八話 ……えっ、全然効いてないけど?
エルがウチ、小鳥遊家に住むようになって一週間。
日本の文化には一年間である程度なれていたせいか、何事も無く……とは行かなかった。
一日目、洗濯を頼んだらどこから持ち込んだ宇宙洗濯機で洗濯物をビリビリに破いてしまった。
『宇宙基準だと地球の服の耐久性は低すぎるんです!』
とは本人の弁。いやまあ気づいたら宇宙ミシンで修復されてたからいいけど。
二日目、晩ごはんを頼んだら四角い肉みたいな物を出してきた。
『これですか? $#%$……日本語で発音するとピッルケって言って、宇宙ウサギの肉です』
……けどその四角い肉には目玉みたいな物が付いてて、しかもまだ脈動を繰り返していた。
味は美味しかったけど、ちょっと価値観が合わない。
三日目、掃除を頼んだら隠してたものを全部机の上に出された。
『なんていうか、黒髪好きなんですね』
死にたい……
四日目、お風呂掃除を頼んだらピカピカになってた。
『見ましたか!? これが私の実力です!』
本人の実力ってよりエルが手に持ったモップみたいな機械のお陰だったけど、ともかく助かった。
五日目、朝ごはんを頼んだら茶色い飲み物をコップ一杯分だけ出された。
『これは宇宙基準の完全栄養食です! 飲むだけで三日分の栄養が取れて、頭からキノコが生えます!』
エルに飲ませて、普通の朝ごはんを作った。
六日目、何も頼まなかったら地下から物凄い騒音が聞こえ始めた。
『秘密兵器の設計中です!』
って言ってたけど、騒音について抗議したらなんにも聞こえなくなる耳栓を渡された。
付けると耳を覆うようにゴムみたいな物が展開されて、本当に何も聞こえなくなった。
そして七日目、いつもよりもだいぶ遅い朝。
僕は耳栓のせいで目覚ましの音が聞こえなくて大幅に寝坊し、学校に遅刻してしまった。
……朝のバイトにも当然行けなかった。
そう言った事が続いて、エルとの仲は少しぎすぎすとした、冷戦状態みたいになっている。
お互いちょっと語気が強くなってしまったり、ふとしたことにイラっとしてしまったり……
……まあ出会って一週間だし、別々の星に住んでたわけだし、価値観が合わないのは仕方ない。それをお互いに分かってるからか逆に価値観のすり合わせが出来なくなって、喧嘩や和解が出来なくなっている。
これを解決してくれるのは慣れ、つまり時間だけ……なんだと思う。
――――けど怪獣は待ってくれなかった。
きっと敵っていうのは、いつも最悪の時にやって来るものなんだ。
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それは授業が終わって、下駄箱で靴を履き替えている時の事だった。
急にスマホから警報音がして、周りを見れば他の生徒のスマホからも警報が鳴っている。
「……来ちゃったか」
スマホを開けばエルと初めて会った日と同じく『怪獣出現! 近隣住民は避難してください!』っていうテロップが流れている。
周りの生徒もそのテロップが、その警報音が何を表しているのか分かっているみたいで、所々から『怪獣』っていう言葉が聞こえる。
……政府とかメディアの発表だと『未確認生命体』なんて呼ばれているけど、SNSや一般人は皆怪獣って呼んでる。多分このテロップのせいなんだろう。
僕は一度深呼吸をしてから急いで靴を履き替え、我が家へと急いだ。
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全力で走ったお陰で家には五分で着き、カバンを玄関に放り出して廊下の途中に造られた地下室への階段を降りていくとすぐにモニタールームに辿り着いた。
モニタールームは十メートル四方のコンクリートの壁で覆われた広い部屋で、所せましと青い板状のホログラムが並んでいて、そのどれにも監視カメラ映像みたいな映像が流れている。
そしてその部屋の中央にホログラムが大量かつ円状に並べられた所があって、ホログラムの隙間からエルの金眼と茶色いキノコがチラリと見えた。
「エル! 状況は!?」
「今、隕石に擬態した怪獣を誘導した所です! 勇気さんは搭乗準備を!」
「分かった!」
僕はモニタールーム奥のエレベーターで更に地下へ降り、格納庫へと向かった。
格納庫は縦五十メートルくらいのとても広い空間で、金と赤のスーパーロボット『ペイトゥウィン』が直立の姿勢で保管されている。その周りには整備と搭乗用の鉄製足場がいくつも設置されていて、まるでペイトゥウィンが拘束されてるみたいにも見える。
けれど何より大事なのが……
ペイトゥウィンの手前に置かれた、ダイヤル式の真っ黒い金庫だ!
僕はダイヤルを半回転、逆に一回転、逆に一回転して扉を開き、今まで貯めてきた大学用のプール金を手に取った。
……といっても、貯まっているお金は百万円だけ。この生活を始めた当時、一人暮らしになれていなくて散財してしまった事や一時期体調を崩してしまった事もあって、そんなに貯まっていない。
大学の費用は三百万~五百万くらいかかるらしいから、全然足りてない。
更にペイトゥウィンのエネルギーにも使う訳だから……いや、今考える事じゃないよね。
僕はひとまず十万円を手に取り、その重みを実感してから近くのリフトでペイトゥウィンの胸部近くへと上がる。
そして胸部に手を置いて静脈認証、右目を開いて虹彩認証するとようやくコックピットが開き、座席に乗り込むとコックピットが閉じた。
あとはバイト先の人に感謝を込めて一万円を突っ込むと……メインモニターが起動した。
操縦桿と意識のリンクも済ませ、発進するだけ……
と、その時。ズボンの右ポケットから雑音混じりのエルの声が聞こえた。
それでようやく通信用のワイヤレスイヤホンを入れていた事を思い出し、右耳にイヤホンを装着した。
『聞こえますか!?』
「うん、今ペイトゥウィンに乗り込んだよ! そっちは!?」
『こっちも落下地点が予測出来ました! えーっと……海岸の方です!』
海岸……それなら人はあんまりいないよね。
「分かった。もう向かった方が良い?」
『はい、先制攻撃お見舞いしちゃいましょう!』
「……了解。それじゃあ、ペイトゥウィン……発進!」
『はっしーん! ぽちっと』
僕の『発進』という掛け声を合図にエルが格納庫の天井……つまりウチの家を真っ二つに裂いていき、ペイトゥウィンの足場をゆっくり上昇させていく。
するとペイトゥウィンの機体全体が小さくなっていき、足場が家の中央に達するとミニチュアみたいに真っ二つな家の中で止まった。
……これは量子がどうのこうので、うんぬんかんぬんの技術らしくて、家を通過する時のたった一瞬だけ機体を小さくするらしい。
中々お高い機械を使うらしいけど、それなら何でわざわざウチに基地を作ったのか、よく分からない。
「まずは足から出すんだっけ?」
『そうです。道の広い場所に量子フィールドから右足を出して、思いっきり踏み込んでください!』
言われた通り家の中から右足を出そうと試みると、サブモニターに巨大な足が虚空から現れて道路に伸びている様子が映された。うわぁ、変な感じ……
そこで、踏み込む……すると突然右足を置いていた道路が泥みたいに沈み込んだ。そして次の瞬間……
地面がバネのように反発して右足が、そして機体全体が空中に跳び上がった!
「ええっ、なにこれなにこれッ!?」
メインモニターやサブモニターには、初めての上から見たご近所の家々が映っていた。
跳び上がったのはだいたい三十メートルくらい? そこでゆっくり落ちてって……落ちる?
「お、落ちるけど!?」
『そこで飛行っ!』
僕は慌てながら左操縦桿のボタンを押し、飛行モードに移行!
すると背中の形が変形して装甲のあちこちから金色の推進器が出現し、エネルギーを回すと推進器から真っ赤な炎が吹き上がった!
そして、ペイトゥウィンは――――飛んだ!
「と、飛んでる……」
落ちそうだった所を何とか持ち直したペイトゥウィンは前のめりな、少し不格好な姿で街の上空を飛んでいる。
けど格好とかはどうでもいい。僕は、ペイトゥウィンは空を飛んでる!
いつもの登下校の道が、商店街が、オフィスビルや駅が、あんなに小さく見える! 初めて乗った時もしっかり街が見えてたけど、あの時以上に綺麗!
ていうかあの時はお金で動くロボットっていう事に引っかかってちゃんと興奮出来なかったけど、今なら興奮出来る!
お金の力、サイコー! ロボット、サイコー!
『そのまま海岸にゴーゴー! です!』
「オッケー!」
僕は速力を全開にして、海岸へと文字通りの全速力で向かった!
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ペイトゥウィンが赤海海岸に辿り着くと、砂浜にペイトゥウィンに比類する大きさの岩のような物が不自然に転がっている。
これが、隕石? それにしてはどこかフワフワしてるような……
「エル、こっちのモニター見える? なんかいるんだけど……」
『はい。多分それが、今回の怪獣でしょう』
僕は刺激しないようゆっくりと近づき、その怪獣に触れる一歩手前まで歩を進めた。
しかし振動か何かで目覚めてしまったのか丸まっていた怪獣は動き始め、その全身を露わにする。
ソレは全身を毛皮に覆われ、足と腕が黄緑と紫が混じりあった膜のような物で繋がれていた。そして二つの細長い耳に加え、顔はネズミのような眼と豚のような大きな鼻、犬のような口……
「コウモリ……?」
『怪獣の種類、分かりました! 呼称名カマソッツ! 空を飛ぶ怪獣です!』
カマソッツ……
うん、まず顔がちょっと怖い。鼻が大きいからかアンバランスさというかグロテスクさを感じる。
まあプロメテウスと同じで、いきなりは襲い掛かって来ないみたいだけど……
「……ちょっと怖いね」
『え、キモカワ系じゃないですか?』
どうやらエルとは、可愛いの趣味が合わないらしい。
「でも、空飛ぶのかぁ……」
『これはGソードじゃ、分が悪いかもですね。銃借りましょう、銃!』
するとサブモニターにカタログが送られてくる、けど……カマソッツに動きがあった。
カマソッツはペイトゥウィンに背中を向け、毒々しい翼がついた両腕を海の中に入れた。しかもどうやらその翼からは絵具みたいな奇妙な色の液体が染み出して来ているみたいで、海をどんどんと汚している。
「カマソッツが何かしてる! 何でもいいから送って!」
『じゃあ性能いいやつと安いやつ、どっちがいいですか!?』
「安いやつ!」
『じゃあ右腕を! レンタル開始!』
ペイトゥウィンは右腕を思いっきり上げると、再び白い金属製の環っかが現れて、回転。そしてGソードの時と同じく、宇宙からの白い光がペイトゥウィンを貫いた!
そしてゆっくりと光は晴れていき、ペイトゥウィンの右腕にあったのは……
『これが新たな兵器……「サスティナブル・ガン」です!』
緑色に光る、金属製の巨大なアサルトライフルだった!
「おお! 銃!」
『一時間で百円です!』
「安い!」
僕はさっそくライフルを構え、記憶のと機械それぞれの補助を受けてカマソッツに狙いを付けた。
カマソッツはまだ海に液体を流す作業をしているらしく、攻撃に気づきそうもない。
「……もらった!」
僕は操縦桿に手を掛け、引き金を引いた!
するとアサルトライフルはとても静かな音を立てて発砲し、何百発もの弾を十秒足らずで打ち切ってしまう! ああ哀れ、カマソッツは穴だらけのチーズに……
「……え?」
……そう思ったのも束の間。
メインモニターには、まったく無傷のカマソッツが映っていた。
カマソッツはペイトゥウィンの方に振り向いて首をくいっと傾け、まるで人間が疑問を抱いたみたいな顔をする。そして元の、海に腕を突っ込む作業を再開したのだった。
「……え、全然効いてないけど?」
今こうして編集してる時に知ったんですけど、サスティナブルガンって界隈ではおもちゃ扱いらしいですね。
威力が低くて木製の建物すら壊せないし、宇宙空間じゃ使えないし……
やっぱり安いからって理由で物買うとダメですね! 地球でも『安物買いの銭失い』って言葉があるらしいですし、投資はケチっちゃダメです!
……でもサスティナブルガン、安いんですよね。日本円で言うと十万円で買えちゃいます。
いやダメダメ! ちゃんとした武器買わないと勇気さんが活躍できません! 皆さんもコメントとかでオススメの武器教えてください! 勿論ロマン重視でも大丈夫ですよ!
という訳で次回予告!
レンタルしたのに全く役に立たなかったサスティナブルガンを投げ捨て、勇気さんは格闘戦に挑みます!
けれど空飛ぶコウモリにはやっぱり不利で……その上飛行した事が響いてエネルギーも残り僅かに!
だけどその時、サスティナブルガンがまさかの大活躍を!?
次回、「ハサミとサスティナブルは使いよう?」
また見てくださいねー!