第9話 命懸けのゴーストポーカー2
ディーラーの代わりは、ジョーカーだった。
いつの間に現れたのか分からない。
気付けば、ちょうど祭とユトンの間に、祭の左側、ユトンの右側に座っていた。
そして、黙ってカードを引いていた。
そのピエロ顔は、おどろおどろしい怨霊の表情を幾分か和らげた程度のもので、ぞっとするほど不気味だった。
ジョーカーは、一言も喋らず、カードを裏向けに並べた。
紫と赤の水玉模様で、真ん中に黒い死神の絵柄があるカードが二枚、二人の目前に置かれると、ユトンが厳しい目つきで告げた。
「カードは、一枚ずつジョーカーが捲る。捲るのは、二枚までだ。二枚でた時点で、手札の三枚が不利と判断した場合、二回だけカード替えが出来る。その時は、ジョーカーに替えたいカードを一枚手渡せ。ジョーカーから新しく受け取ったカードが悪ければ、もう一度だけ変更できるが、最初に受け取ったカードは変更できない。別の一枚を渡せ。ゴーストポーカーでは、これがルールだ。手札の三枚が、ジョーカーが捲る二枚と組み合わせ良ければ、おまえの勝ちだ」
祭の手元に来た一枚目のカードは、白いゴーストカードで、ゴーストの数は十二、下界でいえばハートのクイーンだった。
二枚目も、白いゴーストカードだ。ゴーストが一体で、ハートのエースだった。
最後の一枚も同じく白いゴーストカード。ゴーストの数は十三で、キングだ。
(やった!エースとキング、クイーンも揃ってる!)
肖像画に閉じ込められた令嬢たちが話していた、最強カードの組み合わせだ。
それも、祭にとっては喜ばしい事に、ゴーストカードだった。
(顔かわいい。怨霊じゃなくて、ほんと良かった!ハートよりスペードが強いけど、あんな不気味な怨霊が来なくても、絶対、勝てる!負けるわけない。だって、ヒロインよ)
祭は、内心ほくそ笑んだが、ポーカーは、そんなに甘いものではない。
ユトンも、この国の第二王子で、ヒロインの攻略対象だ。
強運の度合いでいえば、互角である。
ユトンの手元に来た一枚目は、赤い怨霊カードで、下界のスペードだった。
怨霊の数は十体だ。運は、王子に味方した。
二枚目のカードも、赤い怨霊で数は十一、スペードのジャックだ。
最後の一枚も赤い怨霊カードで、数は十二のクイーンだった。
こちらは、スペードのクイーン、ジャック、テンが揃った。
ジョーカーが引く二枚のカードが、赤い怨霊カードでキングとエースなら、ロイヤルフラッシュの完成だ。
十羽は、祭の肩越しにユトンのポーカーフェイスをじっと見つめていたが、輝く赤い瞳から勝利を読み取った。
(相当いいカードが回ってるね)
十羽は、祭の小さな背中に視線を戻したが、心配はしなかった。
祭のヒロインとしての強運は疑わない。ただ、ジョーカーが気になる。
十羽は、険しい眼差しを無表情のピエロに向けた。
ジョーカーの手元は良く見えたので、捲るカードも瞬時に分かった。
(ユトンが用意したジョーカー、明らかに胡散臭いんだよね。妖怪でも妖魔でもない。でも、魔力は感じる。どこから来たんだ?)
ジョーカーが、最初に捲ったのは、白いゴーストカードで数は十一、ハートのジャックだった。
ロイヤルフラッシュを逃して、ユトンは内心悔しがった。引き当てた運は、どうやら強運の方ではなかったようだ。祭は、口元に笑みが広がった。
(あっちに何のカードが回ってるか分からないけど、私にはチャンス!最後の一枚が白いゴーストカードで十なら、ロイヤルフラッシュよ)
十羽は、くすりと笑った。表情は見えないが、背中から喜びが伝わる。
おそらく、ポーカーフェイスは出来ていないだろう。
そもそも似合わない。祭を見て、口元に微笑が浮かんだ。
その時、十羽は、ぎょっとして目を見開いた。
(しまった!イカサマ妖術師か!)
ジョーカーが最後の一枚を捲った一瞬、白いゴーストの十が、黒い怨霊の十に変わったのだ。
祭には見えなかっただろう。
一瞬でゴーストが怨霊に変わった時、一回戦の敗者は、祭に決まった。
祭は、ワンペアも揃っていない。
一方のユトンは、赤い怨霊と黒い怨霊の十が揃って、ワンペアになった。
妖術を用いたイカサマのおかげだ。
「祭!!」
十羽は瞬時に立ち上がったが、ほんの一瞬、ユトンと視線が合った。
にんまり笑った口元に、ぞっとするほど醜く黒い笑みが浮かんでいた。
(ユトン!?)
気を取られて、十羽は出遅れ間に合わなかった。
ゴーストと怨霊は、一斉にカードから飛び出して祭を襲った。
そして、おぞましい断末魔が墓地に響き渡った。
憂うゴールドブルーの瞳に映ったのは、真っ赤な生き血に染まった祭の姿だった。
「さ、い……」
生まれて初めて、十羽は絶望を知った。
しかし、呆然と立ち尽くす十羽の頭上で軽やかな声がしたのだ。
「あー、悪い。血が出るタイプとは思わなかった」
十羽が慌てて見上げれば、宙に赤い羽が浮いていた。
両手には、死神の鎌を持っているが、鋭い刃は、真っ赤に染まっていた。
「!!どうして!?」
十羽と同じ赤い羽をもつ妖怪は、一人しかいない。
消されたのは、ゴーストと怨霊の方だった。
九羽が真っ二つに割った瞬間、ゴーストと怨霊は真っ赤な生き血に変わって、祭の頭上にザバーッと降り注いだ。
大量の血を浴びて、祭は、呆然としていた。
「な、に、これ……?」
全身血まみれだった。
口の中に入らなかったのは、せめてもの救いだ。
咄嗟に目を閉じたおかげで、眼球も赤く染まらず無事だった。
閉じれたのは、十羽によく似た声のおかげだ。
「目つむって!」
(え?何で?)
祭は不思議に思ったが、動作は速かった。
ぎゅっと目を瞑った瞬間、頭の上に多量の水が落ちてきたのだ。
少なくとも、祭は、水だと思った。
目を開けた瞬間、悲鳴を上げそうになったが、憎々しげに自分を見つめる冷たいルビーアイと目が合って、言葉を呑み込んだ。
ゴーストと怨霊が祭を襲う一瞬、祭の両目に赤い羽が映った。
てっきり十羽が助けてくれたのだと思っていたが、違ったようだ。
「あなたが、助けてくれたの?一体どうして?」
祭は、心底不思議に思った。首を傾げると、九羽が嬉しそうに答えた。
「ヒロインの君に、会いに来たんだよ。十羽の心の声が届いたからね。『ねえ、九羽、僕たちの羽、綺麗なんだって』十羽の生まれて初めての友達を、死なせるわけにはいかないから。邪魔者には消えて貰ったよ」
九羽は、もう一度鎌を握ると、新しい獲物に狙いを定めた。
「さてと、ジョーカーにもお帰り願おうか」
そう言って不敵な笑みを浮かべた兄に、十羽は心から感謝した。




