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鈴蘭とムカデ

「黙らっしゃい」

 あいた、しない出ぶん殴られる。摂関竹刀鈴蘭用と書かれたそれはネーミングセンスがあまりにもひどいと思うんだ。 運虐待よくないーー平和だいじ。


 とにかく今日の夜0時から2時間姫巫女の儀を行う。 心して準備するが良い。

 やったー遊びに行こうっと。


 長々としたお説教から解放された鈴蘭は遊びに出てしまう。これでは今日も失敗するだろうなあと思う道満法師。


 ならば一つ脅かしてみるかのう?

 肝が冷える体験でもすれば考えも変わるじゃろうか。


 温厚そうな老人は実は結構なサディストだった。


 鈴蘭の気配を探る。瞑想した。法師の実力はかなりのもので、性格に鈴蘭の位置をつかむ。「奇々怪々、変化ーー」


 彼は巨大なムカデへと姿を変える。 妖怪というよりは単なる化け物であるが、虫嫌いの鈴蘭には効果てきめんであろう?


 それにしてもぐろいのう? 法師自身ムカデの妖怪になりきった姿は、なかなかに迫力があると感じながら、巨大なキャタピラーで、うねうねと鈴蘭の元へと向かう。


 黄金色の麦畑、稲穂のとれる地域は鈴蘭の記憶にはないところで、日本という国に来てからというもの、彼女の知的好奇心はつきない。


 遠く呼び起こされる記憶は西洋風のお城だった。彼女の記憶はそこで完結しており、時折自分と同じ少女を夢見る。


 彼女は、鈴蘭とは違いおとなしい、決して勉強が好きだというわけではなかったが、努力して、知識を身につけようと躍起になったりもしていた。その様が、なかなか、にどうして鈴蘭は受け入れがたかった。


 全く、勉強なんてしなければいいのに、せっかくのお姫様生活ロイヤルクラスの生活がもったいないことこの上ない。


 私だったら、もっと遊ぶのになあとか思いながら、

 水車付近までくると、子供の遊び場になっているそこで、水場に足を浸しながら、歌を歌う。知らない歌だった。 異国の歌だろうか? 歌詞や言葉が、日本語とは違う。


 それを歌いながら、ヴァルキリアの物語に思いをはせる。 日本の叙述詩は、座学として叩き込まれるために、苦手意識が先行してしまう。

 彼女最初から記憶の中にあった、ニーベルゲンの物語の方が好きだった。


 ヴァルキリアの物語は時に切ない。 それに思いをはせながら歌を歌っていると、カサカサと、なにか嫌な足音? が聞こえる。それは次第に大きくなってきて、彼女の表情が青ざめた、だって虫の足音しかも超巨大ーーホラー、イヤー!


 鈴蘭は脱兎のごとく逃げようとしたが、すぐに影を捕らえられる。影縫いの術だ。

 別に矢が射ったわけでもないのに、動きがとれなくなった。

 影縛りによって身体が動かないものの、感覚あるし、口は動くーー「誰か助けてーー!」

 だが農作業忙しい農夫達はかまってもくれない。


 またいたずらっ子の鈴蘭が一人遊んでいるところをに厄介ごとを持ち込んだのだろうと、決めつけられているのかもしれない。 別に私はオオカミ少年じゃないんだけどな?


 影を探る。 影縛りの術を感じ取り、それに、向かって意識を集中する。 ーーと影縛りが解除される。 はあ、はあ、破魔の力を放つのにはまだなれていない。


 これで息が上がっていては先が思いやられる。 鈴蘭は体力がないのを自覚していた。 彼女の身体の主であった白百合という少女は、身体が弱かったらしく、壱岐市を取り戻した鈴蘭はろくに運動もできずに最初は難儀したものだった。


 王宮暮らしって大変だよね。 うらやましいんだけどなあ、うーん。

 正直に所感を述べる。 白百合は、運動するのが憚られる地位にいたらしく、広い王宮で一人窮屈に生活していたのかもしれない。

 時折見える過去のビジョンがそんな感じなのだった。


 おっと、物思いにふけっている場合じゃない。 脱兎のごとく、キャタピラーの足音から逃げ出す、カサカサ動くそれはこちらより早く追ってきていた。

 間違いなく鈴蘭を狙っている。どうする? 安全そうなのは家か神社だが。

 家が近い、今の時間なら姉のレイアががいるはずだった彼女は、町一番の剣豪で、ほぼ負けるのを見たことがない。


 レイア姉さんならなんとかしてくれる。と、足に何かが引っかかり前のめりに地面に倒れ込んだ。


「いたたー、もうなんなのよ!」

悪態をつく鈴蘭は足に巻き付いているものがムカデの胴体であることに気づいた。 まずい追いつかれた。

 日本という国は道満法師によれば時に強力な妖怪が闊歩するという。

 強力な魔力や仙術を使える鈴蘭は格好のごちそうであり、魔を引き寄せるのだとか、足に巻き付いて身体次第に上半身にも回ってくる。


 巨大ムカデに抱き寄せられる形となり、怖気だった。


 これはなんとかしないとーー!? 鈴蘭は、破魔刀を取り出す。


 えいや、とむかでに突き立てるが、効果は薄い、ぶよぶよした肉質には単純な物理攻撃では通りが悪い。走行している間にもむかでは鈴蘭を覆っていくので、身動きが完全のとれなくなる。

 恐怖ーー巨大ムカデの怪、美少女である鈴蘭は、むかでに頭からぱくっといかれておお、しんでしまうとはなさけない。


 とか考えてる場合じゃない。 だがもはや後の祭り、身動きがとれなくなったムカデの身体が、鈴蘭の身体を這い回る。

別に痛くはないが、とにかく不快だった。 吐き気感じにはいれない。


「ないこれ、グロいよー、体中をまさぐるキャタピラーに、嫌悪感が募る。

 カサカサ動く食感がものすごくキモい。

 

 ムカデに噛まれるとすごくいたいと聞くが、このむかでは特にかみついてなどは来ない。 卵でも産み付ける気か? どちらにしてもこのままでは、ろくな目に遭わない!

 まだ手に持っている破魔刀に力を込める。 巫術をイメージして、発火現象を起こす、これには流石にムカデはわずかに身体から放れた。

 ムカデなどの虫? は基本熱に弱い。いけると感じるが、逆上したムカデが今度は毒液を吐き出して威嚇してくる。 何これくさいーー!


 ひどい匂いだったのでとっさに躱して助かったが、強烈な匂いは一体何だろう?

硫黄だろうか? 腐卵臭とかそういったもので思わず着物の裾で、顔を塞ぐ。


 この殺意の全くないムカデはーー妖怪とは思えなかった、獲物を品定めしているとも考えられるがのだが……ムカデが飛びかかってくるので避ける。コロコロと転がる。

 おむすびころりんころりんとよけていく。 だが、いい加減結構走った、バテそうだ。


 ええいめんどくさい、狐火ーー嫌待てこれは妖怪が使う技ではなかろうか? 巫術から生成された狐の形をした、火の玉は確かに効果があったが、創造能力は技の威力にも影響すると聞いている。 もっと真面目に技をイメージするべきだった。


 聖なる力かーーもう一人の私は、歌をよく歌っていたし鈴蘭も歌える。 ならばーー

 強力な音波ーー聖歌を歌として歌う。曲名がない。

 聖なる歌だがそのニュアンスは技のイメージとして反映され受けたムカデは苦しそうに転げ回る。 やったチャンス。今こそ我が手に勝利をと、ヴァルキリアっぽく、姿勢を正して、手を広げ放つ仕草をする。


 貴方の顔?見飽きましたわと演技を決めると、プリズリックーーカレイドスコープーー(虹色ーー万華鏡)


 巫力を贅沢に使った必殺技、我流のそれを叩き込む。

 手のひらからあふれ出る。万華鏡のような七色の光線は、細い光を発して、それぞれが虹色の万華鏡を描く。

 光の光線にひるむムカデ、やった。

 これは効果有りだ。

 ムカデが苦しそうに退散していった。


 撃退完了、勝負ありーー勝者鈴蘭ーーと華麗に舞いながら、今日は縁起がいいようですね。と謎の決め台詞を言う。

 勝利ポーズを決める鈴蘭にいい気になるなよと毒液を遠くからスナイプしてくるムカデ、結局その後は退散していったものの、決めポーズをしていて反応が遅れた鈴蘭はムカデの謎のネバネバする液体を頭からぶっかけられた。


 ああ気持ち悪いーー今日は厄日だ。 ひどい腐卵臭を放身体はてらてらネバネバしており、とても見れたものではない。


 動きにくくもなっているし美しい衣装をあしらわれた、オリジナルの姫巫女の衣装が台無しだった。 早速家へとたどり着くと、お風呂を沸かして(めんどいので巫術でわかす)

 もちろん薪割りなどしない。お湯が温まると服を脱ぎ捨て浴槽へ飛び込んだ。割と広いヒノキぶろだ。 ああ、極楽極楽。おばあちゃんになった気分だった。

 そのまま溶けて眠ってしまいそうな弛緩した空気が流れる。


 ふと近所のがきんちょがのぞいているのに気づく、全く色ガキが、ピンと式神を飛ばす。

 少年の目のあたりにアイマスクのように、式神のオフだが張り付いて離れなくなる。

ワーと蜘蛛の子を散らすように、色ガキは逃げ去っていった。


 ふう、油断も隙もありゃしない。 あれは、鈴蘭が町をネバネバ状態で横断したあたりからつけてきていたのは知ってたが、堂々とのぞき魔でするとは最近のガキは全くなっていないとか考えているうちに寝てしまった。どうやら、力を使い過ぎた……らしい?


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