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課金ロボット ペイ・トゥ・ウィン!  作者: 賽子転々
灼熱怪獣プロメテウス編
1/18

一話 怪獣出現?

「これバイト代と、今日頑張ってくれたからおまけね」

「ありがとうございます! また働かせてください!」

 八百屋のバイト、二時間で二千円。あとキャベツとレタス一玉ずつ。


「はいバイト代。ほんっと助かったよぉ!」

「ありがとうございます! またよろしくお願いします!」

 家電屋のバイト、三時間で四千円。滅茶苦茶美味しい仕事だが、家電運ぶのは結構疲れる。


「はいバイト代。今日も頑張ってるねぇ勇ちゃん」

「ありがとうございます! 明日も頑張ります!」

 古本屋のバイト、二時間で二千五百円。疲れないし稼ぎもいい、美味しい仕事だ。


「コレ、バイトダイネ。アトマカナイカレーモッテクルカラ」

「ありがとうございますっ!」

 インドカレー屋のバイト、二時間で二千円。あとまかないカレーとナン。絶品。


 これで午前のバイトは終わり。締めて一万五百円の儲けだ。


 ここ、赤海商店街(せきみしょうてんがい)はアーケードがボロボロだし、街の中心から微妙に遠いしで難点も多い。

 でもちゃんと地元民から愛されていたり、たまにSNSでバズったりとそこそこ繁盛してる。

 だからバイト代も気前が良くて、まかないとかも色々もらえたりする。

 高校二年の僕でも働けるし、小さい頃から通ってたから勝手が分かる。常に金欠な僕としては滅茶苦茶ありがたい場所だ。


 けどお昼越えてからはどこもバイト募集してないから、午後四時まではヒマになる。

 今は二時だから、あと二時間。僕はカレーとナンでパンっパンに膨れた腹を抱えながらベンチに座って、カバンからミントタブレットを取り出そうとした時……


「あら、こんにちは勇気くん」

「え……きょ、響子先輩!?」


 偶然、全くの偶然出会ってしまった!

 ミスおしとやか、クールアンドビューティ! 僕の一個上の先輩、成績優秀でスポーツ万能! 黒髪ロングですっごく清楚な藤原響子(ふじわらきょうこ)先輩に!

 先輩は上品なマイバッグを抱えているから買い物帰りか途中!? ここは立って『持ちましょうか?』とか言った方がいい!? いやさすがに距離近すぎるよね、彼氏でもないのに……

 それにしても私服の先輩もクールで……えっと、ビューティ! ……ダメだ、もっと褒める言葉を勉強しないと……あ、なんて言ってる場合じゃない!

 僕は急いでミントタブレットを十個取り出して口の中に入れ、爆速でかみ砕く! そして出来るだけの笑顔を響子先輩に向けたっ!


「ここっ、こんにちは響子先輩!」

「ふふ、そんなに慌てなくてもいいわ。今日もバイト?」

「ええ、まあ……」

「さすがね。平日の朝晩もやってるんでしょう?」 

「ちょろっとですけど……」


 実際ちょろっと、二時間だけ。それ以上やると授業中に爆睡する事になるからなあ。

 っていうか、この話の流れまずくない? こっち方面に話が進んでいくと、どうしても()()()が……


「ねえ、勇気くんはどうしてそんなにバイトを頑張ってるの?」

「えっあっ、その、それは……」

 

 ()()()()()

 ゼッタイ言うな、言うなよ僕……!


「ごめんなさい、応えづらい事だったかしら……」

「い、いえッ! 大学進学の為ですッ!」


 あっ、悲しそうな先輩の顔見てたらつい……


「どこの大学?」

「せ、赤海大学(せきみだいがく)です……」

「奇遇ね、私も赤海大学に進学するの」


 ……曲がれ、曲がれ! どうか会話の方向ねじ曲がれ! 僕には響子先輩との会話を誤魔化せない!


「……ちょっと個人的な事、聞いていいかしら?」


 こ、個人的な事!? どの方向!? 恋愛方向!?


「ぜ、ぜんぜんなんでもお話しますよ!」

「何でもは聞かないけど……ご両親にお金出して貰ったり、奨学金制度を利用したりしないの?」


 よし、違った!


「親に負担掛けさせたくないんです。奨学金は、今働いて何とかなるなら使わなくてもいいかなって」

「立派ね。良い志と考え方だと思うわ」


 ……ごめんなさい響子先輩、全部嘘です。

 ほんとは笑われたくないんです。好きな女の人追っかける為に大学に行くとか、恥ずかしくて言えないだけなんです……


「でも勉強の方もしっかりしないとダメよ。もし勉強とアルバイトの両立が出来ないなら、遠慮(えんりょ)なく他人に頼る事。私を頼ってくれても構わないから」

「は、はい! ありがとうございます!」


 ふう、これでしのげた。あとは会話の流れに気を付けるだけ……


「もしお金に困ってるんだったら…………」

「……先輩?」

「いえ、なんでもないわ。ごめんなさい、せっかくの休憩を邪魔して」


 ん? 明らかな話題転換だ。けどそれを追求しないのが男ってもんだよな。

 ……割の良いバイトなら気になるけど。


「じゃあまた明日、勇気くん」

「はい、また明日!」


 よ、よし、なんとか誤魔化しきれた……

 僕は去って行く先輩を見つめながら力なくテーブルに項垂れ、先輩が見えなくなった辺りでまぶたを閉じた。


「あー、疲れた……どんなバイトよりも疲れた……」

 

 ……恋ってのは疲れるな。

 心臓の鼓動がバイトで鳴った事が無いほど大きくなって、呼吸だって弁舌だって回らなくなる。

 飲食店やら占いやら色々経験してきたはずなのに、恋にだけは通用しない。

 それに加えて、バイトに恋に勉強に……時間がいくらあっても足りる気がしない。

 せめて金さえなんとかなれば、恋や勉強に集中できるのに……


「やっぱりほしいな、高収入で安定した仕事……」


 僕はそんな言葉をつぶやきながら、何となく目を開けて空を見上げた。空を飛ぶくらい叶わない夢だって思ってたかもしれない。

 だけどその時、雲の向こうがキラッと何か光ったような気がして……

 

 え、光った? 


 僕は光った場所をもう一度眺めてみるが、二度は光らなかった。


 一体なんだったんだ? 流れ星?

 ……流れ星だったらいいな。僕のつぶやいた願い、どうか叶えてくれよ。


_______________________________________________


「よかったよ、また来てくれ」

「ありがとうございます、また働かせてください!」

 喫茶店のバイト、二時間で二千五百円。


「勇ちゃん元気よかったよ! はいバイト代!」

「ありがとうございます! 次も頑張りますッ!」

 魚屋のバイト、一時間で千円とカレイ一匹……カレイってどう捌けばいいんだ?


 何はともあれ、もう午後七時。僕は曇り空のせいで月の光が射さず、人気もない暗い住宅街を歩いていた。

 この後は一度家に帰って晩ご飯を作って食べ、九時になったらコンビニバイト二時間が待っている。

 ちなみに両親は海外出張中で家は僕一人。つまり僕一人でカレイとキャベツとレタスを処理しなくちゃいけないわけだ。少なくともカレイは今日食べないとやばいよね……


 ……そんな事を考えていた時、突然スマホが鳴り出した。それも災害の時とかに使われるような、けたたましい警告音で。

 僕は慌ててスマホを取り出し、画面を確認する。するとそこには……


『怪獣出現! 近隣住民は避難してください!』

 

 そういうテロップが真っ暗なスマホの画面にデカデカと映し出されていた。


「怪獣、出現? なんだこれ……」

 

 怪獣って言えば、子供向けの特撮番組とかで出てくるやつだ。

 ビルと並ぶくらいでっかくて、火を吐いたり電気を操ったりして街を襲う。

 それが、出現?


 ……どう考えてもイタズラの類だ。

 まさかハッキング? なんか変なアプリ入れてたっけ? 全く心辺りが無い。


 ていうかこれやかましいし、早く消さないと近所迷惑になるな。

 そう思って画面を触ったり電源ボタンを長押ししたりしてみるが、何故か何も反応がない。

 ……ま、まさか完全にスマホ乗っ取られた!?


「ちょ、ちょっとそれはヤバいって! せめて電源切れてくれ、ご近所迷惑だって!?」

「やーっと見つけたぁっ!」


 ……え、何? 女の子の声? あんまり聞き覚えはない声だ。

 ていうか見つけたって、この音の出所の話か!? やっぱこれうるさいよね!?


「ご、ごめん! なんかスマホが乗っ取られたみたいで変な音出してて!」

「あなたは小鳥遊勇気(たかなしゆうき)さんですねっ!」

「あ、うん、そうだけどごめん、すぐには元に戻らないかも!」


 ……ん、待てよ? 僕の名前を知ってる?

 僕はその子の顔を確かめる為、声のする方へと振り向いた。

 

 そこにいたのは、銀髪の少女だった。

 服は真っ白なワンピース。非現実的なその銀髪は長く伸ばされており、瞳の色は綺麗な金色。見た目の歳は十二か十三くらい。ああ、間違いない。あの子は……


「誰?」


 知らない子だ。

 

「私は俗に言う宇宙人のエル…………エルで結構! 地球感覚だと長い名前なので!」


 エル、と名乗った少女は屈託の無い笑顔で、奇妙な事を次々口にした。

 宇宙人? 地球感覚? なんだこの子……?


「ところで勇気さん、今バイト帰りですよね! バイト代は現ナマでもらってます!?」

「そうだけど……」


 口座とか持ってないからいつも現金で貰ってるけど、現ナマってイヤな言い方するな……


「よかった! なら早速スマホを見てください!」

「いや、それが変な画面が出て……え?」


 僕はエルって子に言われて、チラッとスマホに目を落とした。すると先ほどと画面が変わり、警告音も出なくなっている。

 画面全体に映されているのはどこかの森の実写映像。それもカメラがすごい速度で動き続けている。

 ……ドローン映像? リアルタイムの映像っぽいけど……


「な、なんだこれ……?」

「その映像、ちょっと見ててください。とんでもない物が映りますから」


 近くによってきたエルが妙な事を言うとカメラは正面の木を飛び越えて上空へと翔け上がり、森全体を映した。遠くの方には日本っぽい街が……ん? あの街見覚えがあるような?


「……まさか、赤海(せきみ)市!? じゃああの森は、赤海(せきみ)山!?」

「そうですそうです、戦場はここ赤海市……あ、出ますよ!」

「出るって何が……ってうわぁ!?」


 その時突然、地面がドン、と揺れた。映像の森も僕とエルの足元も大きく揺れて、それから定期的にドン、ドンと揺れ続ける。

 そしてスマホの画面には、()()()()が映されていく。


 それは巨大な黒だ。曇り空でよく分からないけど、山ほどに巨大な黒が山間にあった。


 始めはカメラの不調だと思った。

 あの山の高度はそれなりに高いからだ。ノイズとかラグとか、そういった類だと。


 けれどすぐに気づいた。その何かは()()()()上下している。そしてその周期が、地面との揺れと被っている。 

 

「……ちょっ、これ!?」

「ええ、そうですそうです。お察しの通り、この映像に映るモノは()()します」


 ……何の偶然か。エルのその言葉と同時に曇り空が晴れていき、月の光が射していく。

 

 照らされたのは真っ赤な瞳。爬虫類にも似た巨大な瞳。

 それに気づけば二つの深い穴のように見えていた鼻元が、ひび割れのように見えていた口元が分かり、更に顔全体が、馬鹿でかい胴体が、岩二本ずつある太い手足が、岩などではない事を知ってしまった。


「あれは宇宙怪獣、『プロメテウス』です!」


 ……それは、その黒は、宇宙(そら)のように深い青紫色の皮膚を持つ、山よりも巨大な怪獣だったんだ。

 あー……テステス、マイクテス。聞こえてますか? ……うんうん、オッケー!


 私はエル。謎のコズミック美少女です!


 皆さん、第一話はご覧になりましたか?


 これ見てるって事は多分、恐らく見ましたよね? 流し見してないですよね!? だったらご視聴ありがとうございます!

 第一話への高評価やコメント、どしどし募集中でーす! あっ、初めての投稿なのでテロップとか翻訳に誤字脱字があったらどうかご容赦アーンドご指摘ください!


 さて、ここからは次回予告となります! わたしと勇気さんの戦い、その断片をちょろっとだけ流しちゃいます!

 初めて出現した怪獣への恐怖で、赤海(せきみ)街の人々は(おのの)き、逃げまどいます。勇気さんも逃げ出そうとするのですが、完璧美少女エルさんが勇気さんの手を取って告げるのです!

「わたしには、アレに勝つ手段があります! 大切な人を守る為、どうか力を貸してください!」

 その一言で勇気さんは勇気を振り絞り、わたしと一緒に廃工場へと駆けだします!

 そしてそこにあったのは……


 次回、「その名はペイ・トゥ・ウィン!」

 また見てくださいねー!

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