第5話 “やってあげた”は、たいてい迷惑なんよ
「ここも、草、だいぶ伸びてんな」
「やったらええやん、昨日みたいに」
次の日、三人は前回とは別の空き家を見に来ていた。
庭は雑草が膝丈まで伸びており、門扉の周辺には郵便物が詰まっている。
「ここ、持ち主おらんのやろ?」
葵が鎌を構えながら言った。
「空き家バンクに載ってるし、見て回っていいって書いてあった」
千尋が確認する。
「じゃあ、ちょっとやっとこか」
灯が腰を落とし、草刈りを始めた。
その15分後。
突然、後ろから声が飛んだ。
「なに勝手なことしとんのじゃ!」
振り返ると、そこには70代後半と思しき女性・福本さんがいた。
険しい目つきで三人を睨んでいる。
「ここな、わしの弟の家なんよ。まだ手放す言うとらんのに、なんで勝手に触っとるん!」
「す、すみません!」
「許可が出てると思って……」
「確認、もっとちゃんとしとけばよかったです」
3人はすぐに手を止めて頭を下げた。
福本さんは吐き捨てるように言った。
「やってあげたつもりでも、うちらには“壊された”ようにしか見えんときもあるんよ。
あんたら、誰に頼まれたん?」
その言葉に、葵は言葉を詰まらせた。
灯はじっと立ち尽くし、千尋が口を開く。
「誰かに“頼まれた”からじゃないです。
“やるべきこと”として、そう書いてあったから動いたんです。
でも、“頼まれてない場所”に踏み込んだのは、うちらのミスです。すみませんでした」
福本さんはしばらく黙ってから、吐息交じりに言った。
「まぁ……最近はこういう制度があるんやな。
悪気ないのはわかっとるけど、勝手に触るんはやめとき」
その場を離れたあと。三人は無言だった。
坂を下りながら、ようやく灯が口を開いた。
「……やってよかったんか、あかんかったんか、もうようわからん」
「“やってあげた”って、こっちの都合やなって思った」
千尋がぽつりと答える。
「うち、褒められたかっただけやったかも」
葵の声は、小さく震えていた。
誰も悪気はなかった。
でも、それが通用しないのが、**“人の家”と“人の気持ち”**だった。
この村で生きるって、
何かをすることじゃなくて、
“していいことと、しない方がいいこと”を知ることかもしれない。
次回予告(第6話)
ギャルたち、初めての“空振り”。落ち込む葵をよそに、灯が黙々と一人で動き始める。
「なんであんた、そんなに怒られ慣れてるん?」――その答えは、山の中にあった。