第23話 終わるって、なんでちょっと寂しいんやろな
夕方、空き家の縁側に座っていると、ひんやりとした風が足首をなでていく。
庭の柿の実がすっかり色づき、時おり鳥がついばんでは飛び立っていく。
音が少ない。けれど、その静けさは決して空虚じゃない。
灯は膝の上の書類を見つめていた。
大学から届いたメールに添付されていたのは、「活動終了報告書」。
提出期限の文字が、目にじわりとにじむように見えた。
「来たな、終わりの予感」
葵がアイスコーヒーを啜りながら言う。
氷がグラスの中で小さくカランと鳴る音が、やけに印象に残った。
「書くの、めんどい……けど、なんか……うまく言えんな」
千尋は書類の冒頭を見たまま、ペンを動かすことなく止まっている。
「“終わる”って、なんか、ちょっと、さみしいよな」
灯の一言に、風がまた一つ、庭の枯れ葉を転がしていった。
昼下がり、役場の佐々木さんのところへ、借りていた軽バンの点検に向かった。
土の匂いと微かに油の香りが混ざった整備場の空気は、いつもと変わらない。
でも、佐々木さんの言葉だけは、ちょっと違った。
「おまえら、なんやかんやで、ちゃんと残したな」
と、小さく笑って言ったあと、
「また来年も誰か来るんやろ? あいつら、びっくりするわ」
と、言葉を続けた。
その「また来年」という一言が、妙に胸に刺さった。
自分たちがこの村にいる時間は、どうやら誰かの“引き継ぎ”にもなるらしい。
夕方、村の駄菓子屋に寄ると、おばあちゃんが袋菓子を持たせてくれた。
「カフェ、またやってよ。あのコーヒー、苦いけど美味しいから」
と言って。
放課後、拠点に来ていた中学生が、ノートの隅にそっと「ありがとう」と書いていた。
漢字がちょっと間違っていて、でもそれがなんだか泣きそうになるくらい嬉しかった。
夜、3人は灯りを消した拠点の中で、それぞれ黙って座っていた。
音は何もなかった。ただ、時間だけが、静かに流れていた。
「……うちさ」
葵がぽつりと口を開いた。
「たぶん、“うまくいかんかった”って思うんかも、最初の頃は。
でも、今はなんか、“ここに居た”って思えるんよな」
「うちも。
終わるって、なんか虚しいだけやと思っとったけど……
なんか、“ちゃんと生きた”感じ、ある」
千尋の声は、小さいけど確かだった。
灯は、床に映る月の光を見つめながら言った。
「ここって、“うちらだけの時間”やったな。
でもその時間が、村の中に、少しだけでも沈んで残るなら……
終わることも、悪くないんかもしれん」
その夜、誰も泣かなかった。
けれど、誰も笑いすぎもしなかった。
静かな夜に、それぞれの心の中で、何かがひとつ、落ち着いた気がした。
次回予告(第24話)
「報告書に何を書けば、“居た”って伝わるんやろ」
ギャルたちは実習の“まとめ”を前に、それぞれの言葉を探し始める。
次に進むための、自分の“言葉”を――。




