ラックリード
血まみれで帰ってきたザイカンとジャイルを見て翔陽は分かりやすく血の気が引く。こんなにたくさんの血を見たのは初めての事だった。血を見ているだけで体の力が抜けていくような感覚がある。
「ザイカンさん!ジャイルさん!大丈夫ですか!?」
翔陽が2人で近づくと、生臭い鉄の匂いが鼻をつつくがそんなことは気にならなかった。
それよりも翔陽にとってせっかく出来た家族をこんなに早く失う事の方が怖かった。
「子分のくせに俺の事を心配しようなんて100年速ぇよ」
「心配しなくてもこれは返り血じゃから大丈夫じゃよ」
「え・・・あ、そうなんですか・・・そうか・・・なら良かったです」
返り血だという事が分かると焦っていた翔陽は少し落ち着きを戻しかける。
「・・・・・・返り血!? え? 返り血って返り血? 返り血なんですか!?」
「だからそう言ってるだろ」
翔陽が返り血に驚いているが周りのみんなは何も驚いていない、なんならいつも通りのような表情でいる。
モンモンとカンカンも平然とした顔でいるのでそれにも翔陽は驚いた。
もしかしたらこの街ではこれが当たり前の事なのかもしれない。
「とりあえず生臭ぇから洗ってこい」
「分っかりました!エラの姉御!」
ザイカンとジャイルが裏の井戸で血を洗い流し、家の中の椅子へ座る。
「それでなんかあったのか?」
エラがそう聞くとジャイルが嬉々とした表情で答え始める。
「それがですね!なんか最近出来たえ〜と赤何とか組が調子こいて子連れの女に手出てたんで腹たって血祭りにあげてきました!!」
「そうか!良くやった!」
ヨシヨシとエラがジャイルの頭を撫でる。
すごく軽く話しているがそんな簡単に話していい内容なのか?人を殺しているのも衝撃だが家族を殺されて黙っているのだろうか。報復に来るんじゃないだろうか。翔陽はそっちの方が心配になる。
「エラ嬢エラ嬢」
「あ?なんだ?」
「どうするんじゃ? あっちも黙ってる訳にはいかんじゃろ?」
「そりゃあ・・・」
やっぱり謝りに行くとか、指詰めるとかそういう感じなのだろうか。もしかしたら誰か殺されるかもしれない。本当にどうするんだろうと、翔陽は一人焦りまくりで自分の心音が耳まで聞こえてきた。
「やるだろ」
「え?」
翔陽は心音が大きすぎてよく聞こえなかったかもしれない。
もしかしたら聞き間違いかもしれない、もう一度聞いてみようともう一度聞いてみる。
「エラさんもう一度言ってもらっても大丈夫ですか?」
「だーかーらー」
「殺るだろ」
「・・・」
翔陽は夢を見ているのかもしれない、はっきりと「殺る」と聞こえた。
「あっちから手出してきたんだ!先手必勝だ!今から乗り込みに行くぞ!!」
「了解しましたエラの姉御!!やっぱりそうですよね!!殺りに行きましょう!」「いつも通りじゃな」『久しぶりに「私」「わたし」達もやるの』
「え"え"え"え"え"え"え"え"え"!!??」
みんな殺る気満々で扉から外へ出ようとする。外はもう夜の空が顔を覗かせているが何故そんな乗り気なんだろう、なんで簡単に殺しに行けるのだろう。
「どうしたショーヨー?」
「本当に行くんですか!?」
「当たり前だろ」
「人を殺しに行くんですよね!」
「おうよ」
「なんでそんなノリノリなんですか!?」
「なんでって別に殺らなくて良いなら殺らねぇけどよ」
「ここは世界一危険な都市ラックリードだぜ?殺られる前に殺るしかねぇんだ」
世界一危険な都市・・・ラックリード
それが今が翔陽がいる場所。
「今回はショーヨーはなんもしなくて良いけどよ」
「・・・けど?」
「今からこれに慣れねえとこの街じゃ生きていけねぇぞ」
そういうエラは先程のノリノリな雰囲気とは違い、真剣な眼差しを翔陽へ向けている。
この人たちは今まで何人の人を殺してきたのだろう。これから何人殺すのだろう。
この人たちがこれから人殺しをしている中翔陽だけ何もせずに守られているだけ、そんな翔陽にはたして生きる価値なんてあるのだろうか?そのうちもしこの人たちが翔陽を“要らない物”として捨てたらどうすればいい・・・色々な考えが翔陽の頭の中を過ぎる。
なら僕も人を殺し自分の存在意義を見つけよう・・・
「・・・僕もやります」
「お? 良いんだぞ無理しなくて」
「ここに住むならそのうちぶち当たる問題なので今から向き合うことにします」
「そりゃあ・・・カッコイイな!ショーヨー!」
今まで地獄にいたんだ、誰かに自分を傷つけられて生きていくより誰かを傷つけ殺し屍の上を歩いていく方がマシだ。
そして翔陽はあの地獄から拾ってくれたこの人たちと同じ罪を背負おうと覚悟を決める。
これから頑張っていきますので、面白いと思ったらブックマーク、評価をよろしくお願いしますm(*_ _)m