第12話 “ちょっと元気な一杯”が、誰かの心に届くとき
秋の収穫祭、当日。
水沢村の集会所前広場には、地元の野菜直売コーナー、餅つき体験、焼き芋の香り。
そこに混じって、ひときわ目を引く手作りの布看板があった。
> 『灯’s COFFEE 一杯100円(“ちょっと元気”つき)』
葵が手描きしたポップは、元気な筆文字と可愛いイラストつき。
千尋は事前に集計表とレジを整え、コストと在庫を完璧に管理。
灯は父親仕込みのドリップで、豆を一杯一杯丁寧に淹れていた。
「これ、100円でええの……?」
あゆみさんが恐る恐るカップを受け取る。
「いいんです。うちら、“元気”で利益出すつもりないんで」
「……変なこと言うなあ、ほんまに」
あゆみさんは笑いながら、ベンチに腰かけた。
少しずつ、人が集まってくる。
子どもたちは横で無料の“カフェオレ風ミルクコーヒー”をもらい、
中学生の女の子がスマホで写真を撮って、こう言った。
「え、映える!TikTok載せよ」
「えっマジ?タグは #ギャルカフェin水沢 でよろしく!」
葵が全力でノッた。
「……へぇ、これがうわさのコーヒー屋かいな」
ふと、聞き覚えのある声。
振り返ると、あの竹中さんが立っていた。
「わし、インスタもLINEもやらんけどな……」
灯が静かにカップを差し出す。
「スマホなくても、元気出る味です。どうぞ」
竹中さんは、少し照れたように受け取った。
一口すすると、うっすら笑った。
「……うまいやん。熱すぎへんのもええな」
しばらくして、3人の屋台の前に列ができた。
それはきっと、ド派手な何かがあったからじゃない。
“ちょっと元気”の意味が、少しずつ伝わったから。
片づけのとき、千尋がぽつりと言った。
「成果とか報告書とか、関係なく、
“なんか今日、うちらの存在がちょっと意味あった気がする”って思えた」
「それが“祭り”なんちゃう?」
灯が言った。
「うち、今日だけでたぶん10人分ぐらい幸せもろた気する」
葵はカラカラと笑った。
空は秋晴れ。風はちょっとだけ冷たくて、心はすこしだけあったかかった。
次回予告(第13話)
収穫祭の反響が“制度の外”にも届く。町から訪れた大学関係者が、三人に思わぬ提案を持ちかける。
「君たち、そのまま起業してみる気ない?」――揺れる進路と制度の狭間で、ギャルたちは試される。




