第37話「倉本灯、“灯’sカフェ”という小さな野心」
「これでいけるかな……」
倉本灯は、村で撮った写真を見つめながら、スマホの画面をスクロールしていた。
今、思い出すのはあの日、村の縁側でおばあちゃんたちとお茶を飲みながら過ごした時間。
その時の心地よい風と、ふとした会話の中で感じた温かさが、今でも頭に残っている。
「やっぱり、あの空き家を使いたい」
灯は、心の中で決意を固めた。
実習が終わって数週間経ち、何度も村を訪れては空き家の前で立ち尽くしていた。
自分にできるのか、迷っていた。しかし今、ひとつ確信が持てるようになった。
「灯’sカフェ――それを本当にやりたいんだ」
SNSに投稿したその写真は、思いのほか多くの反応をもらった。
田舎の風景とアイスの組み合わせが、どこか懐かしくて、心を引き寄せたらしい。
思わず投稿しただけだったけれど、そこから手応えを感じていた。
――だが、現実は甘くない。
灯は再びスマホを取り出し、起業支援のページを開いた。
そこで見たのは、企業や地域支援のための資金制度や起業プラン。
しかし、ページの文字を追いながらも、やはりどうしても不安が胸を締めつける。
「私にできるのか?」
何度も何度も、問いかけが浮かんでは消える。
灯は手にしたスマホをじっと見つめたまま、しばらく黙っていた。
そのとき、少し遠くから声が聞こえた。
「灯ちゃん、ちょっと来てみ?」
それは、村の女性たちの声だった。
いつもは地域の祭りや集まりでよく顔を合わせるおばあちゃんたち。
灯は軽く頷くと、スマホを片手に立ち上がり、向かってみる。
「今日は、あの空き家をちょっと見に行くんだ。
何か、やるなら“みんな”と一緒にしたい」
灯はそう呟きながら、再び歩き始めた。
村の中を歩きながら、彼女は心の中で何度も自問した。
「本当にできるのか?」と。
でも、今の自分には、どんな道を選んでも、進まなければ意味がないことに気づいていた。
再び空き家の前に立ち、しばらく静かに眺める。
「うん、やってみよう」
灯は小さく呟いて、空き家の扉に手をかけた。
その手のひらに伝わる感触は、何かを始める力を感じさせた。
灯が“灯’sカフェ”を始める決意を固めた回です。
SNSの反応や村人との交流を通じて、彼女の中で少しずつ“動き”が生まれました。
でも、やはり現実的な壁はまだまだ高い。そんな中で、灯の手が“次の一歩”を踏み出す瞬間を描きました。
次回は、起業準備が本格化し、資金や支援制度の壁に向き合いながら、灯の小さな一歩が現実に変わっていく様子を描きます。