〜旅立ちの世界〜
・◎◎□□年◇月〇日(木):翌日
私はあの時、桜の木の下で歌っていた子が誰なのか知りたくて、朝早く学校へ行って隈なく探し回った。
特徴をあまり覚えていなかったせいか、男子生徒しか分からない。そして、ある1人の少年に行きついた。
その子の名前は“星羅 奏”というらしい。私の一個下だから、後輩に当たる。
〈まるで女の子みたいな名前。〉と思うほどだった。
じゃなくて、その“奏くん”を呼び止めた。
「ねぇ、君っ!ちょっと話があるんだけど、来てくれない?お願い!一瞬で終わるから…。」
私が、そっと手を少年の肩の上に置いて言葉を放ったときの少年の顔はまるで、宝箱を見つけたような顔だった。
〈あれでもこれって、側から見ると後輩を虐めてるように見える!!ヤバいどうしよう…。〉
色々と考え込んでいたら…
「いいですよ。別に。先生が教室に来るまで時間があるので。」
ー桜の木の下ー
「あの、僕に何か御用でしょうか。」
〈この子、イジメられるとか思わないのかな?とても冷静な態度…〉
とってもビックリした…。
「えっとあの時、ここで歌っていた子だよね?もしかして間違ってた!?」
「いえ。間違っていないです。先輩。まさかっ!?僕を叱りに来たんですよね。ごめんない…。」
震えている姿。今にも泣き出しそうな顔。
〈あ〜ぁ。なんか行き違いになってる気がぁ…。〉
「あぁ。やっぱり、あの子だったんだ!いやね、とても綺麗な歌声だったからつい叫んじゃったから謝りたくてね。ごめんね。怖がらせたり驚かせて…。」
「いえ。僕もあの時逃げてしまってごめんなさい。」
その日を境に、
奏くんと友達になった!!
やったー!!
ー数週間後ー
「奏くん!おっはよ〜!」
「おはようございます。夜舞先輩…。」
「ん?なんか、よそよそしい。なんで?」
奏くんの顔は、なんて言って良いのか。
いつもより雰囲気が、暗い…。それに、まるで〈僕は、モブです〉って言っても良いような顔をしていたので…。
「ねぇ?なんで、無視するの?知りたいなぁ〜?」
小声で…
「だって、今、ここが何処か分かってますか?学校ですよ!そりゃあ、よそよそしくもなりますよ!学校では、単に先輩と後輩という関係でお願いします。では。」
奏くんは、綺麗に一礼してから、自分の教室へと向かっていった。
「お前、妙に楽しそうな顔してんじゃねぇかっ。良いな。で。あの男子生徒、何処の誰だよ。」
後ろから私の耳に向かって言ったのは、鳳凰だった。
「わぁっ!鳳〜凰〜っ!!後ろから現れるなって、あれ程言ってるよね!」
「わりぃ〜って!」
絶対悪いとは思ってなさそうだけど許した。
「はぁ。あの子は、私たちより一つ下の学年の。“星羅奏くん”。あの日、私と間違えて聴こえてきた歌声の子。」
〈こいつはいつまで、私の頭の上に手を置くんだ?早く退かせよ。はぁ…て言うか、こいつ絶対退かす気がねぇ。〉
軽く溜め息を吐くとこっちを見て、なんか悪巧みをしてそうな顔をしたから、全身がゾワッとした。
「こいつ、こんな日記付けてたのかよっ。日記を付けるんなら、ちゃんと言い残して行けよ…。書かなくていい内容しか書いてねぇじゃん。もう少しだけ、お前とこいつらと一緒に遊び倒してみたかったな。」
「なぁ、〇〇…。」
パタンッ。風で閉じたのか、分からないが、
日記は、あるページに栞が挟まったまま閉じた。
・**☆☆年♡♡月〇〇日(火): 春
月日が経つの、凄く早い。もう大学を卒業しないといけないなんて…。
あの時は、本当に色んなことがあったなぁ〜。
「いやぁ〜、早いねぇ。時が経つのも。あと10分後には卒業式が始まる…。先生ともお別れだよー。」
私が、窓の外を見ながら、気楽って思うほどの溜め息を吐いた途端、
バシッ 「いってぇ〜。誰!頭叩いたの!」
真葉や炎や梨穂が、何かとても遠い目をしながら、こっちを見ていた。
「“誰!”じゃねぇよ。お前だけだよ、そんなにも、呑気で居られるのは…。はぁ〜っ。」
鳳凰が、呆れた溜め息を吐いて少しイラッときた。
呑気のどこが悪いのか分からん。別にいいじゃんか。
ー卒業式後ー
あの長々しい校長先生の話、もう聞けない。
楽しい日々の学校生活も、今日で終わり…。
「わぁ〜んっ。凛音ちゃんと離れたくないよぉ〜。
一緒の仕事場が良かった〜。行きたかった〜。」
頭を優しく撫でながら、
「大丈夫だよ!また、会えるでしょっ!それに会えなかったら、連絡して日程合わせれば良いでしょ。」
「ほーらっ!鼻水啜らない!!汚いでしょっ!」
『ほら!みんなで最後に掛け声やってから、大学を出るぞっ!』
《また!みんなでっ!ここに・・・!》