第11話 “祭り”って、誰のためにあるんやろな
「うちらも……これ、出るん?」
地域支援員の佐々木さんから手渡されたのは、水沢村 秋の収穫祭・参加要請書だった。
毎年行われる地域行事で、出店・展示・舞台発表などが並ぶ。
学生の地域実習枠も“恒例”になっているという。
「出展ブース、任意って書いてあったけど、“空気的には強制”ってやつやな」
千尋が苦笑した。
「てか、うちら、なに売るん……?」
ルーターでも、草でも、空き家でもない。
地域イベントとなると、何か“形になるもの”を出さなければならない空気があった。
「村の人が来るってことは……向こうも“期待”しとるってことやんな」
「なんか、“若い子が何するか見にきたった”って感じでな」
「それが一番プレッシャーなんよな……」
灯がぽつりと言った。
「なら、うち、ハンドドリップのコーヒーやってみたい」
「え、灯がコーヒー? 飲むの?」
「うん。飲むし、父ちゃんが焙煎趣味でな。昔ちょっと教わってた」
「ええやん、それ。ちょっと“映え”やし」
葵が嬉しそうに声をあげた。
「じゃあうち、**“映え担当”として、POPとか看板とか、完全プロデュースするわ」
「コーヒーの値段は? 収益管理も必要やな」
千尋は即座にExcelを立ち上げた。
――3人は、初めて“自分たちでゼロから考えて作る”という体験に踏み込もうとしていた。
夜、家でテーブルを囲みながら、千尋がふとつぶやいた。
「……でもさ、祭りって、誰のためにあるんやろな」
「うちらが“頑張ってます感”出すためでもないし、
“若者が来てるから安心”って、村に言わせたいわけでもないやろ?」
「そう。うちは、誰かが“ちょっと元気になった”って思えたらええなって思う」
灯の声は、少し小さく、けどまっすぐだった。
葵が笑った。
「よっしゃ。うちらのテーマは、“ちょっと元気な一杯”。
祭りなんて、それくらいがちょうどええ」
次回予告(第12話)
収穫祭当日。ギャルたちのコーヒースタンドに訪れるのは、子ども、主婦、そしてあの厳しかった村人――。
ほんの少し、誰かと“交わる瞬間”が始まる。




