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伸ばした手は届かない



 よ~し、いい感じに暗くなってきた。

 衛兵達もこの暗闇の中じゃ登ってる俺が見えねぇだろう。チャンスだ。


 このネックレス、綺麗だろ?

 昨日仲間と一緒に山の方まで遠出してさ、その時に廃墟からこっそり失敬した物さ。

 さすがに人から盗ったのを姫様に渡すのは気が引けるけど、誰のでもない拾い物ならいいかなって。


 ほら、黒い宝石なんてついてて、なんか珍しいだろ?


 へへっ……今日はさ、初めて会ってからちょうど一年なんだ。だから……その……なんていうか、プレゼントさ。




 へっ?愛の告白?

 ち、ち、ちげ~よ!何言ってんだ!


 だ~か~ら!俺と姫様じゃ身分が違い過ぎんだろ?

 それに、もしそうだったとしても!俺みてぇなゴロツキに好かれたってあっちは迷惑なの!

 なんせ婚約者だっているんだから!俺は邪魔者なの!


 そう、俺は邪魔者……邪魔な、やつ……




 ……あ、いやなんでもない!

 暗い顔してる?気のせいだって!ほらほら、ご覧の通り俺は元気さ!元気元気!


 いっけね!喋り過ぎた!

 じゃ、俺もう行くから!これ以上遅くなる前には行かないと……じゃ〜な!







 そう言うなり、盗賊の男は城に向かって走っていった。


 始終よく通るはっきりした爽やかな声で、彼の性格をよく表していた。その生業は別として、素性は誠実な好青年のようだった。

 その胸の内に秘めた想い、それが叶わぬものだと知っていて……それでも彼は今日も必死に壁を登り姫の元へ。


 愚かな男だ。

 身分差云々よりも、まず彼女には王子という愛する人が他にいるのだから。衛兵にもし見つかりでもしたらおそらく処刑。


 ただの横恋慕、ただ勝手に惚れて勝手に悩んでいる……乱暴に言ってしまえばそう。第三者から見れば悪いのは彼の方。諦めなければならない恋。


 しかし一度燃え上がってしまった炎、そのまっすぐな想いは呪いとなって。

 どうしても諦めきれないという気持ち、そして行き場のない想い……そんな彼自身の純粋な気持ちが彼の心を蝕んでいた。








 その言葉通り彼は壁をよじ登っていき、だいたい十五分くらいで最上階の窓に辿り着いた。


 しかし、着くなりその体は今にも落ちそうにふらふらと揺れた。

 ズボンのポケットに片手を突っ込み、もう片方は壁について体を支えて……危ない中、力いっぱい引っ張ってようやく飛び出したそれは。


 あのネックレスのようだ。夜の暗闇の中でも溶け込むことなく強く輝き、はっきりとその存在を示すその宝石。




 そして、肝心の姫はというと……


 今日は駄目だった。

 しばらく彼はそこにいたが、待てど暮らせど部屋の明かりがつくことはなく。


 彼は手に持ったそれを窓格子の隙間から中にそっと滑り入れて、名残惜しそうにゆっくりと窓から体を離した。




 プレゼントが終わり、ほっとするのもつかの間。

 そればかりに気を取られていた彼は突然の強風によろめき、足を滑らせてしまった。

 さっきまで足を置いていた窓の突起。そこに手をかけぎりぎり留まったが、両足は宙に浮いていて。




 異様な光景に気づいた町民達は次第に騒ぎ始めた。

 「おい、あんなところ誰かいるぞ!」だとか「なんだあれ?落ちるんじゃねぇのか?」とか口々に言って。


 そんな中、部屋が急にぱあっと明るくなる。やっとこのタイミングで姫が自室に戻ってきたようだ。


 部屋に入るなり、周りの騒ぐ声に気付いた姫。

 何事かと窓の外を見たが、そこには騒いでいる野次馬の集団があるだけだった。


 それでも彼は力を振り絞ってわずかな壁のくぼみに足をかけると、必死に片手を伸ばし大きく振って何かを叫んでいた。


 なんと言っているんだろうか。


 「今までありがとう」なのか、「さようなら」なのか、それとも……




 しかし無情にもそれは風の音でかき消され。

 必死に伸ばした手も窓の下、姫の視界には入らず。


 次々と集まる野次馬達に不思議そうな顔をしながら彼女はカーテンを閉めた。




 それは満月の美しい夜だった。


 夜も深まり、野次馬もいなくなった頃。

 彼の腕は限界を迎え……そして静かに落ちていった。



四作目。宝石バトンリレーはまだ続く……


読んでいただきありがとうございます!

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