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乙女ゲーム《胸キュン大恋愛》第一回目のヒロイン  作者: かつおぶし(カクヨムのペンネーム)
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第8話 命懸けの、ゴーストポーカー 1


「折角、友達になったのに、どうして、そんなこと言うんですか?私は、まだ一緒にいたいです。そんなバカげた願い事は、絶対にしません!」


 ユトンが、どれだけすごんでも、さいは、一歩も引かなかった。


「分かった。それなら、ゴーストポーカーで、俺に勝ってみろ。おまえが勝てば、もう一切口を挟まない。おまえが、負けたら、大人しく俺を好きになれ。いくら、おまえが嫌がっても、俺が攻略対象なのは変わらない、この乙女ゲームを担ってる王子だ。第一回目から、シナリオの破綻は絶対にさせない」


 ユトンのルビーアイは、怒りで燃えていた。

 祭は、それに怯む事なく即答した。


「分かりました、その勝負、受けて立ちます!」


 十羽とわが地上に着いた時、二人は、火花を散らしていた。


「ちょっと、君たち、どうしたの?何で、そんなに怒ってるの?」


 その質問に答えたのは、ユトンだった。


「ゴーストポーカーで、勝負する事に決まった。俺は、おまえに浮雲に帰って欲しいと思ってる。だから、この娘に、願い事の一つを、それにしろと言ったんだが、嫌だと言い張るんだ。それで、喧嘩を売った。どうせ負ける。大人しく俺を好きになると約束をした」


 険しい瞳で淡々と話すユトンを黙って見ていた十羽が、声を荒げて宣言した。


「僕の行動を、どうして君が決めるの?僕が決める事だ!それに、君を好きになるのも、嫌いになるのも、祭が、自分で決める事だよ!」

 

 背から、死神の鎌を引っこ抜こうとした十羽を、祭が押し留めた。


「待って、十羽!私、絶対に勝つから!私たちの友情の邪魔なんて、絶対にさせない!だから、私を信じて、傍で見守って。私は、十羽と、もっと一緒にいたいから、こんな卑怯な王子になんか、負けない!私の未来にあるのは、勝利の二文字だよ」

 

 十羽は、祭の決意を聞いて、ただただ圧倒された。


「どうして、君は、僕を見てくれるの?」


 悲し気に揺れた瞳の奥には、喜びが隠れていた。

 祭は、それに気付いて微笑んだが、ユトンは、眉をひそめた。

 そして、見て見ぬフリをした。


 (保持ほじ妖怪と人間は、絶対に結ばれない。こいつらは、ここで切り離す。それが、二人の為だ。悪いな、十羽。この娘に、勝利を譲るわけには、いかない)


 熱く固い決意を胸に秘め、ユトンは、ゴーストポーカーを、手品のように、ポンっと取り出した。


 ユトンと祭が、クスノキの下に向い合って座ると、祭の右横に、十羽は腰を下ろした。 


「ゴーストポーカーのルールを説明する」


 祭は、黙って聞いたが、実は、ポーカーは、初めてだった。

 祭が、勝負を易々と受けたので、まさかルールも知らないとは、ユトンも十羽も思わなかった。


「カードの絵柄のゴーストは、本物だ。勝負に負けると、手札の分だけ、カードからゴーストが飛び出す。そして、墓地に戻って行くが、機嫌が悪い時は、敗者を呪い殺す事もある」


「呪い殺す!?」


 祭が、びっくり仰天して、目をパチパチさせていると、ユトンが、口角を吊り上げて意地悪く笑った。


「降参したら、どうだ。それが、身の為だぞ」


 祭は、一度だけ唇を、ぎゅっと噛み締めたが、右横の十羽を想って、迷いを消し去った。友達になって早々、邪魔されるわけにはいかない。

 これから始まる深い友情の絆を思えば、命を懸ける事など何でもないと思えた。

 躊躇いなど、もう起きなかった。


「その言葉、そっくりそのまま返します!」


  祭は、真っすぐ、ユトンを見据えた。


「氏神様も、とんでもない間違いをされたものだ」


  ユトンは、肩を竦めて呟いたが、諦めたように言った。


「俺は、助けないぞ。十羽、おまえも、手を貸すな」

 

 ユトンは、てっきり十羽が反論するものと思っていたが、十羽が信じられない事を言ったのだ。


「祭が勝つから問題ないよ」


 ユトンは、目を丸くして、呆気に取られた。

 勝つから問題ないよ、この言葉を十羽が使う相手は、九羽くわだけだった。


(そこまで惚れたか)


 ユトンは、奥歯を噛み締めた。


(結ばれた終わりだ。浮雲で過ごすか、下界で過ごすか、どちらかしか選べない。悪いが、容赦なくいくぞ)


「三回勝負でいいだろう。本当は、一回勝負で十分だが、そこだけ情けをかけてやる。三回負けたら、地獄だがな」


 ゴーストカードの裏面は、普通のトランプと変わらなかった。

 紫と赤の水玉模様で、真ん中に黒い死神の絵柄がある。


「ジョーカーは入れない。そもそも無いからな。使用するカードは、52枚だ。26枚は、通常のゴーストカード、残りの26枚が、怨霊のカードだ。ゴーストは、気分で呪い殺すのを決めるが、怨霊カードは、たたられるのが確実だ。本当に、いいんだな?」


 最後の念押しに、一も二もなく、祭は頷いた。


「望むところです」


 ユトンは、深く溜息を吐いて、説明を続けた。


「回す手札は、おまえたちの世界と同じで、一人五枚だ。残りの42枚は、真ん中に置く。ゴーストカードと怨霊カード、この二種類で52枚には、意味がある。ゴーストカードが、キングで、怨霊カードもキングなら、普通は、ワンペアだ。おまえの世界では、そうだろ?こっちは違う。ゴーストカードのキング同士だけが、ワンペアになれる。ゴーストカード26枚の中に、キングは、二枚。それは、怨霊カードも同じ事だ。ゴースト同士、怨霊同士が揃うのが、絶対的条件だ。カード替えは、二回まで」 


 ユトンは、カードを空中に浮かせると、あっという間にシャッフルし終えた。


「うわあっ!すごいっ!」


 祭は、一瞬怒りも忘れて、感嘆の声をあげた。

 本物のマジックのようで、その一瞬だけ楽しく思えたが、すぐさま我に返った。

 カードが、ピューンっと手元に飛んで来たからだ。


 基本的ルールすら知らない祭が、強い数字が何なのかも尋ねなかったのは、ある意味、ゴースト子爵のおかげだった。

 大のポーカー好きのゴースト子爵に、毎晩付き合わされる令嬢たちが、愚痴をこぼし合ってくれていたおかげである。

 祭は、長々と続く廊下に掛けられた肖像画たちに、こんなにも感謝する事になるとは思わなかった。

 

「始めるぞ」


「はい!」


 ユトンの鋭い掛け声と共に、命懸けの真剣勝負が始まった。

 

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