七話 怪獣災害
「けど、いいでしょう。この謎の宇宙人美少女エルが、あなたの知りたい事なんでも話してさしあげましょう!」
それだけ言うと、エルは椅子に座りなおした。
「何で今立ったの?」
「ちょうどかっこつけポイントだったからです」
「あ、そう……」
って、呆れてる場合じゃなかった。まず何から聞こうか?
……やっぱり、怪獣の事かな。一番の脅威だし。
「じゃあ、まずは怪獣の事について教えてほしい」
「分かりました。でもその前に、いくつか質問させてもらいたいんですが、いいですか?」
「うん、大丈夫」
それから、いくつかエルの質問に答えた。
どういう意図かは分からないけど、地球においての怪獣の認識について聞いていたみたい。
「ふむふむ、それでは私の知る怪獣についてお話しましょう。私が知る怪獣とは、災害です」
「さい、がい?」
「ええ。どこぞのマッドサイエンティストが作り出した、遺伝子改造の産物。数百万匹もいるソレらは数万年から数十万年前に野生化し、宇宙を漂うようになりました」
「……そして、星を襲う? だから、災害?」
「その通りです。誰の意図でも無いのに星を襲い、滅ぼす。宇宙ではソレを、怪獣災害と呼びます。被害にあった星は数億とも言われていますし、地球のように知的生命体に溢れた星が滅ぼされる事もあります」
……星を、滅ぼす。
正直全く想像つかないけど、昨日のプロメテウスみたいなやつが暴れたらヤバいって事は分かる。
ていうか災害って事は、たまたま怪獣がやってきて滅ぼされそうになったって事か。
「地球って運悪いんだね」
「これが普通の怪獣災害なら、ですけどね」
「普通のって……どういう事?」
「現在確認されている怪獣は数百万匹。今でも年間に数匹ずつ『発見』されています」
「……発見? ……え、まさか? だ、誰かが新たに怪獣を作り出してる!?」
エルはこくんと頷き、人差し指だけ立てた右手を口の前に持って来て『シーッ』とジェスチャーをした。
「これは宇宙でも有名な陰謀論ですから、あまり他の宇宙人には言わないでくださいね。被害妄想強めの人だと思われちゃいます」
「他の宇宙人なんて会った事無いけど……ともかく、誰がどんな目的で!?」
「その前に、宇宙の法律について説明が必要ですね。地球はご存じないと思いますけど、宇宙は一定以上の発展レベルに達した星同士が一つの大きな連合を組んで平和を維持してるんです」
「……地球で言うと国連みたいな?」
「あれよりもう少し強制力が高いですが、大体そんな感じです。……そうですね、仮にその実行機関を『宇宙連合』と呼ぶ事にしましょうか。その宇宙連合が『宇宙法』という物を制定しています」
宇宙連合、宇宙法……うん、なんかぼんやりと分かってきた。
「その中で今回の怪獣災害に関係する法律は……この三つですね」
エルが机をとん、と叩くと、テーブルから文字の書かれた青いホログラムが三つ現れた。
それにはそれぞれ『侵略行為の禁止』『星の購入について』『災害について』
「まず侵略行為の禁止は、他の星に攻撃しちゃダメって事です。これは宇宙連合に参加していない星に関しても禁止されています」
「つまり地球はエイリアンからの攻撃を受けないって事ね」
「そうですそうです。そして星の購入について。今回の事に関係ある所だけ言うと、誰も管理してない、知的生命もいない星は安く買えるって所です」
「太陽系で言うと、月とか?」
「いえ、月は地球人類が足を踏みいれてますから扱いが難しくて……太陽系で言うと火星ですかね? まあ一旦置いといて、次は災害についてです。怪獣災害によって知的生命が滅亡した場合、その星は誰も管理していないものとして扱えます。つまり、これら三つの法律を悪い方に解釈するとですね……」
「怪獣災害で滅びた星なら合法的に安く買えるって事です」
これをさっきの、怪獣を作りだしてるって話と繋げると……
「……地球の怪獣災害は、地球を買おうとしているヤツの仕業!?」
「ええ、間違いなく。しかしプロメテウス型怪獣は勇気さんが倒しましたから次が来ます。いずれまたこの街に現れるでしょう」
「次……」
……怪獣が襲ってくる、大枠は理解出来た。まだぼんやりとだけど。
でもまだ、いくつも納得出来ない所がある。
「……なぜ、地球を買おうとしているヤツはこの街を狙うの?」
「隕石に偽装して落ちてきてる所を、私が軌道を無理矢理変えてこの街の周辺に落としているからです。ペイトゥウィンに、あなたに倒させる為に」
「……! それは、危険じゃないの? 何でこの街に?」
「ええ、危険です。人死にも出かねないとも理解しています。しかし……」
エルはもう一度机をとん、と叩くと三つのホログラムが消え、氷河と森と島のホログラムが浮かぶ。
「例えば地球上で最も人が少ない大陸である南極で戦うと、地球環境への負荷が大きすぎます」
「そっか、昨日みたいな怪獣が来たら氷が溶けちゃうのか……」
「ええ、かといって森の奥地で戦えば、燃え広がる炎を止められません。狭い無人島で戦うと、ペイトゥウィンの行動に支障が出ます」
「……だから、赤海市?」
「そういう事です。……でも、人の命を損なうつもりはありません」
エルがまたテーブルを叩くと、ホログラムが消えてミニチュアのような街が現れる。
……赤海市だ。ペイトゥウィンのコックピットから見た景色と似ていたからすぐに分かった。
「……実は私、一年前からこの街に色々仕掛けをしていたんです。住民の避難状況が分かったり、この家にペイトゥウィンが入った所を見られて警察や記者が押しかけていないのもそのお陰です」
そういえば、響子先輩もペイトゥウィンが僕の家に入ったとか、そういうの事は言ってなかった。
あれもエルのお陰だったんだ……そういえば昨日も認識がどうのこうの言ってたような?
……まあ、分からない事は置いておいて。
「じゃあ次は、怪獣との戦いの事だけど……」
「ペイトゥウィンのお金を国に出してもらうっていうのは無理ですよ」
僕が薄っすら考えていた事を、エルがズバッと否定した。
「……それは、戦闘機の一件のせい?」
「まあそれもありますが、さっき言った宇宙法で宇宙人関連の技術を宇宙連合に参加してない星の住人に開示しちゃダメなんですよ」
「え、僕は?」
「全部終わったら記憶を消しますから、大丈夫です。ちゃんと宇宙法にも『現地住民との協力を余儀なくされた場合、自己防衛、個人救済に限り技術の……』」
「……短くすると?」
「記憶消せばOK! あ、消すのは技術に関わる事だけですよ」
国からの支援は受けられないし、記憶は結局消されちゃうのか……
ロボットで戦った記憶が無くなるのは、少し寂しい。
「そっか……じゃあ僕らが戦う時に住民を守る方法は?」
「怪獣出現の前にはニ十分から三十分前にはスマホで警報を鳴らしますから、大抵の人は怪獣の居ない方向へ避難出来ます。けど病気の方やスマホを持ってない人は強硬手段で保護します」
「どうやって?」
「私とドローンで家を巡って#”$#カプセルに入れて、安全な場所に隔離します。そして後で隔離期間の記憶を消します」
「……それ、病気の人大丈夫?」
「最新式の医療ドローンを使います。多分カプセルに入れる前より健康になってますよ」
まあ植え付けられた記憶が本当にあるから、技術は信じられる……というか信じざるを得ない。
……でも。
でもエル本人を信用するには、あと一つだけ聞かなきゃいけない事もある。
「じゃあ最後……エルは、何者? あんなロボットまで持ってて、怪獣の事も誰より詳しくて……」
「ただの宇宙人ですよ。……あ、性格がいいと美少女が付きますけど」
エルは明け透けなごまかしのセリフを吐いて、ニッコリと綺麗な笑顔を見せる。
何も知らないままその笑顔を見れば、エルの事をただの性格のいい美少女宇宙人って言えるかも知れない。見た目は本当にかわいいからね。
けれど僕は知っている。エルのお金への執着も、勝手に他人の家を改造した事も、いきなり人に電撃を喰らわせて戦わせたことも。
「……あの、さ」
「はい?」
「言いたくないんなら僕にはどうしようも出来ないけど、それなら君を信用出来ないよ?」
「私としては、信用してもらわなくとも構いませんよ。私への信用がなくとも怪獣が現れたら戦ってくれるでしょう?」
「いやっ、そうじゃなくて……信用しないっていうのは無駄を生むんだよ」
これは今までのバイトでの経験則だ。
バイトはじめたての人間に信用って物は無い。何度も何度も同じ事を教えてもらって、成功する事で信用される。信用してもらうと教育の時間が要らなくなって、その分教える人も他の事が出来る。
でも逆に、教えてもらう側からの教える側への信用っていう物もある
教え方が変だったり、態度が偉そうだったり、そもそも教える人が失敗続きだったりしたら信用は生まれない。
そしたら教育がどうであれ、教えられた側は教えた通りにはやらない。教えられた事を信用出来ないし、やる気が芽生えなくて定着しないから。
「僕が君を信用しないまま戦うとするよ? で、昨日みたいに色々教えてもらう訳だけどさ。僕は言われた事を、微妙に信用出来ないまま戦うから迷いが生まれちゃう。それって、すごく無駄だと思うんだ」
「昨日は何の説明も無いのにお金も入れてくれたし、戦いもすんなりだったじゃないですか」
「あの時は切羽詰まってたからね。けど昨日の事とか、いつの間にかこの家を改造したり寝泊まりしたりで、僕は不安に思ってる」
「……」
僕の言葉を聞いたエルは笑顔のままだけど、僅かに表情が曇ったのが分かった。
見た目が年下だからこういうキツイ言い方をすると心が痛むけど、でもこれは嘘偽りない僕の本音。本音ってのは伝えなきゃ何の意味も無い。
「だから教えてくれない? エルはお金を守りたいんでしょ? 僕の迷いが、何円のマイナスを生むか分からないよ?」
「……そういう言い方するの、ズルいですね。ちょっと待ってくださいね、プランを構築しなおしますので」
プラン? よく分からないけど、教えてくれるならいくらでも待つ……
と言いたいところだったけど、エルの逡巡は一瞬で終わった。
「……OKです。どのくらいの事を聞きたいですか?」
「信用出来るなら短くても大丈夫だよ」
「なら一言で十分ですね」
エルはそう言うと笑顔を解いて、宣言通りたった一言だけ発した。
「……私の故郷は怪獣に滅ぼされました」
……もし宇宙人が人間と同じ感情を持っているんなら、目の前の彼女の表情はきっと悲しみの表情だ。
そして口調も、さっきみたいなごまかしの口調じゃない。重く、深みを感じさせる物だった。
じゃあこの地球に来たのは、本当に怪獣から人々を守る為……?
故郷とこの星が、同じ運命を辿らないように……
「ごめん……」
「この地球も滅ぼされかけてるんですから、同情される事ないですよ。それより、これで信用出来ました?」
まだ色々と聞きたいけど、エルは怪獣から地球を守ってくれた恩人な訳だし、今のエルの表情が嘘とは思えない。
だから一先ずは信じよう。信じれなくなるまで、信じる。
「……分からない所は多いけど、信用しようと思う」
……僕がそう言うとエルはカラっと表情を変えて、再びの笑顔を僕に見せて言った。
「大事なのはこれからです! 質問がこれで最後なら、これからの事について話し合いませんか?」
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「さて、契約はこんなところですね。今一度の確認をお願いします」
テーブルの契約書を手に取り、もう一度読み返した。
『家賃は月二千円(家事二週間担当で免除)』
『エルの部屋は地下に増設された部屋(いつでも入ってきていいですよ♪)←入らない』
『これ以上勝手に家を改造しない(地下は可。ただし戻せる範囲で)』
『ペイトゥウィンのエネルギー代、武器のレンタル代は勇気負担』
『ペイトゥウィンのメンテ代はエル負担』
……特に異論はないかな。なんか婚前契約書みたいで変な感じだけど。
「うん、僕は大丈夫」
「じゃあここにサインを」
僕はエルからやたらごつごつした黒いペンを受け取り、契約書の一番下に『小鳥遊勇気』とサインした。
「これでいい?」
「OKです! じゃあ次は私が……」
今度は僕がエルにペンを渡すと、よく分からない文字の羅列を僕の名前の下に書いた。
「……では、これで契約成立です。末永く、よろしくお願いしますね?」
「ほんとに結婚するみたいだからやめてよ……」
僕が結婚するのは響子先輩と。これはずーっと心に決めてる事だ。
「まあ、よろしくね」
僕は右手を差し出し、握手を促した。
けれどエルは目を丸くして、僕の手を見たまま動かない。
「それは何ですか?」
「握手って言って、お互いの手をこうやって出して握り合う……親愛の証みたいな感じ?」
「じゃあ昨日の……これは何ですか?」
そう言いながらエルは右手でグッドのジェスチャーをした。
そういえば昨日、戦闘機墜としちゃった後にしてた気がする。
「これはグッドって言って……相手を褒めたたえる的な?」
「なるほどー……じゃあ両方やっちゃいましょう!」
エルは右手で僕と握手し、左手で僕にグッドした。
「昨日はお疲れ様でした! 良い戦いぶりでしたよ! グッドです!」
「エルこそね。昨日警告とか、武器のレンタルとかほんと助かったよ。グッド!」
僕もエルに習い、左手でグッドした。
……今日僕は誓おう。紛れも無い僕自身に、この地球をエルの故郷と同じ目に遭わせはしないと。
そして何度怪獣が現れても、守って見せる。この地球も、響子先輩も、人々も、そしてエルも。
握手とグッド。地球人と宇宙人。それぞれ違うけど、合わせればきっとよりいい結果になる。
……だから明日から、バイト頑張ろう。
今回はちょっと真面目です。
……まずは怪獣災害に見舞われた方々に謝罪を。
こんな風に怪獣災害をエンタメにしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
しかし方向性は変更しません。怪獣災害の真実をより多くの方にお見せする為には、視聴数が必要ですから。
真実については……今後明かすつもりです。少々お待ちください。
ふう、テンションいつも通りに戻しますねー。
しかしまさか、勇気さんがあんなにいい事言うなんて……ついつい『謎の美少女の秘密がだんだんと明らかに!?』プランを崩してしまいました。やられましたね……
けど今回はヒロインポイント高かったんじゃないですか!?
これからも、どんどんヒロインポイントを上げてきますよー! 目指せ響子先輩越え!
あ、高評価と感想コメント募集中です! 私のヒロインポイント上昇の為に何が必要か、地球に詳しい方とかいれば教えてください!
それにしても……はぁ、『信用』ですか。すっごく基本的な事でしたね……
あ、テンション戻ってない。
……次回予告で戻します!
私と出会って一週間、何だかんだで私との生活に慣れてきた勇気さんの前に新たな怪獣が現れます!
さっそく出撃したペイトゥウィンでしたが、現れたのは双翼に毒を持つコウモリ怪獣カマソッツでした!
空を飛び毒球を放つカマソッツに対し、有効打が無いペイトゥウィン。そこで勇気さんは新たな兵器『Sガン』をレンタルします!
次回、『……え、全然効いてないけど?』
また見てくださいねー!