「字が汚いと損だね」
わたしは呪いにかかっている。
そのせいで手がふるえる。ボールペンをもつ手がふるえる。うまく線がつなげない。
かいていてわかる。ミミズよりも、コケの生えた電柱や、汚れたガードレールを歩いた、もしくはコケを食べた、ナメクジだかカタツムリだか分からないあの痕跡。ふらふらと上下してどこがはじまりで、おわりなのかわからない。
ふう、とボールペンをもつ手の力をぬいて、あらためて紙を見ると、やはりぐねぐねと這っていた。
よめないことはない。ただ、上下に這っているのだ。
気合いを入れなおして紙にむかっても、しぜんと次にかくものは小さくなってしまう。ますます上下が目立つようになる。けれど、ここから大きくしてしまっては、よけいに……。
そうしているうちに大きさすら不安定なものができてしまう。
下書きだ。これは下書きだ。
そう決めて次は少し大きくかいてみる。大きければスキマを這うこともないだろうと考えていた。
列の『かたむき』がなければ多少くずれていてもキレイに見えるものだと昔きいたことがあるのに、かけばかくほど、かきながらズレていくのがわかる。小さくなっていく。気をあらためて大きくかいても、いびつさがますばかり。
ボールペンをおいてみても、みにくい。よみにくい。ガードレールの上を這っている。
集団行動のできないわたしは、文字ですら、列をみだしてしまうのか。
下書きだ。これは下書きだ。
あたらしい紙を取り出して、一文字目をかく。
手がふるえる。文字がおちていく。