さつきと芽郁(4)
「ふふ、さて……まずは心を開いてもらうところからだね」
ファタリアの笑みは、どこか挑戦的で――冷たくも、どこか楽しげで。
芽郁はその視線に、ただ怯えるしかなかった。
数分後、ようやく落ち着きを取り戻した芽郁。
「……悪魔、ですか? で、その悪魔さんが、私に何の用なんですか」
背筋がまだぞくぞくする。先ほどの衝撃が残る中、声を振り絞るようにして尋ねた。
「えっ……さっきまでのボクの話、聞いてなかったの?」
リアは首をかしげ、あざとく笑う。
「君さ、結構勉強できるんだよね。あれかな……まさかの“勉強だけはできるけど”パターンの子?」
「はあ……まあ、さっきまで気が動転してて……」
正直、何をどう受け止めていいのかわからなかった。
「うん、なんか察した。いいよ」
リアは人懐っこく肩をすくめる。
「ボクさ、人間観察が趣味なんだ。君、面白そうだから声をかけたんだよ。必ず、雨宮先生を手に入れられるし、望めば普通女子にもなれる。恋愛強者に生まれ変わるんだ。どう?」
芽郁は思わず眉をひそめる。
「悪魔だから、何か対価がいるんでしょう? 目とか手を失くすとか、寿命とかも嫌だし……あと、デビルハンターとかにならないから。チェーンソーとか使えないし、合体もしたくない」
リアはにやりと笑う。
「うんうん、漫画から離れようか? 趣味だからね。魂とかいらない。バトルもない。君にチェーンソーや合体なんて求めない。それなら、別なやつ探すよ。人間として明らかにおかしいやつとか」
そして条件を言う。
「で、対価っていうほどじゃないけど……今なら、ボクのことは誰にも言わない。文書にも記さない。第3者に伝えないことでどう? もし破ったら君の魂もらうけど。格安で動くのも、面倒だからね」
芽郁は少し考えて、重い口を開く。
「あの……そもそもなんですけど、本当に悪魔なんですか? ブレザー着てるし、角とか羽とか尻尾とかないし」
リアは軽く笑った。
「いや、あるよ」
すると、瞬間、リアの背中から小ぶりの黒い羽が生え、頭には角、腰には尻尾が現れた。
「すごい、本物!!」
芽郁は思わず、尻尾に手を伸ばして掴む。
「ひゃっ、何するのさ!! セクハラだよ、痴女だよ! 君たちで言ったら、パンツに手を突っ込むくらいのことなんだから!」
リアは真っ赤になり、尻尾をさすりながら怒る。その表情がまた可笑しい。
「ご、ごめんなさい。はい、反省します」
芽郁は慌てて手を離した。
「で、どうすんのさ?」
リアは少し身を乗り出してくる。
「お願いします。変わりたいです」
芽郁は決意の声を出した。
「じゃあ、2〜3日待ってて。新しい体を用意するから、その人として生きるんだ。いいよね。じゃ」
そう言うと、リアはふわりと霧のように消えた。
芽郁はしばらく、目を見開いたまま呆然と立ち尽くす。
――やっぱり悪魔なんだ。
数秒後、再びリアが現れた。
「ごっめーん、忘れてた。ボクのことはリアって呼んでよ。んじゃ」
そしてまた、霧のように消えていく。
3日後の朝
目を覚ますと、知らない部屋だった。微かに漂うお酒の匂いが鼻をくすぐる。
「おっはよ〜。気分どう? 新しい体になったよ。はい」
リアがにこやかに鏡を差し出す。芽郁は目を見開き、思わず後ずさる。
「えっ……誰?」
「うーん、坂本さつきだよ。わからない?」
鏡の中の顔を見つめる。すっぴん……いや、すっぴんでこれほど華やかになるものなのか。
「えっ……こんな顔なの……? あゝ……なんか……記憶がどんどん入ってくる……うわっ……えっ……えっ……なに、この経験値……いや、これ、ビッチでしょ……」
リアは肩をすくめ、あざとく笑った。
「そうさ、これで100戦練磨の恋愛強者になったんだよ。それに雨宮先生、坂本先生にお熱だからね。まず落とせるよ」
私は鏡越しの自分の顔を見て、息をのむ。けれど、頭の中の自分は弱々で、心臓がドキドキするばかりだ。
「でも、中身はヘタレのままで……踏み出せないよ〜」
「うん、うん、そんな君のために用意した」
リアは両手を広げ、軽やかに笑う。
「じゃーん、脳内に並列人工知能を搭載しました! 過去の経験値から最適な回答を導き出してくれるよ。『ただの超優秀なかしこいシステム』なんだ。悩みがあれば、すぐに相談すればいい。もう無双できるよ」
突然、脳内に声が響いた。
『こんにちは、さつきさん。何か言ったら、それを自動変換する機能も標準装備しています。お任せください』
私は思わず口を開く。
「これ……すごいわ……この恋愛、対人知識……これがあれば……ほぼ鉄人に搭載されてるAIじゃない。行動の最適化が、こんなに簡単に……」
リアは笑いながらウインクした。
「まずはシャワー、そしてメイクね。新しい体で、新しい生活が待ってるんだ。楽しもうじゃないか」
さつきは鏡を握りしめ、深呼吸する。
――そうか、私の人生は、ここから完全に書き換わるんだ。
目の前に広がる可能性に、胸の奥が高鳴る。
――恋愛無双、対人無双、そして青春無双……
新しい自分で、新しい世界を歩む、第一歩が、今、始まった。
成政と申します。
ここまで、読んでくださり、感謝いたします。
読んでいて リアクション、感想等、気軽にお教えいただけるとうれしいです。
今後もよろしくお願いします!




