五話 一日のバイト代、一〜二万円。借金、百億以上。
――――勝った……よね?
メインモニターには、真っ二つになったプロメテウスの姿が映っている。
断面からは緑色の液体が延々流れ出てきて、垣間見える赤い肉みたいな部分と合わさって絶妙にグロイ。
中身はもっとグロそうだから直視はしてないけど、切った後はピクリとも動いていない。
「エル、勝った……」
『おー、お疲れ様です! これで一体目の怪獣、撃破ですね!』
「おー! ……って一体目?」
『ええ、怪獣ですから。あれでしょう? 地球のテレビ番組でも、敵が何度も現れるのは定番でしょう?』
じゃあ今後も定期的に怪獣が現れて、その度にバイト代が無くなる……って事!?
……
……
……辛い。
「バイト、がんばろう……」
『もー、声に元気ないですよ勇気さん!』
「誰のせいだよ……」
『……あ、たった今自衛隊の戦闘機がスクランブル発進したらしいです。認識$#$!は散布したので、ペイトゥウィンが認識される事はないですけど、早めに帰ってきてください』
「はいはい、分かった分かった……」
何を言ってるか分からないエルは置いといて、僕は周囲を見回し、完全に倒壊した廃工場を……
…………え、壊れてるけど?
「あの、さっきの工場壊れてるんですけど……」
『さっき壊しましたからね、ペイトゥウィンが立ち上がった時』
「……このロボ、そこらへんに置いとけばいい?」
『ダメです! 新基地の座標送りましたから、ついでにプロメテウスの残骸も持って来てください』
エルがそう言うと、メインモニターに座標が表示された。
けどついでに持ってこいって、感触もリンクしてるからあんまり持ちたくないんだけど……
まあ仕方ない、持ってくしかないか。
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僕はぬちょ、ねちょねちょ、という両手から感じる感触を無視しながら、住宅街の狭い道路を進んでいた。腰にくっつけたGソードが家に当たらないようにしなきゃいけないし、ストレスが溜まる。
けれど新基地とやらはいつまでも見えてこないし、そもそもこの辺はよく知ってるからこのロボを置けるスペースがない事くらい知ってる。
『もうすぐです。その道を右に曲がってください』
「分かった……って、右?」
『どうかしましたか?』
「どうかしましたかって……いや、僕の家が近くて……」
そう言いながら右に曲がると、赤い屋根に二階建ての我が家が……え、なんで? 待って??
――い、家が割れてる!? 真っ二つに、割れてる!? そして割れた家の下に、空間が広がってる!?
「な、なに、えっ、いえぇッ!?」
『ええ、だって勇気さんの家ですから。新基地』
「はあっ!? な、え……え?」
『あ、そろそろ私の事も見えるんじゃないですか? おーい、勇気さーん!』
茫然とする僕の目の前にサブモニターが投影され、僕の部屋、二階の角部屋のベランダに立って手を振るエルが映された。
『いやぁ、地球人男性の部屋ってこんな感じなんですね。所々散らばってますけど意外と綺麗というか、ベッドの下も何もありませんでしたし……』
「…………」
『聞いてますー? 勇気さーん!』
「いや、ちょっと……まって…………なんで、いえが」
『勇気さんが戦ってる間に、ちょちょいと改造しといたんですよ?』
…………ちょちょいと改造?
「まさか、さっきの工事みたいなノイズって!?」
『みたいなじゃなくてそのものですね。それよりほら、プロメテウスの亡骸をこの下にポイっとしちゃってください!』
サブモニターのエルが家の割れ目、そしてその下に広がる空間を指さしている。
指さしているけど、割れ目にこれを入れる!?普通にプロメテウスの方がデカいけど!?
「無理無理無理! 何考えてんの!?」
『いいから! そろそろペイトゥウィンのエネルギーも切れます! そしたら棒立ちですよ? 戦闘機も来ますし、警察の事情調査とかされて、宇宙警察とかも来てめんどくさいですよ!』
「そもそも入るの!? 家の下に!?」
『大丈夫です! ほら早く、すとーんって!』
いや、やばいって。絶対やばい! ぬちょぬちょ、ねちょを家にすとーんはダメだって!
でも警察!? 捕まったらどうしよう! それになんだかんだエルの手助けで怪獣を倒せたわけだし……
………………ううう、えっ、ええい、どうにでもなれ!
僕は意を決し、プロメテウスを家の割れ目へと慎重に落としていく……
ゆっくり、ねちょが家に付着しないように……
けれどペイトゥウィンの手が割れ目の当たりにたどり着いた瞬間、プロメテウスの亡骸が一気に小さくなっていき割れ目に吸い込まれるようにして消えていった。
「……なにこれ」
『量子化収納です。お、言えましたね』
「……それで、次は?」
『次はペイトゥウィン……あ、レンタル返しちゃいましょうか』
「そういえば……!」
そういえばGソード、腰につけたままだった! 延滞料金とかないよね!?
「ど、どうやったら返せる!?」
『返す時も一緒です。右手に剣を持って、突き上げる感じで』
「こう?」
ペイトゥウィンは右手でGソードを持ち、天を貫くように突き上げた。
すると再び輪っかが現れ、右手を包んでいく。
『じゃあレンタル返却ボタンぽちっ……え!? うそ!?』
「どうかしたの?」
『ちゅ、中止中止中止です! 戦闘機がちょうどペイトゥウィンの上を……』
――それはきっと、奇跡的な偶然だった。
地球が宇宙に誕生する確率は、25メートルプールにバラバラになった時計のパーツをぶちこんだら水流で勝手に時計が組みあがるぐらいの確立って聞いたことない?
きっとそんな偶然が、万が一の偶然が起きたんだ。
……さっきの光がもう一度、ペイトゥウィンを貫いた。
だけど今度は一人、一機じゃない。
その上空に飛んでいた、戦闘機も一緒にだった。
――サブモニターに映された戦闘機は、きりもみ回転しながら落ちていく。
幸いだった事は二つ。
一つ目は戦闘機の落ちそうな場所はさっきの山だから住民に被害は無いって事。多分火も燃え広がらない。
二つ目は戦闘機のパイロットは無事にパラシュートを開き、ゆっくり降下しているって事。
ああ、Gソードをレンタル時間内に返せたってこともだから三つか。
……戦闘機って、百億円くらいしなかったっけ?
「……あの、エル。戦闘機の値段って」
『…………調べてみたところ、購入で百億以上。維持費だけでもかなりするそうです』
「…………これ、まずいよね」
「人々の認識は阻害されてるので、バレる事はないですけど……」
…………
…………
…………よし。
僕はコックピットを開き、エルと対面した。
「…………勇気さん! これは私たちだけの秘密って事で!」
「…………うん! 僕たちの友情にかけて、一生の秘密だ!」
僕らは最高の笑顔で見つめ合う。そして僕は、グッと右手の親指を突き立てた!
……あの、わざとじゃないんです。
いや、戦闘機が来るのはわかってたんですけど、まさかペイトゥウィンのちょうど真上だなんて……
やらせじゃないです断じて! ほんとに! 信じてください!
……嗚呼、誰からも信じられてない気がしますね。
でも私の事は信じられなくても、何も知らない勇気さんの為にコメントと高評価をお願いします……
……さて、次回予告はいつものテンションに戻りますねー!
怪獣を初めて撃破した勇気さん! 勇気さんはその事を世間にさらして人気者に……なーんて事になるわけもなく。正体を隠してごく普通に学校へと通っちゃいます!
でも勇気さんの思い人、響子さんの様子がどこかおかしくて?
そして学校から帰った勇気さんの様子も見るからにおかしくて? ……いや、ここはカットですかね。
次回、「世紀の大決戦……翌日」
また見てくださいねー!