第39話「三人、ふたたび交わる時間」
大学の南棟、食堂奥の空いたスペース。
灯と葵、千尋が向かい合って座っていた。
「やっと、3人そろったね」
葵が紙コップのアイスティーをくるくると回しながら言った。
「うち、ゼミ発表に追われて死にかけてたわ」
千尋が珍しく苦笑する。
「制度の話、ようやく書けた。やっと自分の中でまとまってきた気がする」
「書いてたやんな、報告書……どう? スゴいやつ書けた?」
「ううん、全然。でも、“記録って人のことも書かんと意味ない”って、やっとわかっただけ」
葵と灯は顔を見合わせて、小さくうなずいた。
灯は、ノートの端をなぞりながら口を開く。
「うちは、もう一回村に行こうと思ってる。空き家の持ち主とも連絡ついた。
“灯’sカフェ”、ほんまに始めるかもしれん」
葵が目を丸くする。
「え、ほんまに? マジで動いてるやん」
「まだ、下見レベルやけどね」
「うちは……就活、進んでる。志望は地域素材扱ってる食品会社。
でも正直、うちには“あのアイスの写真”がずっと残ってて」
千尋がくすっと笑う。
「まだ言うてるん、それ。クラファンで起業ちゃうの?」
「起業はせえへんよー。今はまず働いて、力ためる。
うちは“届け方”に自信がない。だから、“届く仕組み”に入る」
灯が、コーヒーを口に運びながら言った。
「それぞれやけど、うちら、全部間違ってない気がする」
「うん。制度終わってからの方が、なんか始まってる感じ」
沈黙が、心地よく流れた。
「次の実習、来年の春やっけ?」
「うん、ポスター貼ってあったよ」
「後輩たちに、何か渡せへんかな。うちら、制度だけじゃなかったし」
千尋が言う。
「“制度ノート”作ってみる? よそ者でも暮らせた記録」
「タイトルだっさ! でも、それ、ええかも」
「じゃあさ、また、集まる?」
三人は笑った。
ふたたび交わった時間。
それは、“それぞれの道”の始まりでもあった。
この回では、3人がふたたび顔を合わせ、初めて“進路を言葉にする”時間を描きました。
笑い合いながらも、それぞれの内面に確かな「変化」が芽生えています。
制度を超えて、制度から生まれた「個人の選択」が交差したこの時間が、
次章へ続く大きな節目になります。