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どんな宝石よりも美しい



 それで、姫様は俺の方を向き直してこう言った。


「ごめんなさい、もっと私が早く駆け付けていれば……」

「と、とんでもない!まさか姫様に助けて頂くなんて……そんな、恐れ多い……!」

「あら?早速バレちゃったのね、せっかく変装してお忍びで来てるのに」

「そりゃあなんてったって、町じゃ姫様の話で持ちっきりで……」

「私、まだ結婚前だから姫じゃないんだけどな。みんなもう気が早いのね」

 なんだか意味ありげな言い方だったけど、この時の俺は緊張しすぎてそれどころじゃなかった。

「でも、どうしてこんなところに?」

「見てたのよ、あなたとおばあさんが話しているところから。ちゃんと取り返せたみたいね、さすがだわ」

「さすがなんて、そんなそんな!お褒めて、お褒めいただだ、お褒めいただき、あ、ありが……」


 言い慣れないセリフに噛み噛みで。今思い出すと恥ずかしい。

 しょうがねぇだろ?だって、普段敬語なんてめったに使わねぇし……


 まぁでも、それを見て姫様は大爆笑さ。口を思いっきり大きく開けちゃって。

 あはははっ、とカラッとした明るい笑い声が耳に心地良かった。


 お偉いさんとかがよくやる抑え目な笑い方……何か隠してるようなそういうもやっとする笑いじゃなくて、普通に思いっきり今のこの瞬間を楽しんでる笑いだった。


「ああ、笑った笑った。おっかし……敬語なんていいわよ、ここじゃあくまで町娘のふりしてるんだから」

「で、でも……」

「いいの!私の命令よ!姫様呼びも禁止ね!」


 敬語を使わないよう命令されてしまった。そんな命令ありかよ。まじかよ。


 でも、相手は一応お偉いさんだし。

 じゃあどうすりゃいいんだ?えええどうしよ……


 そんな感じに眉間に皺を寄せて考え込む俺にまた彼女はおかしそうに腹を抱えて笑って。


 なかなかフランクな感じの姫様だ。

 王家っていうともっと偉そうなイメージあったけど、彼女はなんだか様子が違うみたいだった。


「そもそも、姫さ……あ、いや、君はどうしてここに?」

 せっかくだから、と思ってなんとなく聞いてみたんだけど、姫様はふぅ、とため息をついて俯いてなんか言いづらそうで。

 だからやっぱ無理には言わなくていいって言おうとしたら、俺が口を開いたタイミングにちょうど被せるように答えてくれた。


「未だに宮廷生活に慣れなくて……なんだか居心地が悪いのよ、あそこは」

「あれ?最初からあそこに住んでたんじゃないのか?」

「ええ。もともと農家の娘だったの、町で王子に会って見初められるまでは」

「えええっ?!ってことは農民から王族に?!な、なんかすげぇ話だな……」

 まるでおとぎ話だ。まさかほんとにそんなことあるなんて。


「最初はそれこそ全く違う環境で戸惑いっぱなしだったわ。言葉遣いやらマナーやらごちゃごちゃ多いし、ドレスは重くて前みたく走り回れないし、乗っていいのは馬だけで牛とかロバは駄目、木登りは禁止……」


 ずいぶんお転婆なお嬢さんだ。今度はおもわず俺が笑ってしまった。


 農民出身。それがこの親近感の正体だった。

 でもそこから王子に求婚されるくらいだもんな、そりゃあ美人なわけだ。納得したよ。




 その後もしばらく喋るのに夢中で、カラスの声でふっと我に返った。

 気づいたら青空は夕焼けに変わっていて。


「あら?そろそろ時間だわ、帰らなきゃ。怒られちゃうんだもん」

「おお、気をつけてな」

「ええ。楽しかったわ、またね」




 そうやって見送った後、ばあちゃんに壺返してやったらちょうど夕飯時でさ。お礼にってご馳走してもらったんだ。

 それがまた、すげえうまかったなぁ。




 ……とまぁ、それが始まりだ。俺と姫様が知り合いになった最初のきっかけ。


 姫様ってほんと綺麗な人でさ、見た目も内面も。

 澄んだ青い目、サラサラの長い髪に、屈託のない眩しい笑顔。まさにべっぴんさん。

 それでいて行動力があって、誰にでも分け隔てなく接して。優しくって。


 今まで奪ったどんな宝石よりも、ずっとずっと綺麗で……




 えっ?!

 べ、べ、別に好きとかじゃねぇよ!


 姫様には王子がいるし!


 それに盗賊と姫だぜ?!

 月とスッポン!天と地の差!いくら俺だってそんくらい分かる!

 ただ綺麗な人だな~って思っただけで、別に下心なんてねぇから!全然!


 顔が赤い?!ち、ちげ〜よ!暑いんだよここが!


 もう、うるせぇな。からかいやがって……

 まだ続きがあんだよ、話戻すぞ!




 それでさ。俺は毎晩こっそり城壁を登って、姫様に会いに行ってるんだ。

 部屋には入らない。外に窓枠が出っ張ってるから立って乗っかってそっから話すんだ。

 窓の格子ごしだけど姿はお互いちゃんと見れるし、会話だって問題ない。


 姫様の部屋は最上階、五階の端にあるんだけど……五階、分かるか?その辺の建物なんかより全然高い。

 その辺の町の木すらそのてっぺんが下に見えるくらいだ。


 登ってくんだよ。それを。


 どうやってって……そりゃ、崖を登るのと同じだよ。

 城壁って結構でっぱり多くてさ。引っかかるとこ見つけて、手足かけてよいしょよいしょと登っていくのさ。

 ところどころ途中で難所はあるけど……でもまぁ、だいたい十五分くらいあれば登り切れるかな。だいたいそんくらい。


 もちろん時間かかるし、もし怪我したり疲れてたりしたら行けないだろうな。

 でも今のところほぼ毎日きっちり行けてる。


 ほぼっていうのは……あんま時間遅いと姫様に迷惑かかっちまうから、何回か途中で引き返したんだよ。

 これから寝ようってときに行っちゃ悪いだろ?


 んで。数分ちょこっと喋って降りる、と。


 姫様は俺が来る度に毎回驚くんだけど、最近じゃ私もどこか登ってみたいなんて言いだしてさ。なかなかガッツあるよな。


 姫じゃなくて盗賊だったら……よかったのにな。





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