3-9 冴えない大学生は希う
夜の十時ごろにバイトから帰ってきてすぐに風呂に入った。
しばらく湯船につかりながらぼーっと思案にふけっていると、そろそろのぼせてきたのでざぱりと風呂から上がる。
一時間も入っていたらしい。いままでにないくらい頭がくらくらした。
寝巻に着替えてから、風にあたりがてら近くの自販機でジュースを買いに部屋を後にする。
さびれた階段を静かに降りてとぼとぼ自販機まで歩く。ふと空を見上げれば、吸い込まれそうになるほど深い夜空が待ち受けていた。
田舎の空はきれいだ。都会のように視界を遮る高い建物がないし、空気が澄んで星がよく見える。
「......すぅ」
少し足を止め、胸いっぱいになるほど大きく息を吸い、ゆっくり吐き出す。
そろそろ頭も冷めてきた、思考が正常に戻っていく。
自販機の前に着いてなにを飲むかと悩む一方、考えるのは今日の昼のことだ。
――そんなの、あり得るわけないよ
思い出した瞬間、せっかく風呂に入ったのにまた嫌な汗がぶわっと湧き出すのが分かった。全身の筋肉がこわばって、奥歯がカチカチと音を立てる。
「......くそっ」
それを振り払おうと、思いっきりスポーツドリンクのボタンを押した。
下の取り出し口からポットボトルを取り上げて、一気にあおる。
「......っぷはぁ!」
口の端からあふれた水滴が鎖骨を伝って気持ち悪い。でも、それで少しは気持ちが落ち着いた。
一度周りを確認して、今の醜態を他人にさらさずに済んだことに安堵の息を吐く。
そしてまた軽く一口ペットボトルに口をつけ、俺はアパートに向けて歩き出した。
――はじめから、いつかこうなることはわかっていた。
広いようで実は狭い田舎のことだ、いつまでも隠し事をそのまま押し通せるほど甘くない。
たしかに今回は最悪の形だった。人によってはそのままドロップアウトだって考えられるくらいの衝撃だと思う。
俺はこういうのが二度目だったからよかったが、もしこれを初回に食らっていたなら一発KOに間違いない。
まさに紙一重。一つでもずれていれば人ひとりの人生が変わっていたかもしれない。
でもきっと、これで守れたものもあったはずだ。
小幡は俺との関係を大々的に否定することで、また以前のような楽しくキャンパスライフにもどる。もちろんはじめから完全に元通りというわけではないだろう。
でもその齟齬もたぶん一時的なものだ。いつか時間が解決してくれる。
そのために失ったものが大きくて、それが盆に返らなかったとしても、それでも俺は構わない。
「......俺の大学生活、なんてハードモードなんだ」
全部自分の自業自得である。




