ジグルドの章・終焉 エインフェリアの使命と、ジグルドの意思
再び舞台は戦場へーー
そう結論が出たところで彼女は、塔の上から、波止場の位置畳へと飛び降りる。 重力制御持つ会華麗に降り立つとザックと、リリーが目に入った。 もうすでにかなりまずい状況だった。護衛は全滅しており、必死にザックがボウガンで騎士達をけん制しているが、突破されるのも時間の問題だろう。
「船を出しなさい、私が足止めします!」
しかし、ジグルドが、と言いかけたリリーを制する。 彼の死を無駄にするつもりですか? ここで彼を待つことはすべてを無にする行為です。 彼はもう助からない。
見ればケルベロスを相手取る彼はすでに周囲から兵士の弓を射られて、それを巧みにかわしながらも完全に囲まれてしまっていた。
流れた矢が当たったのかケロベロスもハリネズミのようになっており、騎士達の苛烈な弓による攻撃が継続的に行われていることを物語っている。
ジグルドもここからではわからないが、無事では済んでいるとは思えなかった。
防衛戦を突破してくる騎士達の相手をしながらレイアは船が出るまで足止めを開始する。
船が進み出したのを、横目に見ながら、「ああ俺もここまでのようだと、ジグルドは思った。 右手はすでに弓を受けている。左足も同様だった。 取り囲む兵士達は、ジグルドを集中的に狙ってきたし、
時には兵士同士で同士討ちもしていたが、大臣からの指示を受けて、騎士達はジグルドを最優先対象として捉えているらしい。
ケルベロスが残った後のことを考えているのだろうかと思うが、大臣が底まで考えるはずもない。
ただジグルドを仕留めれば周りの騎士達を犠牲にして逃げ延びるだけだろう?
ケロベロスの戦闘で、すでに何度か身体に爪によるひっかき傷を受けている。
弓よりこ ちらの方が重傷だった。ケロベロス、攻撃には毒による作用もあるらしく、身体が言うことを聞かなくなっている。
レイアのマヒ攻撃はとっくに冷めているが、それ故に決定打をとれずにいる。
だが、攻勢に出たときに、二頭目のケルベロスの頭を飛ばしている。
後一頭だ。 傷は深いが勝てない相手ではない。
問題はこの兵士達をどうするかだった。
地獄の番犬の注意を引いているのはあくまで大臣だった。だが、目の前の脅威の方が優先順位が高いのでこちらを攻撃してくる。ならばーー
大剣を高跳びのように使い、大跳躍して戦線から離脱する。
思った通り、眼前の脅威が去った、ケルベロスは大臣めがけて突進しようとしたが、騎士達がそれを阻む。
所々射られているケルベロスならば、騎士達で求めることが可能だろう。
まあ、大臣は死ぬだろうが、その後、騎士達がなんとかするはずだった。
船がすでに遠いことを確認しつつ、まだあの距離ならば今の跳躍で飛びうつれる。
波止場が近づいてきたところで、後ろに気配を感じたとっさに振り返るが更に後ろにも気配、よく知る気配はレイアのものだった。
「残念ながら、姫様は追わせない。 ピタリとレイアは剣を向けてくる」
「理由を聞こうじゃねえか?」 「単純な話だ、おまえは邪魔だ。 姫様に男の影などいらない!」
「嫉妬か、哀れだな、抜かせ! そう言うと、二人のレイアは確かに実体を伴って攻撃してくる。
これは死体か? この二人は、元ロイヤルガードのふたりだった。とっくに絶命している二人を操り、レイアが言う。
心配しなくても、姫様からはもうおまえは見えない。安心してあの世へ行け!」
二人の騎士は実体を伴う上にレイアに操作されている。
実力自体がレイアのコピーや、レプリカに近いようだ。
今の傷だとやばい相手だった何よりさっさと船に飛び移らないと、機会を失う
私は先に行かせてもらうぞ、姿を消していた三人目ーー本物のレイアが、弓を放つ、このタイミングまで引き絞っていた弓は、強力な魔力を放ってジグルドへと放たれた。
それを叩き堕とすが、驚いたことに弾いても戻ってくる。
「ちぃ、やっかいな攻撃を」「実力を隠していたのはおまえだけじゃないということだ。
ではお先に失礼」
そう言って空高くジャンプするレイア、身軽な彼女は波止場の灯台の上へと飛び移り、そこから更に、大ジャンプして船へと飛び去っていった。
なんてろくでもない奴だ。毒ずく。
帰ってくる弓と二人のレイアの攻撃を裁きながら、ケルベロスがこちらに向かっているのさえ見える。絶体絶命だなーーと思う。
この状況をなんとかするには通常の技ではダメだジグルドは、剣を石畳に突き刺した。ファフニールを捨て、懐から小刀を取り出す。ここからは彼の初めて使う技だった、短剣を腕に固定して拳にはりつける。
魔力のないはずのジグルドは何故か魔力による。 隠し奥義、短剣魔剣グラム。
を引き寄せていたのだった。
瞑想するように、目を閉じるジグルドーーせめておまえだけでも連れて行ってやる。
眼前に迫ったケルベロスの気配を感じ取り、目を閉じたまま心の目で、拳を突き出す。
回転運動を始める魔剣グラム突き出した拳に連動するように、高速回転を初めて、轟音を響き渡らせる。
「あばよワンコロ」
魔剣を突き出すと、射出されるグラム、投擲するような形で、グラムは射出されて、ケルベロスの頭を打ち射た。
レイアの、追撃はなく、いつしか死体へと戻っていた。こちらが諦めたと感じ取ったのかも知れない。
だが、次第に毒が回っているのを感じ取っていた。
ケルベロスとの戦いで、受けた傷は爪の攻撃を三カ所だった背中胸、膝、そのどれもが浅くはない。港のベンチにもたれかかった。
役目は果たしたか? レイアにグラムを投擲することもできたがもはやどうでも良かった。
「リリー、すまない。 これは誰の台詞だったかも思い出せない。 頭がボーっとしてきた。
ペンダントお開けようとしたが持っていないことに気づく。
目の前に初老の男が立っているのに気づく。 いらだって石畳をたたいたが、意味などない。
「貴方もおいて行かれたようですね? 最後におはなしなどいかがですか?」
「うるせえ寝かせろ、俺はもう眠いんだ。 最後ぐらい安らかにい逝かせてくれ!」
だが、初老の男ーーシリウスは言う、「例えばですが、ここで嵐を起こせば面白いと思いませんか?」
すでに死にかかって覚悟を決めていた。ジグルドに再び凶暴な生がともる。
「おまえ、天候の魔法が使えるのか?」
「ええ、この状況なら、効果的な魔法はこれしかないでしょう? 最も私は何の得もしませんが……」
「何が狙いだ?」「いえ、娘に逃げられた手前、少し貴方に八つ当たりしたくなっただけですよ。 彼は無害であるように手をヒラヒラと振った」
「そういえば貴方の思惑通り、大臣は死にましたよ。
私も雇い主がいなくなってしまいました。 もらえるのは前金だけのようですね。トホホですね。
「何が言いたい」
「私も、跡を追いたいのですがね、さっきの奴やってくれませんか」
あれなら一時的にですが、海を避けるでしょう?」
魔剣グラムか?
「あいつらを追う理由は何だ?」
「行ったでしょう娘を追いたいと、そのためには貴方の力が必要だ」
いいだろう、俺に勝てたら考えてやる」
そう言って魔剣グラムを取り出す。 よろよろと立ち上がりながら、ジグルドは最後の構えをとる。
「そして、魔剣グラムを駆動させると、放つ、グラム・ニーベルゲン(ニーベルゲンの魔剣)シリウスの背中へと放ったそれは、海を分かつ。
「行っておくが、リリーに害をなすならば、俺はおまえに容赦はしない」
「これは怖いですね。まあ、今は娘が大事だと答えておきましょう?
ただ、娘に会いたい。それだけでしてね。
それではおいとましますありがとうございました。 このお礼は機会があればいずれ」
「死人に機会なんてあるものか……」 彼を逝かせたのは酔狂と同時に保険だった。旅立つ先にどのような危険があるかわからない手練れの戦士は多い方が良いだろう?
ぽつりとつぶやき倒れ伏すジグルド。
それを横目に見ながら、両断された海をものすごい速度で走り抜ける。シリウス。海が閉じるまで数分、それまでに着地県内にとられなければ海の藻屑だったが、シリウスはためらわず掛けていった。
リリーは追いかけてくる影を見て沈んでいた顔をぱっと輝かせた。
「必ず彼は来てくれる。やっぱり、ジグルドは私の守護者ですね」
そう言って、満面の笑みでジャンプした影を迎えるが、それがジグルドよりずいぶん痩せていることがわかった瞬間に顔を曇らせた。
「本当に追ってくるとはな、何を考えてるんだ。副団長?
レイアが問いかける。 外の世界に娘と一緒に家族旅行をするのは? いえ、引っ越しでしょうか? 素敵だと思うんですがね?」
ジグルドはジグルドはどうなったの、と、必死の形相でつかみかかってくる。リリーにシリウスは言った。
「リリーすまない。 俺はしばらく眠ることにするだそうです
彼は勇敢で一人でケルベロスを撃退しました。
しかし、その代償は大きかった。それだけのことです」
それがどういう意味を持つのか、察したリリーの顔が曇る。
ぽろぽろとしずくが落ちる。
船をぬらす、涙が、船体をぬらしていくが、リリーは嗚咽をやめない。
リリーはペンダントを取り出し眺めるーーまさしく彼の遺品となってしまったそれを眺めながら、とめどなく涙を流す。「ジグルド、嘘つき……ぽつりとつぶやく」
これをよこしてきた彼はおそらくその時点でこの展開もある程度予期していたのだろうということに思い至る。 そして最後に抗議の言葉を口にする
そんなのは嫌ーーお願い帰ってきてよーー! ジグルドーー!
お願いよーー!ライアも、グレイも何でみんな私より早く死ぬの、ねえ神様ヴァルキリア教えてよ。
だが返事は当然無い。ただ彼女の泣き声が響き渡る。
子供のように突っ伏し、レイアにすがりつく彼女は、哀れにも見えた。
罰が悪そうな二人を尻目に、ザックはただ、「今は気が済むまで泣くがいいさ……」といった。 嗚咽を続けるリリーを尻目に、シリウスは、レイアにはなし掛ける。この船はどこへ向かっているのですか? 遠くの血を目指すことにしている。詳しくは親父に聞いてくれ。
「極東の国ジパングーーそれが今回の旅の終着点じゃ」
俺も後幾ばくかで消える。ジグルドは自身の魂の離脱を感じ取っていた。
全身から抜け生気派も早疑いようがない。
リリー、最後にもう一度会いたかった。 空を見上げながら、リリーと叫ぶ。
幾ばくかの時が流れる。波の音を聞きながら、ジグルドは最後の時を待った、さざ波が寄せては返す波止場にはすでに騎士の姿がなく、誰もいない。
「おあつらえ向きの死に場所かもな?」欄干にもたれ掛かりながら、最後の時を待ち続けるジグルド。
自然の波の音ーーそう珍しくもないそれがこんなにも心地よいと感じたのはいつ以来だっただろう?
俺は10年もの腐っていた。だがリリーがすべてを思い出させてくれた。
「次はもっとまともな男を見つけろよ!? 俺が選定してやる。 不合格なら首を取ってやるさ。 独白は誰に聞かせるでもなく消えていく。
瀕死ジグルドのもとへと、神の声が響く『戦士ジグルドよ貴方の最期を看取りましょう。私はヴァルキリア・ブリュンヒルデ、貴方の魂、もらい受けます』
「戦乙女か、俺はまだ死んでないんだがな……」時期に死ぬのをわかっていながらそう口にする。
まあ、話を聞きなさい。貴方はエインフェリアとして選ばれました。
リリーとの話を思い出す。 ということは俺も英霊になれたということか……
「リリーとは天界とやらで再会できるのか?」
「さあ、私もそこまでのことは……」
だよな、都合が良すぎる。
「すまないリリー、俺はここまでだ。新しい人生を受け射てくれ」
「そこで提案があるのですが、リリーさんの記憶を改変するというのはどうでしょう?」
はあ、何を言ってやがる、何のメリットがあると言うんだ?
「彼女は危険な状態です。 すべてを一度リセットしなければ自害しかねないほどに追い詰められている。彼女は身近な人の死を見過ぎました」
「取引をしましょう。彼女を生かすと、その代わり貴方は私のエインフェリアとなる」
「はっ、死神が行かれてやがるな。 苦笑するジグルド、だが、いいぜその提案受けてやる。殺すなら殺しな。どの道ももうからだが動かない。
「殺しはしません、が、その肉体ごともらう受けます。
というと、ジグルドの身体は発行して身体の傷が癒えた。 全快だった。
「アンタ女神なんだろう、俺が言うことを聞くと思ってるのか? 貴方は私からは逃れられませんから?」
言ってくれるぜ! まあ、いいだろう、ヴァルハラに行くなら、連れて行け。
剣を地面に突き刺すと、迎えが来るのを待った。 瞬間神々しい光が差してきて、ジグルドは意識が途切れた。
リリーは、責任を感じていた。持っていた矢筒から、一本手に取るとそれを自身に突き刺そうとした。だが、ザックがそれを止める。 そのとき神々しい光が、リリーを包んだ。
ジグルドと同系統の神の威光だ。
初めて見るが、それとわかるそれに全員が見入る。
次の瞬間目めざめた。リリーは記憶を失っていた。
「神様なんてことを」
リリーはうなだれる。レイアは納得して黙る。ザック。どのみち罪悪感で潰れるリリーを見るのは忍びなかった」
そうして、最後の物語が回り出す。
更に10年後へと意識が移っていく。
感応が溶けると、自分が深い同調をしすぎて何をしたかよくわからなかいことに気づいた。 誰かを助けた記憶と、ほかに何をしたんだったか?
「あんたがヴァルキリアか?」
目の前にはトールよりも尚もでかい偉丈夫が立っている。
「改めて紹介が必要か戦乙女? 俺の名はジグルドーー傭兵だ、千人斬りのジグルドとも呼ばれたこともあるな」
「ライアと、グレイは突如として現れた新たなエインフェリアに警戒する一方で、知り合いではないか確認しているようだった」
「知りませんね。 知らないよねー?」
不達は口をそろえて知らないという。
それを見てエアリスが嗤う、知名度の低い肩のようですね?」
「てめえ、ケンカが売りたいなら買ってやるが?」
「まあ、血の気の多い殿方も悪くはありませんが、といいつつ、エアリスが徒手空拳の構えをとる」
「ストップ止まりなさい。二人ともヴァルキュリアである私が命じます。傭兵ジグルド貴方は私と契約した以上。エインフェリアとして戦ってもらいます。 余計なもめ事も禁止します」
「リリーについて知っているものはいないか?」
「リリー、王女殿下ですか?」と反応するグレイ、しかし、ライアは誰という顔をする。
「まさに王女リリーだ。 俺はあの女のために死んだ。 守り切ったが、残念ながらこの有様だ。いや、死んでなかったか? 少々混乱しているようだな」
ーーと自問自答する。 ジグルド
「ああ、あの銀髪の女の子ですね。
次は彼女との関係に入ります。
放ってはおけないので……」
俺たちにも見せるってことはできねえのか? 残念ながら、そういった力はないかと?」
残念そうに、うつむくジグルドとグレイ、ライア知り合いことだとはつゆ知らず、頭をひねるばかりだった。
「まあともかく、次の、エインフェリアを召喚します。
「待ってくれ、リリーはエインフェリアには……」
「それは私ではなく運命が決めること、彼女を導く運命が苛烈なものであるほどヴァルハラへの門はその鍵を開きます」
それっぽいことを言うが理屈はよくわかっていない。 完全なでまかせではないものの、口裏を合わせていると言えばそんな感じである。
「くっ、しかたがないな、しばらく待たせてもらおう。 そうですね、そうね」
と三者から同意が出る。
というわけで再び感応を開始する。
見えるのは更に10年後の未来ーー
リリーが見えないことを祈ったが……
現れたのはやはり銀髪の少女だった。 彼女と精神が同調を開始し意識が途絶える。
「私は、救いたかった。みんなをたくさんの人たちを、もう誰にも死んでほしくはなかったかから……」
そうして物語(運命が始まる)
どうしてもながくなるなあと?