散歩
どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。
翔陽が目を開けると昨日見た家の中にいる。椅子の上で寝たからだろうか、身体中石みたいバキバキだ。
膝の上には、モンモンとカンカンが翔陽に抱きつく形で寝ている。
なんだろう、翔陽は昨日からものすごく頭を撫でたい衝動に駆られる。
なんかすごい懐かしいような、寂しいような手の感覚が蘇る。欲の赴くままに2人の頭を撫でているとパチッと目を開ける。
『ふぁ〜おはようなの』
「あ、おはようございます」
2人を起こしてしまった。今日はどっちがどっちなんだろうか? と思い本当に入れ替わっているのだろうかと気になる。
「すみません、今日はどっちがどっちか聞いてもいいですか?」
そう聞くと2人がキョトンとした顔で互いを見つめ合い『くすくす』と笑いながら答えてくれる。
「私がモンモンなの」「わたしがカンカンなの」
「教えてくれてありがとうございます」
今日は青髪がモンモン、ピンク髪がカンカン本当に入れ替わっているらしいと翔陽はへぇ〜不思議そうな顔をして見る。
『やっぱりショー兄は変わってるの』
「そうですかね・・・」
翔陽が返事をすると2人ともムスッとした顔になる。
『その敬語やめて欲しいの』
「え? 嫌でも・・・」
『やめて欲しいの』
「なんか癖でこうなっちゃうんです」
親に怒られ続け、敬語を使う機会が多かったからか誰にでも敬語を使ってしまう癖がついてしまった。親はもちろん友達にも、妹でさえにも。
『じゃあせめてさん付けはやめて欲しいの』
「・・・分かりました改めてカンカン、モンモン、おはようございます」
『なの』
そしてモンモンとカンカンを撫でながら翔陽はこの既視感を記憶の中を探り見つけ出す。
小さい頃の妹に似ている。翔陽とは違い優秀でなんでも出来ていつの間にか嫌われてしまった、情けない姿を見せて幻滅された妹の小さい頃に似てたから無意識に重ねてしまったのかと翔陽は、すこし寂しいような悲しいような恥ずかしいような複数の感情が入り交じった顔をする。
「お〜ショーヨー起きてたか!」
「エラさん! おはようございます」
エラは先に起きていたらしく、さっぱりしたような顔で椅子に座る。服の隙間からまるで大樹を切り出したかのような見事な腹筋がチラッと見えてしまい翔陽は顔を少し赤らめ目線を外す。
「とりあえず顔洗ってこい、モンモンカンカン! 案内してやれ」
『分かったのショー兄こっち・・・なんで顔赤いの?』
「え!? いや・・・なんでもないです」
『ふ〜ん』
モンモンとカンカンに連れられ、家の裏にある井戸に着くが翔陽は実物の井戸を初めて見たことから少しテンションが上がる。
顔を洗い家の中へ戻ると既にザイカンとジャイルも起きていて、朝食の準備をしている。
「ショーヨーくんその棚の皿持ってきてくれるかの」
「あ、はい」
翔陽も朝食の準備を手伝い、全員が椅子につく。朝食はパンとなんかよく分からない緑色のスープだったが味はトマトスープだった。頭の中がおかしくなりそうだ。
「じゃあショーヨーこれからの話だが」
「はい」
「お前にも仕事してもらう!」
「仕事ですか?」
翔陽はまぁそうだよな、このまま1人だけぐうたら生活という訳にはいかないよな。けどどんな仕事をするんだろう。少し不安になるが頑張ろう。
「どんな仕事をすればいいんですか?」
「あ〜そう焦るな、とりあえず街ん中歩いてこい散歩だ散歩」
「は、はぁ」
「モンモンカンカン案内してやれ」
『分かったの』
「よろしくお願いしますね、カンカンモンモン」
『なの』
翔陽はモンモンカンカンに連れられるがまま扉をくぐる。
周りを見回すと昨日とは違い晴れた天気の西洋の街並みがそこにはあった。
もう一つ違うのは、悪そうな人が全然いない事だ。多少はガラの悪そうな人はいるが子連れの親子やカップル、楽しそうな小さい子ども達の方が多くいる。
「意外と悪そうな人が少ないんですね・・・」
『それはそうなの、みんな出歩くのはだいたい夜なの』
「あ、そうなんですね絡まれたらどうしようかと思ってました」
『それは無いの』
「え? なんでですか?」
『ねぇねが怖いの』
話によればエラが怖すぎて誰も手を出してこないらしい。そしてモンモンとカンカン言うにはこの街にはルールがあり、一般人に手を出すのはタブーらしいが誰も気がつかない旅人なんかを拉致することは良くあることだそうだ。
もしこのルールを破るとこの街の1番大きな“組織“に狙われて潰されてしまうらしい。その組織の名前は知らないとの事だったが確実にいるとのこと。
『ショー兄も狙われてたの』
「そうなんですか!?」
『ねぇねが見つけてなかったら多分・・・なんでもないの』
「えぇ〜・・・」
本当にこの人たちに拾われて翔陽は幸運だったんだなぁと思うのと同時になんで僕なんかを拾ってくれなんだろう・・・そのまま見捨てておくことも出来ただろうに、なんで家族にしてくれたんだろうと疑問も浮かぶ。
そうこうしているうちに日が落ちてきた。夕日が2つ見える、青とピンクの夕日だ。元の世界の物よりもとても大きく雄大でまるで夢のようだ。
しかしこれが夢ならばこのまま覚めなくてもいい。もし異世界ならば帰れなくていい。あんな地獄にいるよりこっちの世界で永遠にこの綺麗な夢を見ていたいと翔陽は切に思う。
こんな事を考えながら歩いていると、なんかちょっとずつ翔陽の鼻が痛くなってくる。臭いとかではなく痛いのだ。鼻に針をツンツンされているような、ワサビを少しずつ食べているようなそんな感じの痛みが鼻にある。
『ショー兄、こっから先は翠のシマだから引き返すの』
「え? あ、分かりました」
モンモンとカンカンが翔陽の手を引っ張り来た道を戻る。
灰色の島?なんか危ないところなのかな? だから僕の2つ目のスキル臆病者の嗅覚が発動して鼻が痛くなったのかな? まぁこの島のことは後でエラに聞いてみようと翔陽は考える。
翔陽達はそのまま“家”に帰る。
家の中にはエラしかおらず、ザイカンとジャイルは留守にしていた。
エラさんは椅子に座りながらパンを片手に
「おうおかえり〜どうだったよ」
「意外と普通でした、あとパンくず付いてますよ」
「おん? どこだ?」
と口の周りを舌でぺろぺろしている。
「ここですよ」
「おうありがとなショーヨー、お前を私の左腕にしてやろう」
「はい、ありがとうございます」
「あ! 今バカにしたな! あたしは左利きだぞ!」
エラはなんか本当は凄い残念な人なのかもしれないと翔陽は思い始める。
「そういえばエラさん」
「あん?」
「なんで僕を拾ってくれたんですか?」
「あ〜ん? そりゃあ・・・勘よ!」
「勘・・・?」
「勘! まぁその他にも理由はあるが正直ビビっときちゃったのがでかいかな〜綺麗な顔してるし」
「綺麗な顔・・・バッ」
「別に狙ってねぇから顔赤らめんな」
翔陽は綺麗な顔と言われ頬を染める。
それにしても勘か、しかも綺麗な顔してるからって・・・なんか拍子抜けしたが逆になんか安心した。翔陽は下手に期待されてるわけではないことがすごい楽な気持ちになる。
翔陽はあとなんか聞こうとしてた気がするが何を聞こうとしたのかを忘れたがまぁいいか、これからもこの人たちと一緒に過ごしていくんだと思うとまたちょっと心が暖かくなった。
「ガチャギギィィ」
という音と共に家の扉が開く。ザイカンかジャイルが帰ってきたのかな? と翔陽がそちらを見ると
血まみれのザイカンとジャイルが立っていた。
これから頑張っていきますので、面白いと思ったらブックマーク、評価をよろしくお願いしますm(*_ _)m