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2話:shutout witch

「ははは。流石のウィッチでもこのドチクショウには勝てまい!」


「う……。でも、諦めない! 私達がウィッチで有る限り!」


 里奈は超絶急展開に置いて行かれていた。よく分からない変態外人男が舐めた態度を取ってきて、変な怪物と戦う事

になったかと思えば、今度は頭のおかしいコスプレ少女が飛んできて、勝手に熱くなって戦い始めた。やっぱり全然分からない。


 誰かに今の状況を聞こうにも、より戦闘は激化していき、それどころではない。強化された怪物はすさまじい強さで、常識外れな身体能力をしている少女でさえ、歯が立たなくなっている。


 里奈は、ピンク髪の少女が一人で前線を張って戦っている事に気づいた。


「おい、青いお前。なんで戦わないんだよ」


 里奈が驚愕の連続の中、辛うじて発せられた質問に、水色髪の少女は答える。


「私はLove witch(ラブ・ウィッチ).祈ることで愛を与える能力だから」


「な、なんだそりゃ。能力ってのがまずわかんねえし、それ全然使えねえじゃんか」


「勇美には必要な能力なの。今忙しいから、詳しくは終わってから」


 そう言って、水色髪の少女は祈りに集中した。


 里奈は、だんだん何も分からないまま突っ立っているだけの状況に腹が立ち始めた。誰かに詳しく説明させようと、一番暇そうに見えた水色髪の少女の方へ近づく。


 そのときだった。


「みんなー。大丈夫かぁ?」


 更に誰か来た。もっと情報が増えようとしている。里奈はもう泣きそうだった。


 走ってくるんのは二人。いや、一人と一匹だ。エメラルドグリーンを基調とした、ヒラヒラの多いワンんピースのような服を着た高校生くらいの美少女と、空を飛ぶ猫と犬の中間みたいな見た目のぬいぐるみ。多分ピンク髪の少女の仲間なのだろう。


日和(ひより)!」


「ふたりとも、大丈夫?」


 地面に膝をつくピンク髪の少女に、日和と呼ばれていた少女が近づく。里奈はその時、男の方を一瞥して、男が今日一番怯えていることに気づいた。


「な、なんでお前が…………」


「勇美がこんなにボロボロに。許さない」 


 日和が男に立ち向かおうとするのを、勇美が止める。


「日和は能力を使わないで。私が何とかするから」


 だがそう言う勇美は、もうあまり足に力が入っていないようだった。


 そんなやりとりを見ていた里奈だが、遂に怒りの許容範囲のボーダーがぶち抜けた。


「おいお前らぁ!」


 里奈の怒鳴り声に、勇美たちだけでなく男の方まで反応する。


「黙ってみてりゃ訳分かんねえことばっかしやがって。ちょっとは説明くらいしろ! 大体、この喧嘩はオレが買ったんだ、邪魔すんな」


  里奈は、男と勇美達の双方を睨みつける。


「な、なんなんだお前は、さっきから」


 男は困り果てた様子で言う。


「ただの人間のくせに歯向かってくるし、ウィッチが来ても尚、何もできないくせにガキみたいに喚く。お前、今の状況をわかっているのか? ウィッチの方は知らないが、こっちは忙しいんだよ。ここであいつ等に負けたら首になんだよこっちは。だからさぁ、わかってくれよ。もうお前に構っている余裕はないし、お前が入ってくる余地もないんだ。後で殺してやるから邪魔だけはするな」


「はぁ?」


 里奈は男の前まで歩み寄り、見上げて男の顔にメンチを切った。


「だったら先に殺せ。殺せるもんならな」


「なんなんだお前は!」


 男は怪物を里奈の方に向かせる。だが里奈は怪物を前にしても動じなかった。しっかりと敵を見据え、次は勝つと意気込む。


「待って! 貴方、危険だからやめて!」


 日和が叫んだ。


「邪魔すんな」


「生身の人間が太刀打ちできるようなものじゃないの! もし引くに引けなくなっているのなら、誰も何も言わないから今すぐやめて!」


「はぁ? なんだよそれ。いいか。ここじゃ舐められたら負け、喧嘩売られて逃げたら死ぬんだよ。ここじゃもう生きていけなくなるんだ。ここの連中の誰が見てるとも限らない。だから逃げるのはありえねえ」


「でも」


「それに、オレはこいつがムカつくんだ。だからぶっ殺してわからせてやる」


「だ、だからそれは無理なんだって! なんでわからないの?」


 日和に言われているが、里奈自身これが無謀であると理解していた。今運良く立っているが、もし次あの攻撃を受ければ確実に死ぬ。それを嫌でも理解しているのに、今まで生き抜いて形成された、毎日ご飯を食べる、と同じくらいに生活に根付いた生き抜くための掟ようなものが邪魔をしていた。


 里奈はどうするかを自分でも自覚している足りない頭で考える。考える時間はそんなにない。もう一回何か騒ぐ等して意識をよそにやって隙を作り、そこに不意打ちをかましてから次を考えようか。そう思って、里奈はもうワンアクション起こそうとした。


「あ、あれ? そういえば……。キミ、ウィッチになれるかもしれないぞ?」


 だが里奈の行動を、喋るぬいぐるみが訳の分からないことを言って遮った。


「は? なんでぬいぐるみが喋ってんだ? なんでそれをお前らは何とも思わない? てか今お前なんて言った?」


 里奈の頭にクエスチョンマークが無限に沸く。


「詳しくは後で話そう」


 ぬいぐるみは優実たちの方に向き直る。


「みんな気づいたかい? この結界内に彼女が立っていることに」


「…………あっ」


 優実、愛、日和の三人が「そういえば」と同じ反応をした。


「確かに、ウィッチとドチクショウ以外はこの結界に入られないはず。一般の人を守るための結界なんだから」


「そうだ、優実。だからウィッチの素質がある者でも無いかぎり本来彼女がこの中にいることはありえないんだ」


 もう一度ぬいぐるみは里奈の方を向く。ぬいぐるみの表情は何かを企んでいるようで、里奈は何を言われるのかと身構えた。


「キミ、ウィッチにならないか?」


 いきなり知らない単語を言われ、里奈は全くピンと来てない。


「ウィッチ。つまりこの優実や愛、日和のようにならないか?」


「えっ」


 やっと意味が分かって、里奈は優実たちを見る。



「あ、あれになれってのか? あんな変な格好して戦えと? 冗談じゃない」


「へ、変な格好って酷い!」


 でも変じゃねえか、と里奈は思ったが、これ以上は長くなるかもと急に面倒くさくなってやめた。


「格好はウィッチになってみないと分からない。だがウィッチになれば力を得て戦える」


「オレはそんなの無くても戦う」


「駄目だ。ウィッチの力が無ければ戦わせられない」


「でもそんなのいらねえよ」


「おい! いつまでくっちゃべってるんだ!」


 男が声を荒げる。里奈も怒鳴られて「あっ」と男の存在を思い出した。


「ほら。お前から殺してやるからさっさと掛かって来い!」


「どうするんだ! ウィッチになって戦うか、それとも何もせず逃げるのか!」


 両方に迫られ、里奈は焦った。男の方を見れば、優実たちが自分を止めようと構えているので、このまま突っ込むのは無理そうだ。でも逃げたくもない。


「わかったよ」里奈が投げやりに言う。


「そのウィッチってのになってやる。だから早くやり方を教えろ!」


「よしきた!」


 里奈の答えを聞くとすぐに、ぬいぐるみは木製の三十センチくらいある棒を投げ渡した。


「なんだこれは」


「魔法のステッキみたいなものだ。そいつを握って集中するんだ!」


 里奈が言われた通り集中する。するとステッキの色が真っ白に変わる。


「よし。やっぱり素質があった! あとは『スイヘルリンベン』と唱えるんだ!」


「や、やってやる。スイヘルリンベン!」


 突如ステッキが輝き出す。そしてその輝きは強さを増し、里奈を包み込んだ。

 光は温かく、それが体全体を包み、まとっているように里奈は感じた。

 光は突然消え、気が付けば、里奈見た目が変わっていた。まず里奈の目に入ったのは、服装。それまで着ていた服じゃなくなっている。黒いズボンに軍隊みたいにゴツいブーツ。上は白いシャツに白いパーカー。ステッキを握っていたはずの右手には、刃渡十五から二十センチの白いサバイバルナイフが握られている。


「な、なんだこれ……」


「キミはウィッチになれたんだ。ボクのウィッチだから、キミは日和のパートナーさ」


「はぁ? わけがわからん。けど」


 里奈はナイフを握り込むと、怪物の方に体を向ける。


「これでお前らも文句はないんだろ? だったら手、出すなよ」


 里奈は男に目線を移す。


「で? 先に殺してくれるんだったよな」


「く、くそが。ドチクショウ、やっちまえ!」


 男が怪物に命令したので、里奈は怪物の方に集中する。


 ここで、里奈は不思議なことに気がついた。


「殺せ! ドチクショウ!」


 里奈は怪物と戦う直前、どういう能力を使って戦えばいいのか聞けば良かったと少し後悔した。ぶっつけ本番で戦わないといけない。


「っ!」


 怪物の攻撃がくる。


 だがどういうわけか、里奈が握っているナイフの使い方を、里奈は体で理解しているようで、思考よりも先に体が動き、ナイフを怪物の心臓部に突きつけた。


 怪物は一瞬で分解され、粒子となって消えた。


「な、何をした」


 実際に能力を経験した瞬間、里奈は体が分かっていた部分と思考がつながり、自分の能力についてなんとなくではあるが言語化できたと思った。


「なんなんだ」


 普段あまり考えることはなかった里奈にとって、思考がつながり言葉にできなかったものを言語化するという経験は初めてだった。自分で考え始め、自分で言語化できたわけではなく、強引に理解させられたような感覚だったが。


「なんなんだお前は!」


 悲鳴のように叫ぶ男に、里奈は頭に浮かんでいる一つの言葉を口にする。それは勉強のできない里奈にとっては知らない言葉。だが初めにそれが浮かんで、意味もしっかり理解できている言葉だった。


「オレは、Shutout(シャラウト)witch(ウィッチ)


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