表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/44

第40話「制度の外で、また始める」

小雨が降った翌日、空は晴れた。

 村の山あいに、ほんのり霧がかかる。


 


 倉本灯は、空き家の前で写真を撮っていた。

 傘の取っ手を小脇に抱えながら、軽くシャッターを押す。

 そこには、まだ「カフェ」ではない、ただの古い民家が写っていた。


 


 でも、灯には“そこにあるはずの景色”が見えていた。


 


 縁側に座るおばあちゃん、コーヒーを注ぐ自分、

 談笑するお客さん、アイスを口にする子どもたち――。


 


 まだ実現していないけれど、確かに自分のなかにある風景。


 


 


 一方その頃、都内のカフェチェーン店舗。

 高森葵は研修バッジをつけてカウンターの奥に立っていた。


 


 「アイス3つ入りまーす! はい、次接客お願いね!」


 


 「はいっ!」


 


 キビキビと動きながらも、頭の片隅には、あの時バズった“村のアイス写真”がずっと残っていた。

 それを投稿した日から、何かが変わった気がしている。


 


 (今は、ここでやれること全部、覚える)


 


 (いつか、届けられる人になれるように)


 


 


 その夜、自宅のPCで開いたクラウドファンディングページに、通知が1件。


 


 「支援者No.10:くらもと あかり」


 


 「……やっぱ、見てたんやな」


 


 思わず声が漏れて、葵は笑った。


 


 


 水野千尋は、大学の図書館にいた。

 卒論と制度報告書のデータをまとめるために、最後のチェックをしていた。


 


 画面の隅に、自分が書いた一文が浮かぶ。


 


 「私たちの実習は終わったけれど、“暮らす”ことは続いている。

 そして、その記録は次の誰かの“問い”になってほしい」


 


 提出ボタンをクリックする。

 静かな達成感とともに、ほんの少しだけ“寂しさ”が混ざっていた。


 


 ふとスマホを見ると、グループチャットに通知が来ていた。


 


 葵:「来年の制度ポスター出てたよ」

 灯:「ポスター、あの空き家の前じゃない?(笑)」

 千尋:「うちらのこと、誰も知らんけど、何かがちゃんと残ってる気がする」


 


 


 制度は終わった。


 でも、“つながり”は終わっていない。


 


 3人はそれぞれの場所で、制度の「その先」を生き始めていた。

この第40話で、最初の長編章(第1〜3章)に一区切りがつきました。

制度という“用意された舞台”の外でも、3人はそれぞれの形で次のステージへ進み出しました。


誰かに与えられた時間ではなく、

「自分の意志で選ぶ暮らし」が、ここから始まっていく。


読者の皆さまにも、自分の進路や立ち位置を重ねていただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ