三話 さよなら、バイト代……
「ペイトゥウィン……ペイトゥウィンかぁ」
『コックピットの中でも言ってるんですか? いいじゃないですかペイトゥウィン。ウィン入ってますし、かっこよくないですか?』
「そういう事じゃない!」
僕はイヤホン越しに聞こえてくるエルの声に返答しながら、起動プロセスを進めていく。
コックピットの内部はすごくシンプルな物で、僕が座る座席が中心になっていて、その手前には工場の天井を映している大きなメインモニターがある。そして座席の手前には二つの操縦桿が左右の壁から伸びており、それに意識をリンクさせて操縦する事になる。
座席にはシートベルトの類すらないけど、記憶によるとこの機体が起動すれば座席から重力!”#$%!……ダメだこりゃ。まあともかく、ちょっとやそっとの衝撃では座席から離れなくなるらしい。
あとはサブモニターがホログラムみたいに空中に投影される。メインに映らない物を映してくれたり、機体がダメージを受けたりした時にCGでダメージを再現してくれるらしい。
床や壁もシンプルな作りで、アニメとかで見るような複雑な機器とか計器とか、ボタンとかもない。
これが技術の進んだ宇宙流って事なのかな?
……そして僕が、あらかた起動プロセスを終えた時だ。イヤホンから聞こえていたエルの声が重く、真剣なものになった。
『……勇気さん。ここからはちょっと真面目な話です。もしあなたが負ければ、この街の皆さんの命は失われると思ってください』
「……うん」
『それだけじゃありません。宇宙怪獣には、地球の兵器では太刀打ち出来ないはずです。この惑星そのものが、死の星にされてしまうでしょう』
「……」
『核兵器も、レーザー兵器も、実弾兵器も、生物兵器も受けつけない。けれどそのロボットなら、何千億マネーも掛けたそのロボットだけは、あの怪獣に勝つ事が出来る』
「……なんでそんな大事な兵器のパイロットに、僕なんか?」
『地球上で身体能力が最も高いのが勇気さん、あなたでした。そしてあなたは善良で純粋、他人の為を思える人だと判断したからです。あなたなら、私の全てを託せると判断しました』
身体能力って……確かにクラスじゃ一番の自覚はあるけど、大会に出れるとかそんなレベルでもないのに? それに善良で純粋って、どうやって知って……
『勝ってください、勇気さん。あなたに私の金、託します』
最後までそれか、とか。宇宙の事とか僕の事とか。色々言いたい事、聞きたい事があった。
……けど、あの子も本気なんだろうな。
「……分かったよ、エル。皆の金も命も、僕が守るッ! ペイトゥウィン、起動ッ!」
僕はエンジン始動ボタンを押し、操縦桿と意識をリンク! 立ち上がれ、ペイトゥウィン!
……
……
……しかしエンジンは起動しない。
「……なんか間違えた?」
『……あー、そっか! 軍用のやつじゃ分からないですよね! これは失敬!』
「え? 何の話?」
『そのロボット、エンジン改造してまして。普通の起動プロセスに加えて、もう一つ大事な事があるんです』
……どうするのこの空気。僕も君も、全力でかっこつけたよ?
「……大事な事って?」
『まずカバン持ってますよね?』
僕のカバンは座席下の、重力保護$#”%を受けられる場所に置いてある。
記憶によると置いた物を重力で押さえつけるから、激しい戦いでも大丈夫らしい。
「持ってるよ」
『そこから封筒取り出してください?』
「封筒って、バイト代の入ったやつ?」
『それですそれです。中身出しちゃってください』
……何かまた急に胡散臭く思えて来たな。まあ一旦は従ってみよう。
僕はとりあえず、魚屋で貰った千円を取り出した。
「……で、これをどうするの?」
『メインモニターの下に、記憶にない長方形の穴がありませんか?』
何も映らないメインモニターの下を探ってみると確かに長方形の穴があった。
その穴は横長の長方形で、その右横には縦長の穴がある。
……しかし、なんかどこかで見覚えのある形だな。
『そこにお札を入れてください。小銭ならその右の穴に……』
「……詐欺?」
『詐欺じゃないですって! 新しい記憶もあるでしょう!?』
やばい、エルを信じるって気持ちが一気に失せてきた。
記憶もあるし揺れがしてるのは本当なわけだし、本当なんだろうけどさ……
言ってる事は99.9パー詐欺だ。
まあしかし、やらなきゃいけないならやるしかないのか……
「……じゃあ千円だけ!」
僕は千円札を穴に近づけ、突っ込んだ。すると突然ウイーン、と音がして、お札は勝手に吸い込まれていった。
――これあれだ、自動販売機とか食券機のお札入れるとこだ!
「入れたよ」
『じゃあエンジン始動ボタンをぽちっと!』
「ぽちっ」
ぽちっと押すとコックピット内に重低音が響き始め、メインモニターが起動する。
……千円でエンジン始動、出来ちゃったよ。
「せ、千円って、ロボットの使用料って事!? それなら最初からそうと言えば」
『ちーがーいーまーす! ペイトゥウィンに積んでるエンジンが、かなり特殊なものなんですよ!』
「特殊って……金で動くとか? そんなわけ」
『あっ、まさにそれです! ペイトゥウィンは金で動くエンジン、「バリュー・エンジン」で動いてるんです!』
………………は?
「は、え、金で動くって、燃やしてるの!?」
『いえ、バリュー・エンジンは物の価値そのものを因果$%””%&”で”$”&”して%”$%#”&オイルを……えーっと、地球的に言うと、お金の価値を同じ価値分の燃料に変換出来るんです』
「……千円分の燃料で、ロボットが戦える?」
『起動には十分ですよ。激しい動きは無理です』
僕は操縦桿にリンクし、メインモニターを操作。エネルギー残量を見ると、1パーセントしかない。
記憶での1パーがどれくらいかというと……立ち上がれるかどうかも怪しいくらいだ。
試しにもう千円突っ込んでみたけど、それでも1パーセントのまま動かない。
『あっ、怪獣が近づいてきました! あと三分で到着!』
「なっ!? でも1パーじゃどうにも……」
『……本当に、出来ませんか?』
「……」
出来る。そうだ、出来るんだ。でもそうしたら、今日のバイト代は……
(じゃあまた明日、勇気くん)
……!
……
……そうだよね、僕がバイト頑張ってるのは……大学で響子先輩と会う為!
「分かったよ、エル。僕も全部賭けてやる」
『勇気さん……』
僕はカバンの封筒を全部取り出し、一つ一つお札を取り出していく。
八百屋の厳さん、家電屋の満さん、古本屋の晶紀さん、インドカレー屋のチャンドラさん、喫茶店の邦夫さん、そしてさっき使った魚屋の克己さん……
全部で総額一万四千円、ありがたく使わせていただきます!
僕は全額を穴に突っ込み、モニターでエネルギー残量を確認した。
表示されたのは『残エネルギー量5%』。それは怪獣に立ち向かうには、あまりに心細い数字だった。
「五パー……僕の丸一日が5パーか……」
『……いえ、その5パーセントは何者にも代えられない可能性の数字です。あなたなら、その可能性を掴みとれるはず!』
「分かってるよ、エル。それより危ないから離れといて」
僕は操縦桿を握り、右腕を動かすイメージをする。すると先ほど見ていた右腕が思った通りに動いた。左腕をイメージすれば左腕が、右足をイメージすれば右足が動いている。
「よし、よし! 記憶通りだ、あとは立ち上がって……」
サブモニターでエルが工場内部に居ない事を確認し、まずは床を腕でついて背中を地面から離した。しかしたったそれだけの動作で工場全体が大きく揺れ、さっきまで歩いていた階段や通路が崩れていく。
……恐ろしいパワーだ。ていうかここ、壊しても大丈夫なのかな?
「エル、この工場壊しても大丈夫?」
『大丈夫です! この間私が買い取った土地なので!』
なら、遠慮はいらないなっ!
僕は立ち上がる事をイメージし、右腕を支えに一気に起き上がり、廃工場の天井を突き破りながら、完全に立ち上がったッ!
……そしてメインモニターに映ったのは、赤海市の全景だった。
近くには小学校や公園、住宅街が。少し遠くには赤海商店街が。もっと遠くには高校が、大学が、ビルが、海が……守らなきゃいけない物が、まざまざと映し出されている。
僕は、ペイトゥウィンは赤海市に背を向け、迫りくる振動へと目を向けた。
宵闇の中赤海山をかき分けて歩いていたのは、青紫色のごつごつとした皮膚を持つ大怪獣。
大きさはだいたいペイトゥウィンの二倍くらいか。だけど腕の長さはペイトゥウィンの半分くらいしかなく、頭部には皮膚が盛り上がったような突起が二つついている。
エルによれば、確かそいつの名はプロメテウス。カッコいい名前だ。
……名前じゃ負けてるけど、見た目じゃあ勝ってるから互角ってとこかな。
「そこの大怪獣、聞こえてる?」
試しにスピーカーモードで声を掛けたが、ソレは気の求めずに街へと踏み込もうとしている。
見た目的にそうだろうとは分かってたけど、対話は無理か。
……そういえば僕、殴り合いの喧嘩とかした事なかった。戦えるかな?
いや、まあいいか。どうせ戦うしかないんだから。
僕は見様見真似のボクシングの構えみたいな物を取りながら、そいつの進路上を塞いで叫んだ。
「……来いッ! プロメテウス!」
やーっと! やっとですよ! ようやく皆さんお待ちかねのバトルシーンです!
ふれーっふれーっ! ゆ・う・き! がんばれがんばれゆ・う・き!
……あっ、これが地球の応援法らしいです。現地だと露出度の高い服を着て$#”#%みたいな無機物を両手に持って踊るんだとか。
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それではここからは次回予告、の前に注意!
次回は音声に多少ノイズが混じると思います。耳の良い種族の方はお気をつけて!
という訳で正真正銘次回予告!
ついにプロメテウスと対峙したペイトゥウィン! その鉄拳が悪をくだ……え、鉄拳?
勇気さーん、武器忘れてますよー! 勇気さーん! 無課金武器じゃあ無理ですって! レンタルしましょ?
お金かかるんだろって? ……リボ払いも、出来ますよ?
次回、「武器はレンタル、拳は無課金」
また見てくださいねー!