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第16話 “使われる制度”から、“使いこなす制度”へ

 「来年の人、こんな思いせんでええようにしたいな」

 千尋のその一言から、ノート作りが始まった。


 


 リビングのテーブルに、方眼ノートを一冊。

 タイトルは、葵がマーカーで書いた。


 


 > 『水沢村・実習生活・まじリアル帳(非公式)』


 


 「うちが表紙書いてる時点で公式ちゃうけどな」

 「ええねん、“非公式”って書くのが大事なんや」


 


 中身は、制度の建前じゃなく、3人が実際に体験して困ったこと・助かったこと・使えた小ネタをまとめていく。


 


 ページを開くと、こんな項目が並びはじめた。


 


 - 英雄社ルーターは坂の上に行くとつながりやすい

 - 空き家のポストは「触る前に誰かに聞く」

 - お風呂は薪3本+新聞紙がちょうど良い(濡れた落ち葉は✕)

 - 役場の人が全員親切なわけではない(←千尋)


 


 「これ、ほんまに“生きたマニュアル”になりそうやな」

 灯が感心して言った。


 


 「てか、うちら、もう“学生代表”とかじゃなくて、なんか村の先輩みたいやな」

 葵は笑っている。


 


 この動きは、村の支援員・佐々木さんの耳にも届いた。


 


 「それ、ぜひ役場にもコピーください。地域内に残すの、大事やから」

 「いや、それは“非公式”やから……」

 「でもね、それぐらいの“個人の記録”が一番信頼されるのよ」


 


 その日の午後、3人はいつもより丁寧にノートを書いた。

 “うちら”がいたことを、誰かがあとで知れるように。


 


 夜。

 千尋が、今日の記録欄にこう書き込んだ。


 


 > 「うちらは制度に来さされたけど、今は制度を使ってる感覚ある」

 > 「“使われる学生”じゃなく、“制度を使いこなす人”に変われるんやな」


 


 それは、現場で悩んで、迷って、

 誰にも褒められない中で少しずつ育ってきた自分たちの姿への気づきだった。


 


 そして3人は、最後にこの一文を書き足した。


 


 > 「このノートを読んでくれる誰かが、うちらよりうまくやれたら嬉しいです」


 


 光に照らされたノートの紙面は、

 誰かへのバトンのように見えた。


次回予告(第17話)

ギャルたち、初の“講義側”に。別の地域で実習中の学生たちとの合同ゼミで、灯が語った“言葉にならない感情”。

「正解じゃないけど、大事なことってあるんよ」



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