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制度で村に送り込まれた女子大生3人、2ヶ月間の実習生活と、それぞれの未来  作者: 巡叶
第二章 この村に、うちらがいない日を作るために
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第27話「それぞれの距離感」

秋祭り当日、村の小さな神社は、予想以上ににぎわっていた。

 子どもたちの笑い声、縁台に座る高齢者、焼きそばの香ばしいにおい――。


 灯は出店テントの裏で、カセットコンロの火加減を見ながら黙々と湯を沸かしていた。


 


 「灯ちゃん、こっち手伝ってー!」


 少し離れた場所で、葵が子どもたちに囲まれている。

 水風船のコーナーで、小学生たちと一緒に笑っていた。


 


 「あの子、もうすっかり“村の人”やな」


 横で焼き鳥を焼いていた農協のおじさんがぽつりとつぶやいた。


 


 灯は笑って返したが、なぜか胸の奥がざわついた。


 


 


 「……うち、村に残るとかじゃないよ?」


 祭りの終盤、拠点へ戻る帰り道、葵がふと口を開いた。


 


 「え?」

 灯は少し驚いた声を出した。


 


 「いや、さっき千尋に言われたんよ。“本気で地域定住とか考えてるん?”って。

 うち、別にそこまで深く考えてへんし。なんとなく“この人らと一緒に過ごした時間”が、ちょっと好きになっただけ」


 


 「あー……言いそう、千尋」

 灯が苦笑すると、葵も小さく笑った。


 


 「でも、あんたもやで。最近、村の人と話してる顔、優しいもん」


 


 その言葉に、灯は答えなかった。

 心のどこかに、たしかに“残りたくなる気持ち”が芽生えていた。

 でもそれを口にするのは、なぜか、少しだけ怖かった。


 


 


 一方そのころ、拠点の2階では千尋がひとりでパソコンに向かっていた。


 実習報告書のドラフト作成。制度側に提出する形式的な文書。

 箇条書きされた実績、写真添付、住民の声。


 すべては「制度の内側」から見た記録だ。


 


 でも。


 何度読み返しても、そこに「私たちがここで感じた何か」は、書かれていない気がした。


 


 “この人たちと、この場所で過ごした意味は、こんなテンプレートに収まるのか?”


 


 千尋は初めて、心の中でその問いを口にした。


 


 パソコンを閉じ、ふと棚の上に置いてある紙袋を見つめた。

 村のおばあさんからもらった、素朴な手作りの干し芋。


 


 袋には、丸い字でこう書いてあった。


「忘れんように。ありがとう。」


 


 千尋は思わず笑ってしまった。


 


 “誰が誰を忘れないのか。”


 自分たちは地域に何かを「した」わけじゃない。

 でも、何かを「一緒に居た」と思ってもらえたのかもしれない。


 


 


 夜、拠点で3人が顔を合わせた。

 テレビもつけず、スマホも置いて、ただ、炊き立てのごはんを囲む。


 


 「……今日、楽しかったな」


 灯がぽつりとつぶやいた。


 


 「うちも。でも、ちょっと怖くなってきた」

 葵が言った。「これが終わったあと、東京に戻って、全部忘れてしまうんかなって」


 


 「それは、うちら次第ちゃう?」

 千尋が静かに言った。


 「誰に言われたわけでもなく、“思い出す時間”を持てるかどうか」


 


 3人は、黙ってそれぞれのお茶碗を見つめた。

 そこには、制度では測れない、“個人の気持ちのゆらぎ”が詰まっていた。


 


 地域を出るまで、あと一週間。

 3人は、“制度ではなく、自分たちの言葉”で、終わりを迎える準備を始めていた。

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