二話 その名はペイ・トゥ・ウィン!
「さあ、時間がありません! 来てください!」
エルが茫然と立ち尽くしていた僕の手を引いた。
「え、ちょ、ちょっと! まず逃げないと!? 一緒に逃げよう!」
「逃げる必要なんてありません! わたしとあなたで、あの怪獣に立ち向かうんです!」
「立ち向かうって言ったって……!」
未だスマホに流れ続けている映像を見るかぎり、怪獣は赤海山のどの山々よりも高い……
そんな化け物に、ただの人間二人がどうやって立ち向かうって言うんだ!?
「説明している時間はありませんが、わたしにはアレに勝つ手段があります。……それにアレは全てを壊しますよ。あなたにも、守りたい人がいるのでしょう?」
「守りたい人……」
「来てください! わたしとあなたでこの惑星も、守りたい人も守っちゃいましょう!」
……正直、このエルって子を信用は出来ない。けど僕には守りたい人がいるってのは確かだ。
それに、それだけじゃない。
学校の皆、バイト先の店長さん達……人だけじゃなくて家だって数千万の価値がある。学校だってバイト先だって壊されたら困るし、赤海大学を壊されたら響子先輩がどこに進学するか分からなくなる!
「……分かった、行こう!」
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エルに連れられて辿り着いたのは、街はずれの廃工場だった。
「……ここ?」
「ええ。暗いので、足元気をつけてください」
エルが廃工場のさびれた扉を開くと、ぎぎっと音を立てて開く。中はとても暗くてどうなっているかはよく見えないけど、エルは勝手でも知っているのか暗い中をひょいひょいと進んでいく。
僕はスマホのライトをつけ、足元を照らしながら慎重に進んだ。
「……ていうか、大丈夫? あの怪獣、どのくらいで街につくとか分かってるの?」
「ええ。怪獣が来るまであと二十分です。それにここ、怪獣が真っ先に襲ってくるだろう場所ですから」
確かに考えてみれば、この廃工場は確かに赤海山に近い。振動もさっきより強い気がするし……
となると、もしエルの言葉が嘘なら僕達は真っ先に死ぬって事だ。
「……信じるよ」
「結構ですよ。今から、イヤでも信用させてあげます」
エルは自身満々な声でそう言うと、突然に立ち止まった。
「着きました」
そしてそう言って、壁のスイッチを押した。すると照明が一気に点灯し、廃工場がパッと明るくなった。
不意の眩しさに思わず目を瞑った僕は、最初から照明つけろよと思いながらもゆっくりと目を開け……真っ先に僕の瞳に映ったのは、僕の身長の何倍もある巨大な赤色の金属塊だった。
「……え? く、車?」
「いいえ、右腕です」
「み、右腕って……」
視線を右側に移すと、金色の拳と五本の指が見えた。
今度は視線を左側に移すと、右腕よりも分厚く丸い赤色の金属があった。まるで人間の肩みたいな……
「……これって、まさか!?」
「ふっふっふっ、全身見やすいようにそこの階段登りましょう」
エルが指差したのは目の前にあった鼠色の階段。その先を見てみると、通路が右腕の先に伸びていた。
僕は怪獣が迫っている恐怖なんてすっかり忘れてウキウキで階段を登り、それを見下ろした。
「……やっぱり、そうなのか」
そこにあったのは、金属の両足、両腕、胴体、頭……
全体は赤を基調としてるけど、所々金色が混じっている。手や頭と言った人間でいう所の地肌は金色の金属で仕立てられているらしい。
それと顔には銀色の瞳が二つ備えられていて、頭頂部や首元に天使の環っかのような装飾がいくつも施されている。
また金色の部分は丸っこく生物っぽさを感じさせているのに対して、赤い部分は角が多くごつごつとした印象だ。それはまるで金色の肉体を、真っ赤な鎧で覆っているかのような……
「全長四十メートルの搭乗兵器。前時代的ですが、その出力は随一です! ……ところで地球にはこういう兵器はないようですが、どういう物か分かってます?」
「……うん、コックピットに入って操縦する」
「あ、分かってるんですね。兵器の構想自体はある感じですか」
兵器? ――いや、違う。
「……こいつは『ロボット』だ!」
「ロボッ、ト?」
「それも怪獣と戦って人を守る用でしょ? それなら地球ではこういうのを、正義のヒーロー『スーパーロボット』って呼ぶんだ!」
「正義のヒーロー……いいですね! ウケよさそう!」
そういえば、僕も小さい頃はロボットアニメに夢中だったっけ。
主人公が主役ロボットに乗って、迫りくる敵をバッタバッタと……
「……いや、ちょっと待って。もしかして、これに僕が乗るの?」
車の免許どころか原付の免許すら持ってない僕が、こんなのどうやって操縦を……?
「あ、技量的な問題は大丈夫です。これ被ってください」
そう言ってエルが手渡してきたのは、金色のヘルメットだった。サイズはちょうど僕にピッタリくらいだけど、気になるのは外側に色々コードがついてる事だ。
「被るの?」
「ええ、スポッと」
僕は言われるがままヘルメットを被った。予想通りサイズは僕にピッタリで、重さもそれほどない。もしかして操縦方法を音声で教えてくれるヘルメットとかそういうのかな?
そんな風に、僕がのんきな事を考えていた時……
「じゃあいきますよー」
「いくってな……ギャアアアアアアッ!?」
……突然の電撃がヘルメットから放たれ、脳内を走った。
「ちょ、な、何のドッキリ……!?」
「ドッキリじゃありませんよ。これで操縦方法分かったでしょう?」
「そんなの分かるわけ……」
(左右の操縦桿を握る。操縦桿のメインスイッチはそれぞれの手の武装と繋がっていて、右のサブスイッチはメインモニターの決定。左のサブスイッチは飛行モードへの変更。操縦桿を『”#&%”#”&』で脳内と同期し、『$%&$#”%$#”%$』すれば感覚的に機体を動かせる)
……あ、え? ぜんぶ、わかる? 起動方法からメインの操作、サブの操作、BGMのかけ方……全部理解った。
「……いや、『”#&%”#”&』ってなんだ? 『$%&$#”%$#”%$』ってどういう事……?」
「あ、翻訳失敗しましたね。地球では構想もされてない技術でしたか」
「やり方は全部、理解ったよ。けどそれは何のヘルメット? 僕の記憶にそれはない……」
「これはパイロット自動育成ヘルメットです! 操作方法の記憶を電気刺激で生み出す軍用のやつ! これ結構高かったんですよー! しばらくは意識が混濁するんですが……って、聞いてます?」
もう何が何やら、ああでも全部理解るし……
「そうだ、乗らないと。乗って響子先輩を、守らないと……」
「その前に、契約書にサインを! 大丈夫、契約にお金はかかりませんよ!」
「契約書、契約書……名前、書けば、守れる……」
エルに手渡されたのは、突然空中に現れた青いホログラムの板だ……
けど指で触れるし、ホログラムじゃないんだろうな……
何なんだろうな、これ。僕は全部理解るはずなのに……
「一番下に名前書く所ありますから、書いといてくださいね」
「名前、名前……」
僕はホログラムを指でなぞって名前を書……あれ、僕の名前何だっけ?
$”%&”&……いや違う、発音できない……という事はもう一つの方、た、たかなし……小鳥遊、勇気?
それが僕の名前だ、かきかきと…………ん? ……あ、そうだ! 僕は小鳥遊勇気だ!
「……って、何の契約書書かせた!?」
「まあまあ、とりあえず乗ってください! 怪獣も迫ってますし……」
はっ! 確かに振動が強く!? あと数分あるかないかって感じ……!?
……帰ったら契約書確認しないと。
「コックピットの開け方は分かりますよね。じゃあさっそくこのロボットに……」
「ちょ、ちょっと待って! 一番大事な事聞き忘れてた」
……状況はよく分からないけど、せっかくスーパーロボットで戦うんだ。
ちょっとでもモチベーション上げたいもんね。
「こいつの名前は? 機体名とか、愛称とか……何かカッコいいやつないの?」
「機体、名……?」
それを聞いたエルは、豆鉄砲食らったハトみたいな顔になって……すぐにニヤリと自慢げな顔で僕を見ながら、両手を腰に当てて威張ってるみたいなポーズを取った。
「ふっふっふっ! よくぞ聞いてくれました!」
……そして数秒後、僕は尋ねた事を後悔する事になる。
「時に、私のポリシーがあるんです。それは『世界は金で回っている』という事です。例えば星や国といった集団を身体に例えるならば臓器は友好や遺伝子、歴史や宗教といった目に見えない物です。しかし金というのは目に見える形で臓器を、そして細胞である人の動きを支えています。つまり金というのは人の血液であり、宇宙を巡る血液なんです。血液を巡らせることでそれぞれの臓器は正常に働き、細胞も金から栄養を得る事でそれぞれの働きをして血液の、金の生産を助ける。そうやってこの宇宙は回っています。だから細胞は、人は守らなければならないのです。人の価値は無限大。どれだけの金を生み出してくれるかも分からないのに、死んでしまうなんてもったいないじゃないですか。土地だってそうです。人が金を生み出す為には土地が必要ですから。なのにそれらを破壊して……」
「長い、三行で」
「世界は金で回ってる! 金が最強!
人は金生み出す、つまり金になるから守る!
土地は金生み出す、つまり金になるから守る!」
「だいぶ短くなったな。一行で言うと?」
「金最強! 守る! だからこのロボットの名前は…!」
「ペイトゥウィン! それがこの星を、金を守るこのロボットの名前です!」
ペイトゥウィン……『金の勝利』、いや『金で勝利する』?
……
……
……嗚呼。
多分、宇宙史上最悪のネーミングだ。
ついに登場、最強ロボット「ペイトゥウィン」!
いやぁ、我ながら良い名前を付けたものです!
金こそ力、金こそパワー、金こそ勝利!
あ、「ペイ・トゥ・ウィン」と「ペイトゥウィン」。タイトルと本編で表記ゆれしてますけど仕様です。
正確には正式名称が「ペイ・トゥ・ウィン」。俗称が「ペイトゥウィン」って感じです。だから本編では基本的に俗称の「ペイトゥウィン」の方で統一します!
いやーそれにしても……勇気さん、予想より何倍も生命力高いですね。
あのヘルメット、種族によっては数日意識を失うって説明書に書いてあったんですけど……
それとも地球人って、言われてるより頑丈なんでしょうか?
……まあ何とかなったし、結果オーライ! ……ですよね?
さて、ここからはまた次回予告になります!
ついに起動したペイトゥウィ……あれ、起動しない? 何でー!
もう三話ですよ三話、起動してバトらなきゃそろそろ視聴者離れますってー! コメントがーっ! 高評価がーっ!
……えっ、第三話にしてもう『さよなら』? まってまって! メインキャラ三人しか出て無くないですか? 誰がさよならするんですかー!?
次回、「さよなら、オレのバイト代……」
また見てくださいねー!