第20話 “引き継ぐ”って、自分の大切を誰かに渡すことなんや
村の空気が少しだけ冬に近づいていた。
木々は色づき、朝は白い息が出るようになった。
3人は、空き家を活用した“拠点プロジェクト”を本格的に進めていた。
地域の主婦や高齢者が集まる小さなお茶会、近くの中学生が来る放課後の居場所、そして大学から来る次の実習生に向けた活動ノート――
少しずつ、「何かが続いていく形」が見え始めていた。
「……うちら、やっとここまで来たな」
灯が、薪ストーブに火をくべながらつぶやいた。
「ここって、“うちらの場所”じゃないのに、“うちらが作った場所”って感じするよな」
葵が笑った。
千尋はノートを開きながら、少し真顔になった。
「でもさ、ここってさ、ほんまにうちらの“最初”なんかもしれんな」
「え?」
「いや、もしさ、うちが将来結婚して、子どもができたとして……
その子に“うちは学生の時こんな場所作ったんやで”って話すとするやん。
それって、“うちの大切なものを引き継ぐ”ことになるんちゃうかなって」
葵はしばらく黙ってから、ぽつりと言った。
「……なんか、わかる。
“誰かに引き継ぐ”って、“自分の好きやったこと”を“誰かの人生に混ぜる”ことなんかもしれん」
灯は、焚き火の炎を見ながらゆっくりと言葉を重ねた。
「もしうちが、いつか親になることがあったとして、
“ここでの暮らし”とか“空気”とか、子どもに見せたくなるんやろな。
“この場所がうちの原点なんや”って、言えるようにしたい」
その夜、3人は“引き継ぐ”という言葉をいつもより深く感じていた。
“制度の中”で動かされてきた実習は、
今や“自分の意思”で動かすものになった。
そして今、その活動を“誰かに託す”ために、記録を残し、仕組みを整え、場所を磨いている。
でもきっと、それだけやない。
自分たちの大切な体験は、やがて自分の人生に混ざっていく。
そして、自分が次の世代に渡す“何か”になっていく。
「うちらが今残してるものって、村のためでもあるけど……
自分の未来の家族のためにもなっとるんかもしれんな」
千尋の言葉に、誰も何も返さなかった。
けれど、暖かい静寂が、部屋の中を包んでいた。
この場所に来たこと。
この村で過ごした半年間。
誰かと出会い、悩み、すれ違って、そして少しだけ前に進んだ日々――
その全部が、いつか“家族に引き継ぐ話”になる。
そう思えたとき、はじめて“実習”が“人生”に変わった。
次回予告(第21話)
新たな実習生を迎える準備が始まる。拠点の引き継ぎ、村人との協力体制、そして最後に3人が残した“手紙”――
これは、未来へ向けたバトンの始まり。




