九話 ハサミとサスティナブルは使いよう?
「……えっ、全然効いてないけど?」
『……ほんとですね』
「あの、性能いい方レンタル出来る?」
『……すみません、契約の都合で一時間は他の武器レンタル出来ないです』
「……Gソードも?」
「Gソードもです……」
……
……
……
「……え、どうするの?」
『素手で戦うしか……っていうかサスティナブルガンの性能見返してみますね!』
「よ、よろしくね」
さて、こっちはこっちであのコウモリと戦わなきゃいけないんだけど……
あの黄緑と紫色の変な色の翼と、翼から流れてる液体……見た目的には毒だ。
だから海に流されると、あんまり環境によろしくない気がする。
「と、とりあえず蹴る?」
僕は自問自答しながらとりあえずサスティナブルガンを投げ捨て、助走を始める。
そしてカマソッツの直前で跳び上がり、背中に跳び蹴りを喰らわせた!
蹴られたカマソッツは衝撃で海に落ち、液体を垂れ流しながら……
「ギャィアアアアアアッ!」
「な、鳴いた!?」
と、ともかくプロメテウスの時とは違って効いてるみたい!
なら続けて蹴り技を……
「ギュア、ギュイアアアアアアッ!」
……喰らわせようとした時、カマソッツが叫びながら重々しい翼を広げ、翼をはためかせ始めた!
「やっぱり飛ぶのかぁ……」
『あ、勇気さん液体が!』
液体、というエルが叫んだ時サブモニターが浮かび上がって、液体が降りかかった左腕を映す。それをよく観察してみれば、所々赤い装甲が溶けてしまっている。
……もしかして、今のはためきでかかっちゃった!?
「飛ぶのと一緒に攻撃もって事!?」
『どうやら強力な酸を含んだ猛毒のようですね。……あんまり溶かさないでくださいね。費用こっちもちじゃないですか』
「そうは言ったって、武器無いんだから!」
とりあえず左腕を振って液体を落とし、既に遠い上空に跳び上がってしまったカマソッツに掴み掛かろうと飛行モードをオンに……しようとして、残エネルギー残量が1パーを切っている事に気づく。
「ああっ! 課金しなくちゃ……」
『ゆ、勇気さん! 上!』
「何? ってうわぁ!?」
僕は急いで一万円札を財布から取り出し挿入口に入れようとした時、エルが叫んだと思ったら機体全体が大きく揺れた!
「な、揺れてる!?」
『持ち上げられてます! はやく、逃げて!』
そう言われてサブモニターを確認すると、ペイトゥウィンの金ぴかな頭をカマソッツの足がしっかり掴んでいる姿が映っていた。
「は、離してって! ちょっと、うわぁ!」
何とか両腕で足を振りほどこうともがくけど、その度に大きく揺らされて躱されてしまう。
それにどんどん高度も高くなって、紫と黄緑に汚れた海も、それに後ろにあったはずのオフィス街も米粒みたいに小さくなって……
「そうだ、飛行モード!」
ようやく飛行モードにしようとしていた事を思い出した僕は、ボタンを押して飛行モードをオンにしようとしたところで……ふわり、という浮遊感を感じた。
「え、落ち……」
その浮遊感はたった一瞬。
次に感じたのは回転と、常に感じていたはずの重力。
そして呼吸すら出来ないほどの恐怖だった。
「うあああああぁぁぁぁ!?」
『勇――さん、ダ――! その――――オフィスビル――!』
激しいきりもみ回転のせいで意識が遠くなって、エルの声もオフィスビルくらいしか聞き取れない。
オフィスビル…………それに落ちる?
それはダメだ、それは避けないと……でも身体が動かない……
「ひっ、ひなん、おわってる?」
『は――! でも――――あぶな――――』
なら、よかった……
僕は諦めて、その回転と重力と身を任せた。
大丈夫。ペイトゥウィンはスーパーロボットだから、死にはしない……はず。
だからちょっと、休むだけ……
『ゆう――ん!?』
……
……
……その時、何故か、不思議と。走馬灯のみたいに頭に浮かんだ数字があった。
――――オフィスビル一個の建築費用、約五億円。
それを今から壊す……壊す? 五億円を?
五億円って言ったらサラリーマンの障害年収の二倍以上。つまりあのビルは人の人生二回分と同じ。
それにあのビルでは今でも沢山の人が働いているはず。あそこが壊れたら、沢山の人が立ち行かなくなる。
――――そんなの、ゼッタイにダメだ!
「ぐ、ぅ、ごおくえん……」
『な、なんですか!?』
「オフィスビル、五億円ッ!」
『……へ?』
何とか正気を取り戻した僕は、左操縦桿のボタンを押して飛行モードを起動待機状態に移し、メインモニターを何とか操作して飛行モードを起動した!
そしてオフィスビルに追突寸前で推進器にエネルギーを流し、海の方へ飛んだ!
……ふう、何とか回避した。けどサブモニターを見る限り、窓ガラスは割れてしまったらしい。
「ごめん、あの会社の人」
『あの、勇気さん……』
「何?」
『ちょっとドン引きです……なんで今ので復活出来るんですか?』
「エルも似たような事言ってたでしょ! お金がどうのこうのって!」
……ってそんな場合じゃない! カマソッツは!?
ペイトゥウィンを滞空させてサブモニターで周囲を探すと、カマソッツは遥か遠い地上、元居た砂浜にいた。よくは見えないけど腕を海に漬けてるから、さっきと同じく海に毒を流しているらしい。
「あれまずいよね、早く止めないと環境汚染が……」
『そんな勇気さんに朗報です! サスティナブルガンの詳細ページが見つかりました!』
おおっ、ついに!
「何か役立ちそうな機能ある!?」
『毒に対して浄化機能を持つそうです! 弾を患部に当てれば無毒化するのだとか!』
「……生身じゃないからあんまり意味無いんじゃない?」
『んー、なら土や水に溶ける機能、は関係なくて……え、銃身の一部が食べられる!?』
「それほんとに銃!?」
『……あ、もう一つありました! 銃に装填しないまま弾を燃やすと、爆発せずに温度が急激に上昇して燃えだすそうです! しかもクリーンな煙しか出ない!』
「……弾、使い切っちゃったけど?」
『あー、じゃあもう一回右腕上げてください』
……右腕を上げると今度は環っかの回転なしで光が落ちてきて、気づけば緑色のマガジンが握られている。
『弾は使い放題ですから、足りなくなったらいくらでも右腕上げてください』
そんなわんこそばみたいな……まあいいか。
「燃やすって、普通に撃つんじゃダメなんだよね。どれくらいの温度?」
『えーっと、推進器の炎ならどうでしょう』
「やってみる」
右手を背中の推進器に近づけると、マガジンは黄金色にも似た黄色の炎を上げて燃え始める。
『……うわっ!? すごい温度ですよ!』
「怪獣にも効きそう!?」
『毛皮に覆われてるカマソッツになら!』
試しに右腕を振りかぶり、カマソッツに向かって燃え盛るマガジンを投げてみた。
するとマガジンは炎の尾で放物線を描きながら毛皮に覆われた背中へと命中し、背中へと炎を燃え移らせる。カマソッツは悶絶しながら海に飛び込み、グルグルと転がりながら炎をかき消した。
「……うーん、燃やしてもすぐ消化されちゃうか」
『じゃあこうしましょう! いっぱい投げて消化の隙を与えずに……』
「変な所に投げたら街が燃えちゃうから、それはあんまりやりたくない」
となると、選択肢はあまり多くない。
炎を消化できない場所に追い込むか、それかマガジンを当て続けるとか……当て続ける?
「エル、このマガジン、ペイトゥウィンならどのぐらい握ってられる?」
『三分は持ちます。それ以上はまあ、直す側からするとやめてほしいですね』
「オッケー、じゃあまた出して……」
『……っ! カマソッツが飛び上がりました!』
右腕を突きあげてマガジンを貰った所で、カマソッツは毒をまき散らしながらペイトゥウィンに向かって空を飛んでいく。……凄まじい速度だ。
対して僕はマガジンを背中で燃やして右手に握りこみ、燃え盛る右手をギリギリまで背中に隠す。
……勝負は一瞬だ、一瞬の攻防で決着がつきかねない。
息を吸って……
……アイツが、一気に近づいてくる。
吐いて……
アイツはペイトゥウィンを飛び越し、更に上空へ登っていく。
また吸って……
そしてアイツが、急降下してペイトゥウィンの顔を右腕で掴もうとした時……
吐きながら黄金色の拳を振りかぶり、カマソッツの左頬に重い一撃を喰らわせた!
「ギィエエェ、アアアアアアッ!」
……そしてその一撃は重いだけじゃない、燃えているッ!
カマソッツの左頬の炎は一気に顔に広がり、アイツは消化しようと海に落ちようとする。けど逃がさない!
右手のマガジンを左に移し、落ちていくカマソッツを追いながら右腕を突きあげる! すると再び光が落ちてマガジンが補給され、それを左手のマガジンと合わせてより巨大な黄金色の炎を作り上げた!
そして、速力全開でぇぇぇぇッッッ!
「GOLDEN……インパクトッ!」
……その瞬間、ペイトゥウィンの燃え盛る両拳が、カマソッツの澱んだ背中を突き抜けた!
ヒューヒュー! 勇気さんナイスでーす! 毒翼怪獣カマソッツも撃破!
ちょっと可愛かったから惜しいですけど、やってる事えげつなかったので仕方ないですよね!
……けど、勇気さんのお金への意思には驚かされました。
あの時は結構なGがかかってたと思ったんですけど、オフィスビルの値段の事考えて復活するとか、私以上じゃないですか? ……まあ、健全な事なので悪くはないと思いますけど。
さて、ではそろそろ次回予告……の前に宣伝! 今回の戦いへの感想とか高評価募集中でーす!
という訳でほんとに次回予告!
カマソッツが汚した海の後始末。ここでまさかのサスティナブルガンが再び活躍!?
そしてちょっとギスギスしてた私と勇気さんが喧嘩&和解?
いや私としてはそこまで揉めてるとは思ってなかったんですけど……
次回、「持続可能性サイコー!」
また見てくださいねー!