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乙女ゲーム《胸キュン大恋愛》第一回目のヒロイン  作者: かつおぶし(カクヨムのペンネーム)
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第5話 末っ子の十羽が、一番ぶっとんでいます

 

 使用しよう妖怪は、保持ほじ妖怪のように完全な人形ひとがたではない。

 しかし、化けるのが上手で、メイドや使用人の恰好で普通に働いている。


 えんみや家の使用妖怪たちは、十羽とわ九羽くわの世話を互いに押し付け合ったが、大抵は、若い使用妖怪たちが面倒を任された。


 使用妖怪を選んだのは、八幡の妹だ。

 雪乃葉に恨みがあった菩薩ぼさつは、性悪な者たちを屋敷に送り込んだが、彼女たちも、多少の優しさはみせていた。


 しかし、十羽が三歳になった途端、豹変したのだ。

 料理長が二人に与える食事は、人間の記憶ではなく、獣の記憶になった。

 そのせいで体調を壊した二人を見て、屋敷の使用妖怪は皆、腹を抱えて笑ったのだ。

 

 十羽と九羽への仕打ちは、年々酷くなったが、彼らは完全に忘れていた。

 二人に流れる人食い鬼の血を。


 十羽が六歳になった日の朝、二人は反撃に出たのだ。

 それを使用妖怪から聞かされた一羽かずはは、二人を探して屋敷中を飛び回ったが、やっと中庭で見つけた時には、遅かった。

 二人は、目玉を全部埋め終えた後だった。


 スコップを持った両手は、赤く染まっていた。

 それを見て、一羽は、ぎょっとするとともに、ぞっとした。


「あなたたち、一体、何を埋めていたの!?使用妖怪たちの目玉を串で一突きにして、えぐり出したというのは本当なの!?どうして、そんな酷いことをしたの!?」


 憤怒ふんぬの形相で問いただしたが、十羽と九羽の薄笑いを見て、一羽は、はっと息を呑んで驚愕した。

 たった六歳の子供が、大人を怯ませるような冷たい目で、恐ろしい微笑を浮かべたのだ。


 (この子たちを諭さなければ、将来、大変な事になる)


 一羽が口を開いた時、ドオーンッという爆発音が中庭まで響き渡り、一羽は慌てて振り向いた。


 「まあ!!なんてこと!!」


 屋敷からモクモクと噴煙が上がるのを見て血相を変えると、一羽は、ロケットのように飛んで行った。


 「あの子たち、また、マジックアイスクリンを作ろうとしたんだわ!あれほど注意して説教もしているのに、全く言う事を聞かない!一体、誰に似たの!?」

 

  三羽みつば四羽よつばは、毎日のように騒ぎを起こして、一羽を困らせた。

 そのせいで、使用妖怪たちは、目玉だけでなく、舌も両耳も、両手両足を失っていったのだ。

 使用妖怪が、次々に辞職するのを、一羽は必死で引き止めたが、駄目だった。

 給与を百倍にすると言っても、彼らの意思は変わらなかった。


「この次は、あたしたちの命をとるでしょうよ」

「こんな恐ろしい屋敷で働きたくありません」


 肩を落とす間もなく、一羽は、ますます忙しくなった。

 家事と双子の世話に追われて、十羽と九羽を構う余裕はなかった。  


 誰にも愛されずに育った二人は、才気さいきばしった兄弟に育ったが、情を知らずに成長した。

 一族に蔑まれながら成長したのも災いして、二人の基準は、何事に置いても、面白いか面白くないか、その二つになってしまったのだ。



 

「ねえ、九羽。僕ね、影のヒロインを見に行こうと思うんだ」


 それは、《胸キュン大恋愛》が始まる前日の晩だった。

 二人は、屋敷の中庭の、かつて大量の目玉を埋めた周辺を、ぶらぶらと歩きながら月光を浴びていた。


 夏の夜風が、衣の裾を揺らして通り過ぎた。

 これから妖魔を狩りに三十五番地に行こうと話していた所だったので、九羽は驚いた。


「!?嘘でしょ!?」

 

「本気だよ。だって、面白そうだもん。三羽と四羽が話してるのを聞いて決めたんだ。だって、妖魔で遊ぶの飽きちゃったもん」


 二人の趣味の一つは、たまに三十五番地に流れ着く妖魔を、見るも無残に切り刻む事だった。

 今夜も遊びに行くつもりで、闇に溶け込む黒い衣に身を包んでいたが、十羽が突然立ち止まって口を開いたのだ。


「大恋愛したいなんて、くっだらない!僕ね、そういうのを聞くと、めちゃくちゃにしてやりたくなるんだ。愛とか恋とか、そんな言葉を聞くとね、僕、イラッとしちゃうんだ」


「イラッとするのは自由だけど、フルーヴ王国に手を出せば、妖術師ようじゅつしシルスが黙ってないよ。僕は、面倒ごとが嫌いだから、手は貸さないからね!」

 

 九羽が素っ気なく言うと、十羽は、楽しそうに笑った。

 

「ふふっ、そう言うと思ったよ。でもね、僕、決めたんだ。第一回目のヒロインとやらの両手両足の指を一本一本、順番に切っていったら、面白いと思わない?僕、まだ人間で試した事がないんだ」

 

 十羽は、自分の背から、すっと刀を引き抜いて嬉しそうに見つめた。

 月明りに照らされた幼い顔つきは、闇の中でも愛らしく見えたが、その目は、あやしく光っていた。


「どんな悲鳴を上げるんだろう。最後は、首をちょん切るんだ!考えただけで、ぞくぞくする!最高だと思わない?」


「飽きるのも、ぞくぞくするのも勝手だけど、第二王子のユトンが黙ってないよ。影ヒロインの恋人役でしょ?ええっと、乙女ゲームの攻略対象だっけ?それに、もと王宮魔術師だよ?舐めてかからない方がいいよ」


 その晩は、九羽にしては、まともな発言をした。

 いつもだったら、十羽に賛同して面白がる。

 けれど、今度ばかりは危ない橋だと危惧を抱いた。


「今も魔法が使えるんだから、強敵だよ。魔法力は、王太子リベールには劣るけど、十分強い。止めた方がいいよ」


 十羽は、眉をひそめる九羽に背を向けて、耳を貸さなかった。


「邪魔するなら殺せばいい。簡単だよ。今も今までも、これから先も、ずっとずっと僕たちは二人なんだ。邪魔する奴らは消せばいい。それだけなんだ」


 そう言うと、月を見上げて、ぽつりと呟いた。


「それしかないんだ」


「……分かった、好きにすればいい。誰も僕たちを止めないから、僕たちは、自由だよ」

 

 冷たい横顔を見て、九羽は囁くように言った。


「いってらっしゃい」

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