第21話 “うちらがいない日”が、ちゃんと回るように
「うちら、村にいない日って、もうすぐ来るんよな」
朝の台所。灯が味噌汁をよそいながら、ぽつりとこぼした。
実習も終盤に差しかかり、3人が水沢村を離れる日も、もうカレンダーの1枚先に見えていた。
「いない日」の準備が、本格的に始まっていた。
空き家を拠点とした小さな交流スペース、
週1の「灯’s COFFEE」、
放課後に来る中学生とのふれあい――
それは、村の中で“ゆるく機能する場”として定着しはじめていた。
「けど、うちらがいなくなったら、この場所、止まるかもしれんよな」
葵がパンをかじりながら言った。
「だから、ちゃんと“人と仕組み”を渡していかんとあかん」
千尋はすでにリストを作っていた。
> 【引き継ぎ事項メモ】
> ・灯’s COFFEE:道具一式・レシピ・豆の仕入れ先
> ・空き家管理:佐々木さんに鍵預け/開閉チェック表
> ・放課後利用:中学校の生活指導教諭との連携
> ・Wi-Fiルーター:役場経由の貸出方式に切替検討
> ・清掃/備品補充:村の子育てサークルへ依頼調整中
「ガチで会社やん、これ」
葵が笑うと、灯もふっと口元をゆるめた。
「でもさ……こういうの作ってるとき、うち、なんかちょっとワクワクするんよ」
「なんで?」
「うちらがいなくなったあと、“うちらが作った何かが動いてる”って想像すると、
それだけでちょっと泣けそうになるやん」
午後。
3人は再び空き家拠点に集まり、マニュアル化の作業を始めた。
ラミネートされた手順書、写真つきで貼った「鍵の取り扱い」「お湯の沸かし方」「豆の挽き方」、
さらには、ノートの最後のページに、ある言葉を追加した。
> 「うちらはここにいた。だから、あなたもここにいてええよ」
その横に、それぞれの名前と日付が並ぶ。
灯、葵、千尋――三人の、半年間の証明。
数日後。
佐々木さんが、次の実習生の概要資料を持って現れた。
「来月から、また別のチームが来る予定やけん。うちらの“あと”やな」
「……誰が来ても、“うちらの続き”になってくれたらええな」
千尋が小さく呟いた。
「せやけど、強制はしたくない。
この場所、誰かが“自分の居場所や”って思えたときに、ほんまに意味あると思うんよ」
灯が言った。
「次に来る子たちが“うちらをなぞる”んやなくて、**“うちらを踏み台にしてくれたら”**うちは嬉しいな」
葵の声は、少し震えていた。
それは、去る人の覚悟だった。
去るけど、消えない。
残るけど、縛らない。
“自分たちがいない日”が、ちゃんと動いている――
その想像が、何よりのご褒美になる気がしていた。
次回予告(第22話)
村のある家から「手紙」が届く。そこには、ギャルたちが知らなかった村の過去と、
今だからこそ“受け渡される想い”が綴られていた――。




