僕と僕と君と
ー1ー
チョコレートは甘くて美味しいが溶けてしまった。
「雨降り始めましたね」
来週は花火大会だった。こんな曇天で雨が降る中で地面はグシャグシャで花火大会は中止だろう
「そうですね」
この場にいるのは昔の僕と昔の君である。
恋心があったのかと聞かれれば分からないとしか答えられなかった。
もしも、神様や幽霊などがいるというのならば僕がそのどちらかと言えるのだろう
「あの……どこかで会いましたか?」
僕が話した。
「覚えてないですか?」
君が話した。
「覚えてないです」
僕が話した。僕は僕を殴りたかった。
ただ、いくら殴れど僕は僕を透かしてしまう。
「先月の文化祭で話しましたよ?高校始まって2ヶ月で文化祭するのおかしいね?って」
「嗚呼」
嗚呼じゃない。もっと、話してくれじゃないと彼女は
「バス、来ないですね」
そうですね。僕はあの頃と同じことを言った。
「そうですね」
この雨はチョコレートが溶けるより早く君が死ぬより遅かった。
ー2ー
「バス来ないですね」
ため息混じりで言った。
「そうですね」
今日は晴れていた。ただ、昨日の雨のせいで地面はぬかるんでた。
「昨日、大丈夫でしたか?」
昨日は君が傘を忘れた。僕は傘を貸した。
少しの沈黙が続いた。
僕は僕を羨ましく思えた。
「あの……」
先に口を切ったのは君の方だった。
「神様っていると思いますか?」
話が唐突すぎて空いた口が塞がらなかった。
僕が聞いた話、見た風景は少しずつ変わっていった。
「神様ですか?」
そう言った時にバスが来た。
ー3ー
「バス来ないね」
「まだ、時間じゃないからね」
そんなのどうでもいい。
僕がいた時は神の話なんてしてなかった。
「そうだね」
あいづちのように言葉を交わした。
なぁ昨日のこと教えてくれよ。僕が知ってる話じゃないんだ。
それでも、僕の声は聞こえない。
「そうだ。ねぇ」
「昨日の話覚えてる?」
そうだ。神の話
「覚えてないや」
「そっか……」
覚えてないやじゃない。彼女が死なないように僕は
あれ?僕は……
「神様の話なんですけどね?雨とか晴れとか神様が操ってるみたいじゃないですか?」
「君がそんなことを言うとは思わなかったよ。僕は好きなんだけどねこの雨が」
嗚呼、そういえば彼女と会って3日目だっけこの気持ちに気づいたのは
「そうなんですね」
彼女はポツリポツリと降る雨のようにポツリと言った。
僕が見てる僕と彼女の間に僕がいる。
僕は2人を見ている。
雨が寒い、帰りたい、帰らなきゃ
でも、どこに?
その日はバスが来るまで喋らなかった。
ー4ー
どこに帰ればいいのか分からない。
でも、帰りたい。今日は2人どころか誰も来てない。
そもそも、僕はなんで、ここにいるのだろう
誰とも話さない。誰とも話せない。
今も昔も話せないままだった。
でも、ここではこのバス停とあの子と……
バスがやってきた。
僕が走ってる。
時間がいつもと違う気がする。
僕が僕を見ている。
行くな……まだ、あの子は来てない。
帰るな!!!
僕は手を伸ばした。手を掴もうとした。
でも、僕は……
僕の手を握ろうとしたが握れなかった。
数分後……彼女が来た。
バスが来た。
彼女は乗らなかった。
「まだかな……」
嗚呼、彼女は待っていたのか……
いや、待っていたことを知っていたな
僕は彼女のことが好きだった。
僕は僕を見ながら気持ちを伝えろと思った。
伝えることが出来ずに今だって気持ちを伝えたいが他の人に僕は見えない
ー5ー
昨日も今日も晴れていた。
2日間、雨が降らない日は久しぶりだった。
「こんにちは……」
「こんにちは……」
ベンチに座っていた僕は彼女に話しかけられた。
僕は当然、昨日、彼女が待っていたのも知らない。
だけど、僕は知っている。
僕と彼女とその2人を見ている僕……
気持ちを伝えればよかった。
気持ちを伝えられなかった。
もう、手遅れだった。
嗚呼、好きだ
そう、思った時に思い出した。
ー6ー
僕は思い出した。
なぜ、いつも、変な時に記憶が乱れるのか
なぜ彼女と僕に触れられないのか……
僕は死んだんだ。あの時、彼女に初めて触れて手を取って彼女を助けて僕は
ー死んだー
「明日だね?」
そうだ。明日だ。
だけど、行くな……明日の花火大会で僕は君を
「そうだね」
言うな……あの言葉を言わないでくれ
僕の気持ちとは裏腹に僕は言ってしまった。
「一緒に行こっか明日」
嗚呼、もう、ダメなんだ。
ただ、僕は彼女と僕を見ているだけの存在で僕は2人を見ているただの『目』なんだ。
「うん……いいよ。」
好きな人と僕は2人で花火大会に行く
2人の会話を閉じるようにバスが来た。
「じゃまたね」
「うん、また明日」
ー7ー
僕は今日、死ぬ。
彼女を助けるために……
もしも、もしもだ。
僕に肉体があるなら肉体さえあれば……
彼女を助けられる。
嗚呼、なんで、僕は助けられないのだろう
心があれば魂があれば……
いや、心があれど魂があれど僕には肉体がない。
なんで、助けられないんだ。
僕が僕なら……
「こんにちは」
「はは、こんばんはですよ」
2人が会った。校門前だった。
僕は驚いた。僕はバス停にいたからだ。
「あ、蝶々だ」
彼女が指さした。
そんな笑う彼女に死んだ後で初めて気づいた恋心
「ほんとだ」
僕は蝶々など見ずに彼女だけを見ていた。
告白しろ。告白しろ。告白しろ。
運命を……未来を変えろ!!!
それから、30分が経った。
屋台の焼きそばなどを食べながら2人で笑いあった。
「花火、綺麗だね」
嗚呼、綺麗だ。運命が変わった。
花火を見る前に車に轢かれた彼女の近くに死を実感するほど血が出てて救急車も鳴っていたと思う。
花火の音を聞いて花火を見てやっと、僕は消えるんだ。
次の日にでも消えるのか僕と僕と君の3人で見る花火がとても綺麗だった。
花火が終わると帰ることになった。
座った芝生の上で指を重ねお互いに目を合わしたあとでかい花火の音で重ねた指を離れるあの瞬間と共に……
花火大会と学校までの距離がだいたい、15分ぐらいだったと思う
僕は蝶をこれほど恨んだことないだろう
未来を変えるには蝶が飛ぶそのわずかなことで変わってしまう。
ーバタフライエフェクトー
変わったのは『花火大会に行く時』ではなく『花火大会から帰る時』に変わっていた。
居眠り運転と彼女の周りに蝶が来たせいで彼女が死んだ。
そんなことになってたまるか
僕はそう言った後に彼女の元に走った。
どうせ、助けられない無理だ。身体が無いんだから……
どうせ、どうせ、僕には……
『無理なわけねぇだろ!!!』
自分が出した声に驚いた。が驚く暇もなかった。
彼女の背中を押した。
そして、僕は死んだ。
嗚呼、良かった。助けられたんだ。
もう、眠い……寝よ。赤い赤い血の中で彼女の大声を聞きながら
寝よう……
ー1ー
「雨が降ってきましたね」
死ぬスピードとチョコレートが溶けるスピードどちらが早いだろう
嗚呼、これが過去を変える話だろうと僕が見た走馬灯だろうと
『僕が』僕と君の話を見よう。
これが走馬灯にならぬように