第10話 “冷たい現実”って、誰かのぬくもりがなければ意味ないやん
千尋が書いた中間レポートは、正確で、整理されていて、間違いがなかった。
「空き家調査12軒中、利用可能3、要修繕7、実質不可2。
うち1件は心理的抵抗が高く、利活用には配慮が必要――」
居間で読み上げられたその文に、葵が不意に声を荒げた。
「それって……うちらがこの数週間やってきたこと、
なんか、“冷たい現実”って感じに聞こえるんやけど」
千尋は顔を上げる。
灯は、少しだけ目線を横にそらした。
「でも、レポートって、事実を書くもんやし……」
「いや、わかってるよ? 千尋が悪いとかちゃう。
でもな、“心理的抵抗”って言葉で片付けたら、あの人の気持ち、どこにも残らんやん」
――あの人。
昨日出会った広瀬さん。
思い出の詰まった家を「壊されたくない」と言った、あの言葉。
「“人の気持ち”を、“分析”で薄めてくのって、うち、すっごいイヤやねん」
千尋は何も言わなかった。
葵は、少し言い過ぎたかもしれないと思っていた。
でも、心のどこかで、**“言わなきゃ伝わらないことがある”**と感じていた。
灯がぽつりとつぶやいた。
「事実って、正しいけど、冷たい。
でも、気持ちって、あったかいけど、壊れやすい」
「うちら、どっちも必要なんやと思う」
千尋は、静かにノートを閉じた。
「わかった。
このレポート、“人の声を拾ってから出す”形に変える。
“人の気持ち”を含めて書く。……冷たくしすぎた、ごめん」
「ありがと」
葵の声は、小さく、でもどこか誇らしげだった。
“数字”だけじゃ届かない。
“気持ち”だけでも崩れる。
その中間に、“現場で感じた自分の言葉”がある。
それが、3人が今、生きてる場所だった。
次回予告(第11話)
村で開かれる“収穫祭”に、実習生も手伝いで参加することに。
ギャルたちは何を売る?誰の役に立つ?――「祭」は、ひとつの試金石になる。




