第3話 “暮らす”って、実は一番難しい
「今日から、何すんの?」
葵が食卓に置かれたメモを指差しながら言った。
そのメモには、**「まずは空き家の調査」**と書かれている。
村で放置されている空き家を見て回り、再利用できるかどうか判断する作業だ。
「こういうの、学校でやってなかった?」
千尋が口を開く。
「こういうのって、住民が『勝手にやってほしい』っていうからこそ、やってもらうんだろうな」
「わかってるけど、役場から言われたら、やらなきゃだし」
灯は、テーブルに置かれた紙をじっと見ていた。
その目には、ちょっとした迷いが見える。
「どうした?」
千尋が問いかける。
灯は、ふと顔を上げた。
「……うちら、この仕事が本当に役立つのか、わからん」
「え?」
葵が首をかしげる。
「だって、この空き家、ほんまに住めるんか?」
「住めるけど……」
「じゃあ、それでいいんちゃう?」
千尋は、少し考えてから口を開く。
「うちら、何かを“作る”ことじゃなくて、“壊す”ことをしてる気がする。
それが村のためになるんやろうか、って思う」
その言葉に、葵は黙った。
「でも、もし空き家が放置されたままでいるよりは、住めるようにした方がいいよね?
どんな形でも、変えることが意味がある気がするけど」
葵が言った。
「確かに……それが“暮らし”に繋がるなら」
三人はしばらく黙って、テーブルの上のメモと空き家のリストを見つめていた。
それが、彼女たちが抱える最初の疑問だった。
午後、三人は村内を歩きながら空き家を見て回った。
それぞれが思い思いに、部屋の中や庭を調べる。
最初は、ただの“やらされている”作業だと思っていたが、時間が経つにつれて、
次第にその作業が**「暮らす場所を“作る”こと」に変わっていく感覚**を覚えていった。
最初に回った家は、屋根が歪んでいて、床がきしむ音が響いた。
「これ、住むには相当の手間がかかるわね」
千尋が腕を組んで言った。
「うん。水道の配管が腐ってる」
葵も、床下を覗き込みながら答える。
「でも、できると思う。空き家を直すって、そんな難しくないやろ?」
灯が静かに言った。
「うちら、やってみる?」
三人は、少し黙ってから頷いた。
「うちら、やってみるか」
千尋が言う。
「うん、やろう」
葵も頷く。
灯はただ、うんと言った。
そして、そのまま歩き出す。
何かを作り始める気持ちが、少しずつわかってきた気がした。
次回予告(第4話)
役場との次の接触。空き家再生プランの提出、そして最初の村人との接触。
しかし、村人たちの態度は一筋縄ではいかない――。




