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田舎の根暗大学生、陽キャに絡まれる  作者: 古月湖
第二章
10/43

2-5 オタクに優しい陽キャはモテる

「おーいけたいけた~」


「いやー、いまのやつ結構強かったな」


 ゲームを開始して三十分。

 初めのほうこそ小幡の存在ばかり気にしていた俺だが、最初のボスキャラをクリアする頃にはもうすっかりゲームに夢中になっていた。

 画面の中では巨大なイノシシのようなモンスターが倒れている。おそらくソロプレイなら初見じゃ厳しい相手だったと思うが、今回は小幡とのマルチプレイだったので行動パターンを見極めるのに十分な余裕があった。


 小幡のゲームの腕は意外と良いらしく、しっかりとパターン攻撃を回避したり、攻撃の後隙をついて反撃したりと、およそ素人の実力ではない。

 さっきまで「なにこのゲーム、知らないんですけど」を連呼していたやつとは思えない。


「えっと次は......西の街に行け、だってさ。うへ~、ちょっと遠いね」


 小幡はそういいながらも、早速向かうのかキャラクターを移動させ始めていた。

 俺の動向など知ったこっちゃない。ゲームの中でもちゃんと傍若無人っぷりは健在だ。


「なにしてるの佐伯、早く」


 横からひじでつつかれたので、コントローラーを握りなおしキャラクターを操作して目的地に向け走り出す。


「――そういえば、大学は大丈夫なのか?」


 ふと疑問に思ったので、なんとなくそう訊いてみた。


「......」


 少し待ってみるも返答がない。

 さらに待ってみてもまだ返事が来ないので視線を小幡のほうへ向けると、シラーっとした目で俺のことを見ていた。


「な、なに......?」


 これはなにかいけない質問だったのだろうか......。

 俺が聞き返すと、小幡はあきれたように息を吐いた。


「なに、はこっちのセリフなんだけど」  


「え?」


「だってほら、今日の二限」


「......あ」


 特大ブーメランだった。

 大学が大丈夫じゃなさそうなのはこの場においてどう考えても俺のほうだろう。

 今日はもう完全に休日の気分だったのですっかり忘れてたが、俺って学校サボってんだよな......。

 ......そう考えると、小幡が今ここにいるのは少し変な感じがするな。


「佐伯、わたしが二限の授業行ったらいつもの席にいないんだもん。びっくりしちゃった」


「はあ」


「でも普通に元気だし、問題なさそうだね」


 小幡は俺の身体をみて満足そうにうなずく。

 そしてそのまま流れるようにゲームに戻ろうとする小幡に、ギリギリのところで待ったをかけた。


「なに?」


 幼稚園の頃の写真とは似ても似つかない、気の強そうな顔だった。


「小幡さんは、大学大丈夫なのか?」


「だから、それ、佐伯が言うこと?」


「......俺はまあ、今日はサボりたい気分なんだよ」


 なんとも幼稚な理由だけど、これがまかり通ってしまうのが一人暮らしの大学生である。

 もはや開き直った俺に、小幡が「うわあ......」と顔をしかめた。


「い、いいから! 大学、行かなくていいのか?」


 ふと時計を見れば、今はちょうど二限と三限の間にある昼休みの時間だった。

 ここから大学までは二十分弱。今から出れば十分に間に合う時間だ。


「ていうか、なんで今日来たんだよ」


「それは、学校行ったら佐伯が休みで」


「だから体調が心配になって、家に来たのか?」


 その質問に小幡は首を振らなかった。

 瞬間、一つの可能性に思い当たる。


「――木村のせいで俺が休んだと思ったのか?」


「っ!」


 どうやらビンゴだったのか、びくりと小幡の方が跳ねる。

 ......なるほど、どうりで。


「もう大学戻れよ、雨もちょうどやんでるし」


 ちょっと気持ちが入って強い言い方になってしまった。

 しかし雨がやんでいるのも事実だ。まだ空は曇ってるし、このタイミングを逃せばまた次のチャンスは数時間後だろう。


「あっ」


 進行をセーブしてテレビの電源を消すと小幡が声を上げた。

 それに構わずコントローラーを回収し自分のとまとめて片付ける。

 ......木村のせいで俺が休んだら木村と友達の自分も被害を被るかもしれない。

 だから先に俺にも気を遣っておくことで、自分への被害は最小限に抑える。

 まあそんなところだろう。

 高校じゃあるまいし、バカらしい。


「......」


 目で促すと、ようやく小幡が立ち上がった。

 それからバッグを肩に掛けて部屋を後にする。

 小幡の背中が完全に見えなくなるまで待ってから扉を閉じて、今度はしっかりカギをかける。

 ......。


「ゲームすっか......」


 結局それしか思いつかない俺だった。


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