家族
何か暖かい、少年はそんな優しい暖かさの中今どこにいるんだろうと目をつぶりながら思う。どこかの家の中?それともあのまま死んで天国?
しかし暖かいところなら良いかとこのまま寝ようとする。
「━━━━━おい━━━おい起きろ」
という女性の声と同時に顔をぺちぺちと叩かれる。
少年はその呼び声に答え目を開ける。
「やっと起きたか、死んじまってるのかと思ったぜ」
少年の目の前にはさっきの赤髪の女性。
周りを見回すと赤髪の女性の他に老人、ヤンキーみたいな人、そして幼い女の子が2人いる。みんなが椅子に座りながら少年に注目している。
少年は、この後どうなるんだろう? やっぱり臓器売買とかサンドバッグにされるんだろうか・・・と身の毛もよだつような考えを浮かべる中、赤髪の女性が口を開いた。
「おい、もう一度聞くぞ? あそこで何してた?」
少年はこの質問には答えようがない。だって少年は何も知らないのだから。
「ほんとうに分からないです・・・」
「そうか、じゃあ帰るところはあんのか?」
「・・・」
帰るところ・・・普通の人なら家に帰りたいと答えるのだろうか? けれど少年はもうあんな地獄には帰りたくないと思う。
少年は自分を捨てた人達のところへ帰りたくないとそれならあのまま死なせてくれた方がマシだったと思ってしまう。
「ないです・・・」
「じゃあこれからどうすんだ? お前」
「分からない・・・もう何も分かんないです」
少年はそう答える。答えるのと同時に改めて少年は自分の置かれた状況に目から涙がじわりと溢れて来る。
目から溢れる涙はとても大粒で頬を伝いながら床の木目へこぼれ落ちる。
「あ〜泣くな泣くな、ほらせっかくの綺麗な顔が台無しだ」
赤髪の女性は少年の涙を自分の服の袖で拭き取ると、少年の両頬に手を当てて目を合わせる。
「ほんとに行くあてがないんだな?」
「ヒク は、はい ヒク」
少年がそう答えると赤髪の女性はにっこりと笑顔になり、周りに座っている人達に目配せをしている。
「ならお前あたしの組に入れ!」
「ズズ 組・・・ですか?」
「あぁ! 今日からあたし達がお前の家族だ!」
少年は精神的に弱っているせいもあるかもしれないが、それでもそう言ってくれる“この人が”“周りの人達が”輝いて見える。
「僕なんかが・・・いいんですか?」
「お前がいいんだ!」
そう言って赤髪の女性は手を少年に伸ばす。
少年は組とか何を言ってるのかよく分からなかったが、戸惑いの表情を見せながら、伸ばしてくれた手を見ながら、「こんな僕でも求めてくれるなら・・・」とその手を掴む。
まるで地獄から引き上げてくれる蜘蛛の糸のような手を少年には掴む以外の選択肢がなかった。
「・・・不束者ですがよろしくお願いします」
少年は女性の手を両手で掴む。
女性は「おう!」と一言少年の手を握り返す。
そして振り返り周りにいる人達向かって
「お前ら宴だ! 宴! 今日は飲むぞー!!」
と外にも聞こえそうな大きな声で言った。
「分かりました! エラの姉御!!」「はぁ〜昨日も飲んでたじゃろ?」
『ねぇねはアホなの、というか昨日全部飲んじゃってたの』
「いいから! ジャイル! 酒買ってこい!!」
「わっかりました! 今すぐ行ってきます!」
と周りの人達が動き出す。口ではいやいや言ってるが各々が忙しなく、騒がしく、やかましく、けたたましく動く。
こんなにうるさいのは久しぶりだ。どこか懐かしいような、少年はずっと焦がれていたような感覚に陥る。
「おい! え〜と・・・」
赤髪の女性が少年の名前を呼ぼうとしてくれている。両親ですらもう呼ばない少年の名前を・・・
「僕は翔陽って言います、月下翔陽です」
「そうか! ショーヨー!」
翔陽は名前を呼んでもらえた・・・イントネーションが違うが下の名前をこう呼ばれたのは何年振りだろう。そして名前を呼ばれたからには返事をしなきゃと少年は急いで口から今出せる精一杯の声で
「はい!」
と少年は返事をする。
「お? いい声出んじゃねえか! ショーヨーも手伝え!」
「はい! 何したらいいですか?」
こうして翔陽に新しい暖かい家族ができた。
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