第13話 “制度の外”で、うちら何ができるんやろ
「失礼しますー……うわ、えらいにぎわってますねぇ」
収穫祭の片付けが落ち着いた頃、ひとりの男性が葵たちの屋台に近づいてきた。
スーツ姿で、胸元にはL型大学の校章バッジ。
「君たちが実習チームか。いやぁ、話題になっててね。SNSでもちょっとバズってたし」
「えっ、えっ、誰? どこの人?」
「大学の実習連携センターの者です。村には今朝から来ててね、ちょっと見学を」
千尋がすっと前に出た。
「何かご用件でしょうか?」
「ええ、正式にではないんだけどね……。
この村での活動、思った以上に地域内外の反応が良い。
そこで相談。この活動、“卒業後も続ける意思”ってある?」
葵と灯が顔を見合わせた。
「どういう意味ですか?」
「つまり、“地域起業”という形でこのプロジェクトを事業化すること。
大学としては補助制度もあるし、実験モデルにもなる。
例えば空き家リノベ+カフェ+交流拠点みたいな形とか、君たちならやれるんじゃないかって声がね」
「うちら、学生なんですよ?」
灯がぽつりと言った。
「うん。でも君たち、“学生のまま終わる”ような動きしてないでしょ?
半年だけで帰るには、惜しい空気を持ってる。だからこそ、聞いてみた」
男性は名刺を渡して、去っていった。
その名刺には「起業支援室」「ソーシャルビジネス担当」の文字があった。
その夜、三人はいつもの居間に座って、鍋を囲んだ。
今夜は鶏団子と白菜。味噌ベースであったかい。
「なあ……起業とか、ほんまに考えたことある?」
葵がポツリと聞いた。
「うちは正直、ただ“いいことしてる感”が楽しかっただけで、ビジネスとか、考えてなかった」
「わかる。でも、“制度の中でしか動けない自分”って、ちょっと悔しいときもある」
灯が箸を止めて言った。
「起業って、たぶん“制度の外”に出ることなんやろな」
「うちら、それ、できるんかな?」
千尋はノートPCを開いて、資料を調べ始めた。
「できるかどうかじゃなくて、“やってみたいか”じゃない?」
葵の言葉に、ふたりは黙った。
薪ストーブの火が静かにパチパチと鳴る音だけが、部屋に響いていた。
次回予告(第14話)
空き家を“事業化”するって、どういうこと?
3人が向き合うのは、「村に残す価値」と「自分たちが去るときの責任」だった。




