紙飛行機の手紙
「昨日、君宛の手紙を書いた」
鋭い目で凝視する花村くんにそう言われ、私は彼の前で固まった。
私は、一方的に花村くんに想いを寄せている。
高校入学当初、校内で迷子になってしまい、とても親切にしてもらったのだ。
だから二年の春、花村くんと同じクラスになり、彼の前の席になれたときには本当に嬉しかった。
そして現在、花村くんは冷たい瞳で、後ろから四六時中私を睨んでいる。
多分、知らない内に何か彼にとって不快なことをしてしまったのだろう。
手紙なんて、直接口で言われるより怖い。
でも、読めば嫌われている原因が分かるはず。
「謹んで、頂戴いたします」
私は怖々と両手を差し出す。
「持っていない。いずれ届くだろう」
「いずれ?」
「紙飛行機にして、自宅の窓から飛ばした。拾った者はコピーして、元の紙飛行機と合わせて二機飛ばす。それを繰り返していけば、いずれは君に届く」
「コピーして、二機飛ばす?」
「飛行機の翼に書いておいた。そして、新たに飛ばすコピーの飛行機の翼にもそう書いてもらう」
誰もそんなことをしてくれないだろうし、落ちている紙飛行機が拾われること自体そうそうない。拾われても、ゴミとして捨てられるのが関の山だ。
例え何名かの奇特な方が親切でそうしてくれたとしても、巡り巡って私が拾う確率はゼロに近い。
「えっと、多分だけど、私に届くことはないんじゃないかな」
「それならそれでいい」
花村くんは私から目を逸らし、無造作に自分の首に手を当てる。
「それは、どういう?」
「迷惑なものだろうから、死ぬまでに届けばいい」
「はい?」
私は首を傾げる。
「ああ、居た!! 水谷、昨日塾の帰りにお前宛の手紙、拾ったんだけど」
突然の、大声。
振り返ると、中学が同じだった隣のクラスの田中くんが立っていた。
片手に菓子パンを持ちながら、体格のいい彼は堂々と私のクラスに入ってきている。
「全く、何がコピーして二機飛ばす、だよ。誰だか知らないけど、ラブレターは直接渡せよなー」
彼はそう言って、私に紙飛行機を手渡す。
「……こんなに早く届くとは予想外だ」
花村くんが、赤い顔で呟く。
「え?」
そこで、予鈴のチャイムが鳴り響き、戸惑いながら席に着く。
背中に当たる花村くんの視線が、急に熱いものに感じられた。
机にしまった、少し薄汚れた紙飛行機を開いたら、彼の気持ちが分かるだろうか。
きっとそこに書かれているのは、悪口ではない。
私は、熱くなった自分の頬をそっと両手で包んだ。
お読みいただき、ありがとうございました。