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制度で村に送り込まれた女子大生3人、2ヶ月間の実習生活と、それぞれの未来  作者: 巡叶
第二章 この村に、うちらがいない日を作るために
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第26話「静かに近づく終わり」

 「あと、何日やっけ?」


 葵がふとつぶやいたのは、村の朝の空気が少しだけ冷たくなってきた頃だった。


 朝露がまだ乾かぬ畑を横目に、3人は子ども会の秋祭り準備の手伝いに向かっていた。


 


 「たしか、来週の金曜で正式終了。片付け入れて、あと……10日?」

 千尋がスマホのカレンダーを見て答えた。


 


 「10日、か……。はやない?」


 葵の声は、思ったよりも軽くなかった。


 


 灯は何も言わず、小さくうなずいた。


 最近、葵の表情が少しだけやわらかくなった気がしていた。

 逆に、千尋の口数は減ってきている。


 


 村の人たちも、どこか「もう終わる」という雰囲気を感じ取っているようだった。


 


 「学生さん、来年も来てくれるんやろか?」

 神社の境内で掃き掃除をしていたおばあさんが、そうつぶやいた。


 


 「うちは……来るかどうか、わからへんです。でも、誰かは来ると思います」


 灯はそう答えた。たぶん、そう返すしかなかった。


 


 「ふぅん。せやなぁ……。なんか、あっという間やな」


 


 あっという間。

 本当に、その通りだった。


 


 最初は、電波が入らないとか、お風呂が昭和の釜式だったとか、そんなことばっかり話していた。

 今は、子どもに名前を呼ばれるし、村の空き家の鍵を預かることにも慣れた。

 でも、それが“居場所”になったかといえば……わからない。


 


 祭り準備の合間、灯は1人で拠点に戻った。


 


 食器棚の上に置いていた実習用ノートを取り出す。

 初日に書いた字は、やたらきれいで、気取っていて、今見ると恥ずかしい。


 


 ふと、拠点の隅に置いていた野帳が目に入った。

 空き家調査に使っていたメモ帳。走り書きの地図、軒先の情報、会った人の名前。


 その中に、村の住人がふとこぼした言葉が書いてあった。


「この家、誰かに使ってもらえたら、それでええ」


 


 ……それでええ。


 


 それでよかったのか。

 私たちがここにいたことって、それでよかったのか。


 


 ノートの背表紙に、灯はボールペンで小さく書いた。


『いた、という証拠は、誰かの記憶になるのかもしれない』


 


 その夜。拠点で3人で晩ごはんを囲みながら、

 灯は思い切って言った。


 


 「うちらさ、なんか、残せてると思う?」


 


 葵は箸を止めて言った。


 「うち、最初はマジで帰りたかった。

 でも今、ちょっと、もう少しここに居たいなって思ってる」


 


 千尋はしばらく黙っていたが、ぽつりと口を開いた。


 


 「……制度の評価項目に、“残したもの”って欄がある。

 でも、評価されることと、誰かに思い出されることは、違うんかもしれへん」


 


 誰も、すぐには言葉を続けなかった。


 でもその沈黙は、初期の気まずさではなくて、

 “この村との距離を大事にしたい”という、3人なりの敬意だった。


 


 実習の終わりが、静かに、確実に近づいていた。



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