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「お前の顔見てたらムカつくんだよ!」「なんで俺の子なのにこんなことも出来ない!」「なんだその顔は!!」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「我慢しなさい!これは躾なの!こんなテストで点を取れないあなたが悪いのよ!あなたのために言ってるの!!」
もう何度も聞いたこの言葉。
毎日行われる“躾”という名の暴力。
日に日に増えていく身体の傷。
謝っても謝っても許されることの無い時間、ただ必死に強者に媚びへつらう事しかできない時間。
その中少年はただ耐える。
いつからこんな事になってしまったのだろうか。
少年は耐える間昔の幸せだった頃の記憶を思い出す。
小さい頃は、勉強なんて出来て当たり前だった。もちろんテストでいい点を取った時には頭を撫でてくれたり、褒めたりしてくれた。少年はその頃の両親が大好きだったし子供ながら期待に応えたいと思っていた。
しかし年々両親からのハードルが高くなり、中学校からは成績のことで叱られることも増えていった。
決め手となったのは高校受験に失敗してしまった事だ。そして志望校よりワンランク下の高校へ僕は入学した。その頃からだろうか・・・躾と評して暴力を振るってくるようになったのは・・・
「立て!!いつまで寝てるつもりだ!早く部屋に戻って勉強してろ!」
「はい、分かりましたお父さん・・・」
そう言われ少年は部屋に戻り、いつも通り勉強机とイスしかない部屋で勉強を開始する。
いつになったらこの地獄が終わるのだろうか・・・もし今僕の手に“ナイフ”があればこの人を倒せるだろうか。もし今この手に“銃“があればもし今“力“があればこの地獄から抜け出せるだろうか・・・と少年は考える。そんなことありもしないのに妄想してしまう。
しかし、そんな妄想よりも今死ねば“楽“になれるのかな? この地獄から解放されるのかな? 明日も続くこの地獄を生きるくらいなら・・・と少年は思ってしまう。なまじやろうと思えば誰にでも出来てしまうから少年は考えてしまう。
いややめよう、そんな事は誰のためにもならないと頬を自分で叩き、少年は喝を入れる。
しかしそんな自分への喝とは裏腹に少年の瞼は徐々に下がってしまう。
少年はそのままゆっくりと眠ってしまった。
『この子は・・・危ないから要らない』
深夜の部屋に不思議な声が1つ零れる。まるで水面に雫を垂らしたように静かに響く。
呼吸する音すら聞こえない部屋に『ガチャ』という音がなり部屋のドアが開く。
「さっきから静かだがちゃんと勉強してるのか・・・?おいどこ行った!」
ドタドタと怒りながら少年を探し家中を駆け回る父の姿。だが家のどこにも少年の姿は無い。
その日、多数の家で行方不明者が続出するという事件が起こった。行方不明者の共通点は神山高校に通っている生徒だと判明している。