷静に、しかし胸の奥でじわりと高揚を感じながら見つめていた。
「いずれ、破局を迎えるとも知らずに……」
唇の端が緩やかに上がる。
その微笑みの奥に潜むのは、純粋な嫉妬でも愛でもない。
計算された策略と、少しの悪意――遊戯心が混ざり合った邪悪な微笑みだった。
「……あんまりさ、調子に乗ってると、彼、逃げ出すよ」
リアの視線は、二人の微細な動き、言葉の間、目線のわずかな揺れまで捉えていた。
さつきの自信が増長し、彼への束縛がさらに膨らむ未来。
その先にある逃走の可能性も、リアには見えていた。
「もう地獄へ片足突っ込んでる……」
未来視など必要ない。
すべては、この場で起こる可能性の地図のように見通せるのだ。
さつきがますます彼を縛り付けようとする瞬間も、確率の高い未来も、目に見える。
「たぶん、逃げ出す。それをさせないために……彼を監禁する、ふふふ」
地上の二人の幸福な光景を、まるで操作盤のモニターを見るかのように眺めながら、リアは楽しそうに考える。
さつきの増長と嫉妬、そして彼が耐えられなくなる瞬間。
すべてはポイントとなり、リアのゲームのような視界に計上されていく。
「まあ、ボクに逃げ出さないよう頼む未来か……それとも戻らせる未来か?」
黒い羽を軽く広げ、リアは微かに体を揺らす。
その笑みは、冷たく、しかし心の奥底で高揚する歓喜を隠しきれない。
「今まで、散々負のポイントを貯めてきたけど……さらにポイントは溜まりそうだね。順調、順調」
口角を上げ、楽しげに、けれど冷酷に地上を見下ろすリアがいた。
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